日本の化粧品は「品質が高い」のに、なぜ世界で韓国コスメに押されているのか。この違和感は、SNS上でも議論を呼んだ。
実際「日本のモノづくりはトップクラスであり、韓国コスメの流行はパッケージやSNSマーケティングの巧みさによる一時的なトレンドに過ぎない」とする見方もある。

確かに日本の研究開発力は高く、品質面での信頼は揺るぎないように見える。しかし、一時的なトレンドという見解はあまりに楽観的ではないだろうか。

実は韓国ではマーケティングに留まらない「文化づくり」と「企業戦略」が整っており、日本とは異なる競争環境が生まれている。こうした構造の違いは、K-POPアイドルのような存在が象徴する“美の基準”とも無関係ではない。国内外のスタートアップ事情に詳しい佐野Mykey義仁氏に、その背景を聞いた。

良質な商品を作っている“だけ”では、韓国コスメに勝てない

「韓国コスメが勝つというのは、必然的に起きています。スタートアップ関連の相談を受けることも多いですが、今の日本のやり方では『正直言うと勝てないですよ』と伝えています」(マイキー佐野氏、以下同じ)

韓国コスメブランドのSNSマーケティングがうまい、という側面ももちろんあるが、本質はまったく違うと佐野氏は語る。なぜ韓国コスメがこれほど注目されているのか。そのポイントは『文化づくり』と『企業戦略』の2つに分けられるという。

「ただ流行りを作っているのではなく、『美とは何か』という定義や哲学、社会的枠組みそのものを国家や企業が戦略として組み込んでいるのです。ただ良質な商品を作って売るという日本の考え方とは違い、学問や哲学の分野がものすごく使われています」
無名ブランドが、世界レベルの品質を生み出す韓国コスメのカラクリ

日本の化粧品産業は、モノづくりにおいて極めて高い水準にある。
資生堂の事例を挙げると、売上高に対しておおむね3%程度の研究開発投資を維持する方針を掲げており、巨大な自社工場で徹底した品質管理のもと大量生産を行うという伝統的なモデルを採用している。

この手法は、品質やブランドの一貫性を担保する強みがある一方で、数万個単位の初期在庫を前提とする自社生産モデルは、トレンドへの適応を遅らせる要因にもなり得る。

事実、中国市場への依存度が高かった資生堂は苦戦を強いられている。もっとも、韓国大手も一様に好調というわけではない。LG H&Hは2025年に苦戦が鮮明だった一方、アモーレパシフィックは中国の弱さを日本や東南アジアなどの伸びで補う局面も見られた。しかし、韓国では新興のインディーズブランドが凄まじいスピードで成長を遂げている。

「韓国の強さは『エコシステム』にあります。コスマックスやコルマーコリアといった巨大なOEM企業だけでなく、商品企画から研究開発、製造までを一貫して請け負うODM(Original Design Manufacturing)企業も強力な存在感を放っていて、自社工場を持たない小規模ブランドでも、一定水準の品質を持つ製品を比較的短期間で開発できる体制が整っているのです」

韓国のコスメ市場には、言うなれば世界最高峰の設備と、一流のシェフがそろった巨大な「共有キッチン」が最初から用意されているのだ。

「アイデアやレシピさえ持っていけば、プロが料理して中身を仕上げてくれます。おまけに世界中のデータが蓄積されているから、流行を捉えるのも早いわけです。これが、韓国でインディーズブランドが次々と生まれ、東南アジアやヨーロッパへ輸出を急速に拡大できている最大の理由です」
なぜ「世界で最も美しい顔100人」上位に韓国勢が多いのか

製造のスピード感に加えて、韓国ではどの顔の比率にすれば一番美しいかという『美の標準化』を、データ分析や美容医療の発展によって、理想とされる顔立ちの傾向が可視化されてきた側面もあるという。

毎年発表される「世界で最も美しい顔100人」や「世界で最もハンサムな顔100人」といったランキングに、男女問わず韓国勢が多数ランクインするのも、こうした傾向がランキング上での韓国勢の存在感につながっている可能性もある、とマイキー佐野氏は示唆する。


「具体的には、BTSのテテ(V)がトップクラスのイケメンに選ばれたりしていますが、あのトップ100のランキングの3割近くを韓国勢が占めることもあるほどです。彼らは3DフェイシャルスキャンやAIを導入して理想的な顔の比率をデータ化し、それに近づけるためのツールとして美容外科や化粧品ブランドが存在しているんです」

さらに、日常的に使われる写真加工アプリの存在も大きい。アプリを通せば、誰もが黄金比に補正された「理想の自分」を簡単に見ることができる。だが当然ながら、そこには鏡に映る現実の自分との間に明確なギャップが生まれる。

「このギャップを生み出すことによって、『この商品を使えばこの顔になれるかもしれない』という消費欲求を高めさせているのです。リアルな美容技術、美の標準化データ、そしてデジタル空間のカメラ。この三角形で理想的なモデルを形成する仕組みが、産業政策や市場環境と結びついた構造として機能しています」

後編では日本化粧品業界が韓国企業に勝つための戦略を聞く

西脇章太 にしわきしょうた 1992年生まれ。三重県出身。県内の大学を卒業後、証券会社に入社し、営業・FPとして従事。現在はフリーライターの傍ら、YouTubeにてゲーム系のチャンネルを複数運営。専門分野は、金融、不動産、ゲームなど。公式noteはこちら この著者の記事一覧はこちら
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