トルシエ体制下でW杯落選を経験した中村。当時のショックは相当なものだった(C)産経新聞社
2026年北中米ワールドカップ(W杯)に挑む日本代表メンバー26人の発表が5月15日に迫ってきた。
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まず98年。この時のメンバー発表は2段階方式だった。5月7日に岡田武史監督(現FC今治代表取締役会長)が都内で記者会見を開いて予備登録メンバー25人を発表。その陣容で事前キャンプ地のスイス・ニヨンに赴き、登録締め切りの6月2日に最終の22人を明らかにするという段取りだった。
今とは違って28年前は情報統制が緩く、前日のうちにはJリーグ各クラブに連絡が行く仕組みだった。となれば、当然、情報漏洩もしやすくなる。実際、前夜のうちに一部メディアからメンバー25人が加盟者に配信されたのだ。
実は筆者もある会社から頼まれ、関係者に電話しまくったところ、当落線上と見られた残り2人のところに服部年宏(磐田U-15監督)と伊東輝悦(清水アンバサダー兼教育事業部コーチ)が入ったことが分かった。
駆け出しの記者でも情報を入手できる状況に岡田監督はもちろん憮然としていた。会見の冒頭にも「こんな会見を開く必要はないんじゃないですか」と苦言を呈したほど。
カズについての質問も出て、「カズは今、世界を経験している唯一の存在。その経験は非常に大事。自分のためだけではなく、チームに尽くせる選手だと思っている」と岡田監督は語っていた。だからこそ、多くのメディアが「カズはフランスに行くだろう」と信じて疑わなかったのだ。
しかしながら、当時41歳の青年指揮官は多くの人々の予想を覆す判断を下した。それが6月2日の青空会見だ。日本のゴールデンタイムの20時に合わせて現地13時から練習場で行われた発表の場には200人超の報道陣が集結。そこで岡田監督は開口一番、こう言ったのだ。
「今日の夜が登録の締め切りということで、22名の登録選手を選びました。今朝決めて、昼にそれぞれに伝えました。外れるのは市川(大佑=清水U-18監督)、カズ、三浦カズ、北澤(豪=JFA参与)。
私の見込みが甘かったせいもあり、彼らは予想以上のショックを受けていました。チームへの影響も考えて、本人たちは『日本のため、チームのためにやりたい』と言いましたが、カズと北澤には帰ってもらった。市川は影響が少ないので残すことに決めました」
カズ落選という現実に報道陣は慌てふためき、何人かが一目散に場を離れた。だが、会見が終わった頃には、すでにカズと北澤がホテルにいないという情報が入ってきた。
「カズはどこへ行ったのか」「駅か」「ジュネーブの空港か」と多くの記者が駆けずり回ったが、なかなか見つからない。結局、翌日にカズがイタリアのミラノにいることが分かり、記者数人が現地に向かって直撃したが、そんな追跡騒動が起きたのもこの時だけだ。
現地で発表されたカズの落選は日本に大きな衝撃を与えた(C)産経新聞社
カズ落選後の選手たちの動揺も凄まじかった。2日夕方の練習にやってきたキャプテン・井原正巳(水原三星コーチ)は「W杯に行く人数に制限があるのでしょうがない。みんなそれを分かってここにきているので、残った選手全員で戦うしかない」と沈痛な表情を見せたが、直後のハーフコートゲームで負傷してしまった。懸命のリハビリの甲斐あってキャプテンの本大会欠場は免れたものの、日本が初参戦したW杯直前のチームマネージメントとしては、必ずしも成功したとは言えないだろう。
それから4年が経過した日韓W杯のメンバー発表当日。
「DF秋田豊(琉球デイゴス・スーパーバイザー)…、FW中山雅史(沼津CRO)」
2002年5月7日・14時。東京プリンスホテルの壇上に上がり、1人で選手の名前を呼んだのは、木之本興三・日本代表チーム団長。リストを作成したフィリップ・トルシエ監督は欧州にとどまり、会見を欠席するという異常事態が起きたのだ。
「トルシエは俊輔落選の批判をかわしたかったから逃げた」とも受け取られないような対応で、その場に集まったメディア関係者も呆れたが、俊輔落選が現実になったのは紛れもない事実。17時から横浜・東戸塚にあった横浜F・マリノスの練習場で俊輔がメディア対応するという情報を聞きつけた筆者は、仲間とタクシーに相乗りして現場へ急いだ。
ギリギリに到着して中に入ると、テレビ環境者や新聞・雑誌記者など総勢100人以上がクラブハウス内に集まっていた。クラブ側は松田直樹、中澤佑二(解説者)、俊輔の3人が選ばれることを想定し、3人で記者会見を開くつもりで準備していたが、その場に表れたのは松田1人。しかも落選した俊輔の方に注目が行ってしまい、晴れがましい場に表れたはずだった松田が苦渋の表情を浮かべていたことが脳裏に焼き付いて離れない。
それから1時間くらい経ってから、会見場から少し離れたロビーにボサボサ頭の俊輔が現れ、最初にテレビ取材を受け、我々ペン記者のところにやってきた。
「何も言わないといろんな憶測を書かれるから、ハッキリ喋った方がいいと思って、会見を開くことにした」と本人は言う。カズ落選当日の様子を彼が知っていたかどうかは分からないが、当時のような混乱は避けたかったのだろう。
中村は今回のW杯で日本代表コーチとして選手を支える(C)Getty Images
打ちひしがれている俊輔に多くの記者が同情し、擁護する質問をした。「目標をなくした喪失感はあるか」と聞かれた彼は「今はないけど、大会が始まったら思うだろうね。俺は第三者的にはサッカーを見れないタイプだから」と返す様子に一抹の寂しさが見て取れたのは事実だ。
だからと言って、肝心のトルシエとの関係性に切り込まないわけにはいかない。筆者は勇気を振り絞って「この4年の間に自分の考えをトルシエにぶつけたことはあったか」と聞いた。「それはない」と返す俊輔に対し、「なぜ言わなかったのか」と問いかけた。すると本人は「そういうのは監督と話すことじゃないから」と淡々と話した。
彼と指揮官がお互いに歩み寄っていたら、トルシエは何らかの形で俊輔をメンバーに残し、起用したいと考えたのではないか…。筆者はそう考えたから、あえて本人に尋ねたのだが、当時はお互いの意思疎通が足りなかったようだ。「2002年W杯でプレーする俊輔を見たかった」という気持ちは今も変わらない。それは筆者1人だけではないだろう。
あれから24年の月日が経過し、日本代表コーチとして選手を支える側になった中村俊輔。
[取材·文:元川悦子]



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