鶴見辰吾と伊藤かずえが夫婦役として共演を果たす映画『埼玉家族』が公開中だ。共演は、大映ドラマ『ポニーテールはふり向かない』以来、実に27年ぶりのこと。
2人を直撃すると、「いつでも共演できると思っていたら、なかなか機会がなくて!」(伊藤)、「27年とは、自分たちでも意外だよね」(鶴見)と、顔を見合わせて大きな笑顔がこぼれた。映画の見どころから、大映ドラマの思い出までをたっぷりと語り合ってもらった。

【関連】懐かしの話題から、厚い信頼関係を感じられる『埼玉家族』インタビューフォトギャラリー

 本作は、新進気鋭の監督4人が、埼玉県に住むごくごく普通の家族をテーマに、父親・母親・息子・娘、それぞれの物語を4編のオムニバスとして描いた作品だ。『ポニーテールはふり向かない』のほか、『スクール☆ウォーズ』、『乳姉妹』など、数々の大映ドラマで共演を重ねてきた鶴見と伊藤。夫婦役を演じるのはどのような心境だったろうか。

 鶴見は「僕達は若い時に、密度の濃い期間を一緒に過ごしていますから。最初から、非常に良い信頼関係が出来上がっているんです。夫婦間の独特なニュアンスも、ごく自然な形で成立させることができた。そういうのは、長い間、役者をやってきた我々の財産、武器のひとつだと思うんです」としみじみ。伊藤も「演じる上で、探り合ったり、相談したりもせず。『鶴見くんなら、やっちゃって大丈夫だろうな』と思っていました」と厚い信頼を寄せる。

 父親・母親・息子・娘の立場・視点から、1編ごとにそれぞれの悩みが浮き彫りになる本作。
テイストの違った表現が楽しめる上に、最後には「家族とは何か」と優しく語りかける、ひとつのまとまった物語に見事に仕上がった。鶴見は「僕が主人公のパートは、ミュージカル映画。想像上の出来事としてステージに上がって、心情を吐露していくという形で。現場は非常に楽しかったですね。しかも、“泣き”の王道的な部分もしっかり押さえている」と述懐。

 「私、まんまと泣いちゃった!」と伊藤。続けて「本当に、それぞれは全く違うタイプの映画」というが、その言葉を受けて鶴見が「かずえさんのパートは、ロードムービーのようでスリリングだし、森田(涼花)くんのパートは、甘酸っぱい青春もの。大野(拓朗)くんのパートは、しっかりとしたラブストーリーとして描かれている。すべてのパズルがうまくはまったというか、ドミノのクワトロピザみたいだよね(笑)。色んな種類のピザが、きちんとひとつの箱に入っている」と完成作に胸を張る。

 今回は夫婦役を演じたが、2人が出会ったのは、本作でいう娘・息子世代のことだ。「お互いに27年の変化を感じるか」と聞いてみると、「鶴見くんは、昔からすごくしっかりしていた。
色々なことを勉強していて、尊敬していたところもあります。自分の信念をちゃんと持っていて、それでいてちょっとお茶目な部分もあるんです(笑)。そういう根本の部分は、まったく変わらない」と伊藤。一方の鶴見は「とにかく、彼女は真面目で努力家。でも努力をしていないようなふりをするところがある」とニンマリ。すかさず「そんなことないよ!」と伊藤が答えるなど、2人の間に流れる穏やかな空気が心地良い。 鶴見演じる父親が主人公のミュージカルは、ギターが物語の要となるなど、大映ドラマで育った世代には『ポニーテールはふり向かない』を彷彿とさせるところも。鶴見は「あはは! そうだね。あのドラマでは、俺が弾いていたギターの弦が切れて、彼女は失明しちゃうんだからね!」と笑い、伊藤も「そうそう!」と大きくうなずく。当時を振り返ってもらうと、伊藤からこんな話が聞けた。「『ポニーテールはふり向かない』では、実際に私がドラムを叩いていたんですが、『乳姉妹』の終盤の撮影とドラムの練習が重なっていて。たいてい、大映ドラマの終盤って、長いセリフが多いし、死にそうになったりと苦労するんです(笑)。
その頃は、ドラムの練習をして、ドラマの撮影をして、高校にも通ってと、本当に大変でした」。

 1980年代に大ブームとなり、パワフルなドラマを生み出し続けた大映ドラマシリーズだが、そこで培ったものは「根性と気合!」(伊藤)、「忍耐力!」(鶴見)と、楽しそうに声を合わせる。そんな2人にとって、お互いの存在は「同じ学校を卒業した同級生みたいなもの」と鶴見。伊藤も「何年経っても、すぐにあの頃に戻れる。そんなに頻繁に会っていなくても、『実はこんなことがあったんだ』と、何でも話せてしまうんです」と、得たものは限りない。

 ちなみに伊藤が『ポニーテールはふり向かない』で印象に残っているセリフは、「お父さん、頭の中がスパゲッティになっちゃうよ!」と亡き父に語りかける一言だとか。思わず「懐かしい!」と思った大映ドラマっ子たちも、今や親世代となり、家族の大切さを実感している人も多いはず。『埼玉家族』は、まさにそんな人の心にこそ、響く作品だ。最後に改めて、「家族とはどんなもの?」と聞いてみた。「小さなことでも、面倒くさがらずに話し合っていくことが大事だと思う。私自身、親になって初めて、無償の愛というものを知りました」(伊藤)、「家族は、社会を作っている一番小さな単位。大げさなことを言うと、人間って、人を支配したいとか、屈服させたいとか思うものだけれど、そういった争いごとに向かう芽を、小さなところから摘み取っていくのが、家族の仕事だと思うんです。
そんなことを、本作から感じてもらえたら嬉しいです」(鶴見)。(取材・文・写真:成田おり枝)

 『埼玉家族』は新宿ピカデリー、MOVIX川口、なんばパークスシネマにて上映中。
編集部おすすめ