4月23日に映画『イヴ・サンローラン』が公開される。その告知を観て思ったのは「最近、ファッションデザイナーやブランドに関する映画が増えてるのか」ということだ。


日本では2009年に『ココ・アヴァン・シャネル』『ココ・シャネル』『シャネル&ストラヴィンスキー』が公開されているし、米版VOGUE編集長アナ・ウィンターの『ファッションが教えてくれること』も09年に、『プラダを着た悪魔』も2006年に公開されている。
こうした傾向について、ある映画関係者はこんな話をしてくれた。

「ブランドというより、“女性の華やかな生き方”がテーマの映画は増えていますね。こうした映画を好きな人は、『セックス・アンド・ザ・シティ』が好きな人とかぶることが多いんですよ。映画に行くときにオシャレしていく女性も多くて、なぜかと聞くと、『気分がアガるから』だそうです」

では、『イヴ・サンローラン』も「女性がアガる」映画なのか。買い付けに携わったファントム・フィルムのマーケティングマネージャー・青木真理子さんに聞いた。
「確かにシャネルの映画が複数本公開された時期、シャネルやアナ・ウィンターなど、女性のライフスタイルとモードをフィーチャーした作品の流れはありました。でも、『イヴ・サンローラン』を買うときにはその流れは考えていませんでした。もちろん参考類似作品としては挙げていましたが、イヴ・サンローランは男性ですし、もともと興味を持ったのは、“ファッションの神様”と言われる人がどんな人生を送ったのか。モノ作りに対する真摯な姿勢や苦悩・愛情などです」

そもそも企画段階では、サンローランが亡くなった後に、生涯のパートナーであるピエール・べルジェが行った骨董品、美術品のオークションに焦点をあてる作品になる予定だった。ところが、製作の過程で脚本が大きく異なり、二人の関係性やモノづくりの愛情・情熱が主題に変わっていったのだという。

ところで、日本人の場合、イヴ・サンローランのロゴを知らない人はほとんどいないが、シャネルやディオールなどに比べると、「誰が着てるの?」と思う人もけっこういるのではないだろうか。

ところが、フランスではイブ・サンローランは「国宝的人物」なのだという。
「シャネルやディオールなど、著名なブランドはもっとほかにもあります。でもイヴ・サンローランは、約50年もの間、オートクチュールを大切にし続け、たった一人でチーフデザイナーを務めてきました。長年の間、賞賛されたり非難されたり、売れても売れなくてもモノ作りをし続けるということ。そのプレッシャーや根気、アイディアは並大抵ではないと思います」

こう聞くと、タイトルから想像する「遠い国の華やかな世界」というよりは、日本人にとってなじみ深い「努力」「継続」という「職人の世界」にも思えるけど……。
「実はこの作品の前に、私自身、『ゲゲゲの女房』の配給宣伝をしたんですが、水木しげるさんが売れても売れなくてもずっとマンガを描き続けたことや、布枝さんが支えてくれていた関係性に、イヴ・サンローランと彼を支えたパートナーのべルジェが似ている、と思いました(笑)。全く別の世界ではありますが、どちらにも共通する『モノを一から作ること』『やり続ける』という偉大さは、凡人にマネできないものですよね」

10万点以上の素材を持ち、華やかに作ることもできたはずだが、それはあえてしなかった。女性の「アガる」気分や共感、華やかさというよりも、男性的な視点からのモノ作りの「ホンモノ」感や情熱に重きを置いた、しみじみと心に残る作品なのでした。
(田幸和歌子)
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