でも、それだけじゃない。こんな有意義な使い道だってある。東京大学・筑波大学などの現役大学院生3人は、共同で“透明薄膜の表面変化を用いた材質感ディスプレイ”を開発したらしい。
わかりにくいだろうか? 端的に説明しよう。なんと、シャボン玉の膜に映像を映すことができるのだ。“シャボン玉のスクリーン”の誕生である。
でも、どうしてシャボン玉を活用しようと考えた?
「以前、模様のついたコマの回転と点滅光の組み合わせで見た目が変わる『Cyclone DIsplay』というディスプレイを製作しました。その経験を踏まえ、『“高速で動く何か”を作ることで、今までにない見た目のディスプレイが作れるのではないか?』と考えたのです」(東京大学大学院・落合陽一さん)
『Cyclone Display』では、回転するコマの模様を使っている。そして今回、落合さんは「振動で表面状態が変化する何か」を作ろうと思い立ったそうだ。
でも、ここからが大変。
しかし、土壇場で一つだけ思い出した。それが、噂の「シャボン玉」である。
「『もしかして、すごく薄くて軽いものならば振動できるのではないか?』と思い、シャボン玉に手を出しました」(落合さん)
この判断は、大正解。無事に映像を映し出すことに成功したようだ。
では、どのようにして映し出しているのか。シャボン玉スクリーンの原理についても、ご教授していただきました。
「例えばガラスは透明ですが、磨りガラスは曇っていることを考えてみてください。これら2つは、材料は同じでも表面状態や光学的な特性が異なっています。そして物に映像を投影するためには、物体の表面で光が拡散反射する必要があります。普段は鏡面状態のシャボン玉に超音波を当て、磨りガラス状にすることで映像を投影しているんです」(落合さん)
シャボン玉は1マイクロメートル程度の薄くて軽い膜なので、超音波のようなあまり力の無い振動でも十分振動するそう。
また、シャボン玉をスクリーンにすることによって利点も生まれている。
「皮膜によるスクリーンを振動させることで、透明不透明だけではなく反射の特性を変えることができます。例えば鏡面と磨かれた金属の表面は近いですし、磨りガラスのザラザラした反射は壁紙などと近いと思います。そういった材質感を表現できるディスプレイとしての使用法も考えています」(落合さん)
それだけじゃない。薄さを活かして、薄いモバイルのための使い捨てスクリーンにしてみたり。立体物に張り込むことで、家具等の表面に使うことだってできる。軽さを活かし、スクリーン自体を空中に浮かべることも可能だ。例えば象を映し出し、そのまま宙に浮かせたりして……。なんて、夢のある話なんだ!
また、応用編的な投影も可能だ。
そんな“シャボン玉のスクリーン”、極めて画期的ではあるものの課題も山積み。まず「割れにくい膜を作ること」が課題。そして、「投影方法を変える」という課題も解決したい。
「投影角と視野角の関係がシビアなので、それをもっと大きくしたいです」(落合さん)
他には「超音波の照射エネルギーを強くすること、超音波による影響をもっと事細かに調べること」、「膜を張る機構の考案」といった宿題も残されている。
それらを乗り越えつつ、彼らは5年後の実用化を目標に頑張っている。今も、新スクリーン開発の着々と進められているのだ。
何しろ「シャボン玉」をスクリーンにするのは、世界初だそうなんです。
(寺西ジャジューカ)