日頃から、様々な場面で利用される文房具。子供の頃には友達と文具店へ足を運び、学校に持っていく文房具をあれやこれやと選ぶのが楽しかった、という記憶をお持ちの読者も少なくないのではないだろうか。
反面、大人になるにつれて、文房具は楽しむものから、ただただ実用的なものへと変わってしまった、という方も多いのでは。

鉛筆一本、下敷きひとつにもこだわり、楽しんだあの頃――。そんな気持ちを思い出させてくれる文具店が、鎌倉にあるという。その名も、「文具と雑貨の店 コトリ」。JR鎌倉駅から徒歩10分前後の場所にある。さっそく、店を訪ねてみることにした。

「コトリ」で出迎えてくれたのは、スタッフである横山真弓さん。聞けば、横山さんの本業は写真家だという。「当店は、北鎌倉にあったカフェの常連客や、そこの展示スペースで展覧会を行ったことのあるデザイナー、クリエイターたちが集まって、2011年の10月にオープンしました。私も、そのひとりだったんです」と横山さん。20代~70代まで幅広い年齢層のスタッフが、日替わりで店番をしている。「その日の店員によって、お店の雰囲気もガラリと変わるんですよ」と横山さん。


店内は、狭い。小さな文具店である。その中に、実に多種多様な文房具や雑貨が、所狭しと並べられている。その、こぢんまりとした感じが、なんとも心地良い。子供の頃に通った、“町の文房具屋さん”を思い出させる。そしてまた、温かみのある照明やBGMも、ノスタルジックな雰囲気を演出し、なつかしい気持ちを心の中に灯らせてくれる。

しかし、筆者も、大人になってから文房具は楽しむものから実用的なだけのものへと変わってしまったひとり。文房具なんて、普通に使えればそれでいい。だから、いくら数え切れないくらいの文房具が並んでいたからといって、特段、心弾むわけではない…。と、思っていたのだが。

店内の商品を、じっくり見てみると。“普通の”文房具や雑貨は、ひとつとして無かった。
どれもこれも、こだわりに満ちた商品ばかりなのである。「文房具好きには有名な文具店から仕入れた商品もありますし、当店オリジナルのものも置いています」と横山さん。

たとえば、「コトリ箋」というレターセット。これは、コトリオリジナル商品のひとつで、店のロゴマークが入った封筒3枚と、400字詰め原稿用紙を模した便箋6枚がセットになっている。封筒も便箋も、実にかわいらしいデザインで、眺めているだけでも楽しくなる。と、ジーッと眺めていると、封筒のフチに糸が縫われているのを発見。「その糸は、封筒一つひとつにミシンがけをしたものなんです」と横山さんが教えてくれた。同じ手紙をもらうのでも、こんなレターセットでもらえると、喜びも倍増しそうだ。

他にも、切手シールやポストカード、薬袋のような小さいペーパーバッグなど、現在10種類ほどのコトリオリジナル商品が置いてある。どれもかわいらしく、特に女性や子供の心をつかんで離さないであろうデザイン。これらは、横山さんや、絵本作家としてもご活動されている、ひだかきょうこさんといった、コトリスタッフの皆さんが製作に当たっているのだという。

今後どんどん増えていく予定だというコトリオリジナル商品以外にも、こだわりとかわいさと楽しさが詰まった文房具・雑貨が数多く置いてある。
小さな筒に入った、12色の色鉛筆。水彩画のようなスケッチも楽しめる水彩色鉛筆。ヌメ皮製の本格的なペンケース。押し方ひとつで笑顔や困り顔、怒り顔など様々な表情の判子が押せるスタンプ。東日本大震災の被災地支援にもつながる、特製のカレンダーやコケシ…。一つひとつ挙げていくと、キリがないほどだ。

また、店の奥には、ギャラリースペース・ワークショップスペースも併設されている。地元・鎌倉の作家やクリエイターが中心となって展覧会・販売会などを行っており、表現とつながりの場として活用されているという。料金もリーズナブルなので、自分の作品を発表する場を求める人たちにとって、気軽に利用できるスペースといえよう。

「武家の古都」として世界遺産への登録を目指す鎌倉は、昔から多くの文士が集まる土地としても知られている。その鎌倉に生まれた「コトリ」は、文士たちにも欠かせない魅力的な文房具を扱う店として、また、表現者たちをサポートする存在として、「武家の古都」とはまた別の側面から鎌倉の地を盛り上げている。

取材中も、ひっきりなしに訪れるお客さんたち。
文房具や雑貨を手に取っては「かわいい」「なつかしい」を連呼する。そしてもうひとつ、こんな言葉を多く耳にした、「なんだか、幸せな気持ちになるね」。
(木村吉貴/studio woofoo)
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