鎌倉駅から、徒歩5分。「ツリープ由比ガ浜ストア」というショップで、「湘南のこみちクッキー」を購入することができた。その人気の秘密を探るべく、さっそく食べてみると…。ほんのりと甘い。けれど、塩っぽさも感じる。この塩っぽさは、他のクッキーには無いものだ。生地の甘さと塩っぽさとが相まった、なんとも心地良い味わいが口中に広がる。なるほど、美味しくて、食べやすい。
と、もう一枚食べようかと、クッキーを手に取って気が付いた。うん? クッキーの表面に数粒、白い結晶が乗っている。これはもしや、塩…? 事の真相を聞けたらと、「ツリープ由比ガ浜ストア」に戻って店員さんに話しかけてみる。すると、代表の吉原亘さんが対応してくれた。
あの……。湘南のこみちクッキー、初めて食べてみたんですけど、クッキーの表面に乗っているのは、もしかして塩ですか…? 「はい、お塩です」と吉原さん。「当店の他のお菓子にも微量のお塩が使われています。お塩は、甘みを引き立て、奥行きのある甘みを生み出すんです。スイカにお塩をかけて食べたりもしますよね」。ふむ、たしかに。けど、塩がダイレクトに乗っているクッキーって、珍しいですよね? 「このクッキーに使われている、お塩の魅力も楽しんでいただけたらと、あえて表面にトッピングしたんです」。
クッキーの上にトッピングされているのは、やはり塩だった。しかし、普通の塩より、明らかに粒が大きい。吉原さんによると、この塩は「海の精」という製塩メーカーがつくっている、「海の晶」という天日海塩だという。「鎌倉からも見渡せる、伊豆大島の海水を汲み上げてつくられるお塩なんです。完全天日干しでつくられる国産天日塩は、現在のところ『海の晶』だけのようですね」。
雨や湿気の多い日本では、天日干しだけでつくられる天日塩は、元々存在しなかった。しかし、1971年以降、国が決めた「塩化ナトリウム99%以上」の塩以外の製造、販売が禁止されていた時代。ナトリウムだけでなく、カルシウムやマグネシウム、カリウムなど豊富な海の成分を含んだ、昔ながらの塩の味を忘れられなかった人たちがいた。その、将来「海の精」の母体に携わることになる人たちが、伊豆大島に渡って研究を重ね、1977年に“国産完全天日塩”を生み出すに至ったのだいう。
「ツリープ由比ガ浜ストア」には、その“国産完全天日塩”こと、「海の晶」が置かれてあった。昔ながらの塩。けれど、1971年以降、1997年の塩専売廃止までの間、一般にはなかなか口にすることができなかった、本物の塩。
「お塩は、ほぼすべての調味料に使われているものです。まさにお塩は、“食の原点”といえるでしょう。そしてまたお塩は、人間に必要不可欠な成分のひとつでもあります。だからこそ、美味しくて、栄養成分が豊富で健康にも良い、本物のお塩を、ぜひ多くの方にご利用いただきたいですね」と吉原さん。
働いて得るお金=給料のことを、英語で「サラリー」というが、これは元々ラテン語で「塩」を表す言葉に由来するのだとか。まさに、生きていく上で欠かせない塩。ただただ食べ物をしょっぱくさせるためだけに使うのではなく、豊かな食生活を送るためにも、本物の塩にこだわってみてはいかがだろう。生きていく上で欠かせないものが豊かになれば、人生も、豊かになるかもしれない。
(木村吉貴/studio woofoo)