――細かくて、可愛い絵ですね!1日どのくらいの時間をかけて描いているんですか?
「朝7時から夕方5時までの10時間、黙々と描きます。場合によっては夜も描きますね」
――10時間以上!?最長で何時間描いたことがありますか?
「連続で16時間です」
――長いですね!!いつも、どういう感じで描いてらっしゃるんですか?
「頭の中で構想を練って、キャンバスに薄く輪郭を書いたら、あとはひたすら描いていきます。私はラジオ(J-WAVE)が好きなので、J-WAVEを聴きながら朝から描いて、10時になったらパンを食べて、あとはトイレに行く時以外はずっと座って、5時までカリカリ描いてます」
――お腹がすきませんか!?
「少食なんで大丈夫です。紅茶を飲みながら描いてますし。むしろ、お腹がいっぱいになると描き辛くなるんです。それに…」
――それに?
「あんまり、ご飯に興味がないんです」
あぁ、ご飯にしか興味がない筆者にとっては胸の痛い話である。ちなみに、佐藤さんは座椅子に座って、ローテーブルを前に、前傾姿勢でひたすら描いていく。
――肩がこりませんか?
「肩こりはひどいです。基本的には毎日描きますが、どうしても描けない日もあって、そういう時は敢えて描かないようにしています」
――それを聞いて、少し安心しました。ちなみに、使っているボールペンは?
「『パイロット』のハイテック0.25ミリをずっと使っていまして、全く変えていません。
――作品の絵を描く時に、何本ぐらいのハイテックを使ってきました?
「約3年間で、少なくとも100本以上です」
よく見ると、手には大きなペンだこが3つも…。そんな佐藤さんはなぜボールペンで細かい絵を描こうと思ったのだろうか?アートというと美大出身のイメージがあるが、佐藤さんは法政大学出身で、美大に通っていたわけではない。学生の間は、授業の時間中がヒマだったので、(本当はダメなのだが)先生の話を聞いているフリをしながら。先生にバレないように、ノートに小さな絵の落書きをしていたという。
「ちっちゃい絵をいっぱい描くとかわいいし、描いていて楽しいから、学生時代は4年間描き続けてました。スペースを使わないから、紙の節約にもなるという利点もありましたね。(笑)」
●キャビンアテンダントからの“命令”が人生を変えた!
その時点では、絵を描いて生計を立てようとは全く思っておらず、佐藤さんは就職して予備校の事務のお仕事に就く。ところが、ある偶然の出来事がきっかけで、ボールペン画家として一本立ちしようと決意。その出来事とは…
「夏期休暇をいただいて、スイスに行ってたんです。帰りの飛行機の中でヒマだったから、絵を描いていたら、通りがかったキャビンアテンダントさんが私の絵を見て『あなたの絵はスゴイ!着陸まであと6時間あるから、私のために寝ないで絵を描きなさい』って言ったんです」
――なぜか命令口調ですね(笑)
「そうなんです(笑)。
――ある意味、スパルタ教育ですねぇ…(涙)
「着陸した時に、ひたすら描き続けた絵を渡したら、今まで自分が描いた絵を見て、こんなに喜んでくれた人はいないっていうほど喜んでくれて『仕事を辞めて絵描きになりなさい』って言ってくれたんです」
――またもや命令口調…(笑)
「それで、絵描きになるために、働いていた会社を辞めちゃいました」
――あっさりと!!
「『仕事を辞めて絵描きになりなさい』って言われた瞬間に舞い上がってしまって、自分が生まれ変わったような気持ちになったんです。『私、もともと絵が好きだったのに、何を迷ってたんだろう…』と思って。『会社を辞めて絵描きになります』って言った時、会社の皆さんには心配されましたけど、思い切って、辞めることにしました。職場の環境も良かったし、会社の給料も良かったけど、あの時のC.A.さんからの一言がなかったら、辞めてませんでしたね」
しかし!
しかしである。
ここまで順調に話が進んでいて、エキサイトBitコネタの読者の皆さんの中には「だったら、自分も会社を辞めて、絵描きになっちゃおっかナ~~」と軽く思った方もいるかもしれないが、世の中はそんなに甘くない。
●恐怖!いきなり立ちはだかる現実!家賃が払えない!
会社を辞めて、絵を描くことを職業にしようとした佐藤さんだったが…
「私、コンペに受かればプロになれると思ってたんです。ある地方のコンペに応募したら入選したんですけど、いだだけるのは賞状だけで、お金をもらえるわけではないし、スポンサーがつくわけでもないし、このままではプロになれないっていうことに、やっと気づいたんです。その時になって初めて『これは大変なことになった』と思いました…」
急に現実が押し寄せてきたわけである。「会社を辞める前に早く気づけよ!」という声が聞こえてくるかもしれないが、その一言で片付けられてしまったら、元も子もない。
その後、佐藤さんは公募に応募しては落ちたり、せっかく展示できたところで作品が売れなかったり…という生活が1年ほど続いた。
「一人暮らしをしていて、家賃が74000円だったので、ヤバイって思いました。
――こわい、こわい!で、どうやって暮らしてたんですか?
「自分で描いた絵を知り合いに手売りしてました(涙)。バイトをしないという覚悟で会社を辞めてひたすら描き続けていたので…。あの時に買ってくれた方に、本当に感謝しています」
――当時、展示していた時に、お客さんから何と言われてました?
「まず、多かったのは、『コンタクトですか?』っていう質問ですね。絵が細かいので…。『色はつけないんですか?』ともよく聞かれます。でも、中には『ずっと描いてるなんて、友達いないんですか?』とか『ここまで描き続けるなんて、変態ですね』って言ってくる方もいて(苦笑)。私がヘラヘラしていることが多かったし、26歳なのに幼く見られることも多かったので『大丈夫なのか、この子』っていう感じの目で色々と言われました」
佐藤さんの緻密な努力と裏腹に、“ションボリ要素”だらけだ。
しかし!
しかしである。
神は見放さなかった!
貯金がさらに底をつきてきた頃、転機が訪れる。
「表参道で展示をさせていただく機会があって、そこで『いいね~~~』とおっしゃってくれたアートディレクターさんがいまして。その時は、次の展示さえも決まっていなかったのですが、その方が呼んでくださったんです。その頃から、だんだんと好転してきまして、絵も売れるようになってきました」
●自分でもビックリ!まさかの完売!
色々な方に作品を観ていただく機会が増えてきて、ついに昨年(2012年)の9月には、銀座三越開催された「山本冬彦が選ぶー珠玉の女性アーティスト展」で26人の中の1人として展示されることに。
「しかも、この時に私の作品が完売したんです!用意していた作品を補充しても売れていくほど好評で、本当にありがたいです」
作品を購入される(ちなみに、作品が売れることを、佐藤さんは『お嫁にいく』という言い方をされます)方は、主に40代以上の方が多いという。そして、このことが功を奏したのか、同じく銀座三越で、初めての個展を開催することが決定したのだ。(2013年3月6日~12日)
――途中であきらめなかったのは、やっぱり絵を描くことが好きだったからでしょうね…
「そうですね。絵を描くことを辞めるなんてことは思わなかったですね。それに、途中でやめしてまったら、作品を褒めてくださった方々に申し訳ないと思ったのと、芳名帳に記してくださった方々を裏切るような気がしまして…」
――では、今後の夢を教えてください。
「ボールペンを使って絵を描いてらっしゃる方はたくさんいらっしゃいますが、その中で一番有名になりたいです。あとは、朝から晩まで『リプトン』のミルクティーを飲んでいるので、期間限定商品とかのパッケージを担当できるようになりたいです。もちろん、『パイロット』のハイテックのポスター広告にも採用されたいです。採用された場合は、京橋にあるパイロットの本社と、パイロットミュージアム&カフェに広告ポスターを飾られたいです!それから、J‐WAVEが大好きなので、J‐WAVEの番組に出たいです!!!」
さすが!
描いている絵が細かいだけに、描いている夢も具体的で細かいのであった。
●ボールペン画クリエーター
佐藤明日香さんのサイト
http://satowasuka.com/
※初めての個展が銀座三越で開催されます。
2013年3月6日(水)~12日(火)
銀座三越 「佐藤明日香特集」
8階ギャラリー横・銀座三越アートスペース∞
※新作を15点展示
さらに、「朝日新聞NEXT ART展」に入選されたということで、松屋銀座でも作品を展示。
2013年3月8日(金)~11日(月)
「朝日新聞NEXT ART展」
松屋銀座
8階イベントスクエア 朝日チャリティー美術展併設会場
こちらでは「旧市街」という新作を展示。
両会場とも近いので、ぜひ。