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じぇじぇじぇ!(‘jjj’) 
連続テレビ小説「あまちゃん」(脚本・宮藤官九郎)の良い評判しか聞こえてこない。
母・春子(小泉今日子)の故郷・北三陸にやってきた16歳の少女・天野アキ(能年玲奈)のドラマはすべてがキラッキラで、いやなところがひとつもみつからないのだから当然である。

劇中、北三陸の名物料理「まめぶ」が、甘いのか辛いのか、おかずなのかおやつなのかわからない複雑な味と表されているが、「あまちゃん」は渋さ知らず、ストレートに美味い! 

だからといってこんなにノーガードで肯定しまくり、決め台詞「じぇ!」(びっくりした気持ちを表す方言)を臆面なく使っていていいものだろうかと、逆に不安にもなるが、好きなところばっかりなのだからしょーがない。
ということで、これから毎週、前の週のあまちゃんの面白さをせっせと振り返っていく所存である。


まずは、あらすじをおさらい

第1週 おら、この海が好きだ! 4月1日〜6日

2008年、夏。天野春子(小泉今日子)は、高校生の娘アキ(能年玲奈)を連れて北三陸へと帰ってきた。
84年に故郷を飛び出してから24年間、一度も帰ってきたことのなかった春子をようやく動かしたのは、幼なじみで北三陸駅の駅長をやっている大吉(杉本哲太)から届いた母・夏(宮本信子)が危篤という大量のメール。しかしそれは春子を呼び戻すための作戦だった。

夏がやっている海女の仕事は町の観光資源のひとつだが、現存する海女はわずか5人で、しかも高齢化が進んでいた。
最年長64歳の夏が引退の意思を匂わせたため、後継者として春子に白羽の矢が立ったのだ。
この地も海女の仕事も大嫌いな春子は激しく拒絶するが、娘のアキは見るものすべてに心が躍り、海女の勇姿にも「かっけー」と引き込まれていく。
そして16歳の新人海女が誕生した。


第2週 おら、東京さ帰りたくねぇ 4月8日〜13日

東京からアキの父・黒川正宗(尾美としのり)がやってきた。
アキを連れて突然家を飛び出した春子を心配して、商売道具のタクシーを走らせてきたのだが、すれ違いで春子は離婚届を書いて東京に送りつけていた。

春子は、漁師だった父(蟹江敬三)が1年のうち10日くらいしか家にいなかった反動で、家庭を大事にしてくれる夫を求めて結婚したものの、正宗の真面目さが逆にもの足りない。
そんな無茶を突きつけられて戸惑う正宗だったが、家では暗かったアキが見違えるように生き生きとしている姿を見て、東京へ帰っていく。
夏休みも終わりに近づき、高校生のアキも東京に戻らなくてはならない。
すっかり北三陸に見入られていたアキ、後ろ髪引かれる思いで電車に乗るが……


あまちゃん、ここが美味い

(あまちゃん、ここが「じぇ!」 って書くのは自制しました)
はい。こんな感じで、ヒロイン・アキが北三陸に魅入られて、この地で生きていこうとするまでが、テンポよく描かれた2週間12話。
アキの気持ちと連動して、北三陸の町と人と海が好きになるまでに、さほど時間はかかりませんでした(ナレーションふう)。


1.能年玲奈がフレッシュ過ぎる

東京では〈地味で暗くて存在感も個性も華もないパッとしない子〉だったという設定が信じられないくらい。
白やブルーのさわやかブラウスにハーフパンツと白いスニーカーをつなげる、ツルっとまっすぐ長いふくらはぎ。
ほっぺもツヤツヤ、髪の毛もサラサラ。瞳はキラキラ。なんていうか、イルカみたい。きらいな人が少ないツルツル感。


2.アキの母ちゃん小泉今日子が貫禄!

なんてたって元アイドルだけに華がある。
さらに、漂うやさぐれ感が(缶ビールやパチンコ台が似合う)、アキのお子ちゃまぽさと対称的で、そこに深いドラマを感じさせる。
「あんたバカあ?」って言ったのにも感動した。


3.北三陸の人々が強烈

〈袖が浜の女は気性が荒くておっかねーと言われております〉
というナレーションのあとに、
木野花、渡辺えり、片桐はいり、美保純の海女軍団が登場するところは問答無用な説得力があった。
そして、彼女たちのリーダーが宮本信子(祖母夏)。完璧っす。


また、彼女たちのパートナー、でんでん(木野花演じるかつ枝と離婚再婚を繰り返している)、菅原大吉(渡辺えり演じる弥生の旦那、独特な柄の服を売るブティック店長)、杉本哲太(片桐はいり演じる小百合と一週間で離婚)は・・・ダメと断じることはできないが、とってステキとも明言しにくい、まめぶ的男子と呼びたい。

ほかに、町のジオラマをずっと作っている観光協会長・吹越満。琥珀の時代が来るのを待っている琥珀掘り・塩見三省。
ちなみに、彼らが集まる店(夏がオーナー)が、昼間は軽食&喫茶リアスで、夜はスナック梨明日になる。入り口が違うだけっていう設定がナイスリアス。

脚本の宮藤官九郎が所属する劇団大人計画から、荒川良々(副駅長にしてリアスの店番)、村杉蝉之介(アキをブスよばわりするアマチュアカメラマン)なども登場して、画面は朝から濃密になるいっぽう。


東京のひとだけど、アキのお父さん役の尾美としのりも、真面目だけど空手黒帯という意外性で、離婚しちゃもったいないでしょ? と思わせる良キャラ。

4.若手俳優に意外な面が

〈この子、ふつうの子じゃない〉
アキを直感的にそう思わせたかわいこちゃん・ユイは橋本愛。
第1週は制服、第2週は浴衣とサービスサービスですが、ただかわいいだけではなく、どこかで仕入れてきた憧れの東京情報に目を輝かせる俗っぽさがある。
でもそれを、アキが否定することなく、自分の見えてないものがあると素直で前向きにとらえるところは心温まる。

ユイのお兄さんヒロシは、小池徹平。今までさわやか青年の印象が強かった小池が、地元でくすぶっている男を演じている。
笑わない。目をそらしがち。パチンコ店に入り浸っている。そんな小池徹平(足立ヒロシ)の姿に、はじめて、いいと思ったと言っても過言ではない。

大吉の十代は、「桐島、部活やめるってよ」で注目された東出昌大。
春子の十代は、「SPEC」の雅ちゃんこと有村架純。
キョンキョンと杉本哲太は釣り合わなそうと思うのに、東出と有村だとアリな感じもしてしまう。
今後も若手俳優が登場してくるので、どんなキャラづけがされるか楽しみ。

5.ナレーションがわかりやすい

〈忌まわしい過去の記憶が蘇りました〉
〈のちにふたりがお互いにとってかけがえのない存在になろうとは本人たちも知らなかったのです〉
〈この日を境にアキはすっかり生まれ変わりました
地味で暗くてパッとしない自分を海の底に置いてきたのです〉
〈誰あろう、アキの父親なのであります〉
登場人物の気持ちが手に取るようにわかる親切なナレーション。
ナレーションの見本のようなナレーション。
このドラマではさらに、
〈またか。この娘はよっぽど服きたまま飛び込むのが好きなんだなあと思われるかもしれませんが〉と視聴者の気持ちまで代弁してくれるのだ。

6.おもしろがいっぱい

〈うにとりばばあ〉
〈100円ショップがつぶれたら町はおしまいだ〉
〈なにすんだこのばばあ、アキは空中でそう思いました〉
〈娘も気になる紫外線も気になるでロボコップみたいだ〉
〈あんまり静かで床にもやしが落ちる音が聞こえたのよ〉
〈(おっぱい)丸出しよ〜〉
〈だいたいいい子ってなによ。親に迷惑かけない子? 携帯電話にロックかけない子? テレビの電源切るときは主電源まで切る子?〉
〈(ゴーストバスターズは)明らかに選曲ミスでした〉
〈一匹モータリー〉
などなど、おもしろ台詞を拾ったら枚挙にいとまない。
朝ドラに、これほどまでに笑いのセンスが投入されたことはあっただろうか。
これが「あまちゃん」の最も画期的なところ。
小池徹平が海に落ちたアキを見て動転して、なぜか雑誌をめくりはじめ、違う違うと慌てるところなんかも朝ドラ史上いまだかつてない珍場面であろう。
杉本哲太が大吉、吹越満が菅原という役名で、その隣に俳優・菅原大吉が並んでいるっていうのもネタだよね? と、なんでも笑いとつなげて考えてしまう始末である。
観光協会の事務所にPOSEIDONと書かれた少年の顔写真入りのウチワがあったのも気になってならない。
 朝からどこまで笑わせてくれるか、宮藤官九郎脚本に期待している。

7.やる気になる名台詞もたくさん

ふざけてばかりいるわけではなくて、ポイントポイントで家族や隣人や故郷の良さをうたい、ぐっとくる台詞で締める。
〈だったらなんも考えずに飛び込め。なんとかなる。死にたくないからな〉
〈みんな必死なんだ。きれいな海やおいしいウニ、かわいい電車。それだけで人は生きていけない。それでもアキはここが好き。ここにいる自分が好きです〉
朝はこんなふうに前向きで肯定的な台詞がいいね。
朝からどこまで背中を押してもらえるか、宮藤官九郎脚本に期待している。

8.音楽の力!

全国の吹奏楽部の皆さん、演奏しちゃって!というばかりのテーマ曲のおかげで朝起きるのも苦でなくなった人も多いのではないだろうか。
劇中かかった「星めぐりの歌」(岩手の作家・宮沢賢治が作詞作曲した)のアレンジもうっとりした。
音楽は、十代を福島で過ごし、目下、プロジェクトFUKUSHIMAの活動を行っている大友良英。
音楽も、「あまちゃん」を力強く押し上げている。

9.風景がキレイ

タイトルバックの電車のレールから川の流れへと移り変わり、やがて現れる北三陸の海は、ひたすらキラキラ光っていて、青空とそよぐ風も心地よさ満点。
海女が泳ぐ姿を追った海中撮影も、さりげなくいいビジュアルをつくり出している。

とことん曇りのない明るさで、好発進した「あまちゃん」。
ただただ、明るくさわやかな晴れの面だけではないことは、ところどころで感じさせてくれる。
なんといってもプロデューサー訓覇圭は、「ハゲタカ」「外事警察」「TAROの塔」など常に攻めの姿勢でドラマをつくってきた才能の持ち主だ。
彼と宮藤官九郎とが組んだことで、互いの力が何倍にもなるだろうと信じている。
第3週、4週とどんなことになっていくか、何はともあれ今週も「あまちゃん」から一日をはじめて間違いはない。
(木俣冬)

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