『週刊野球太郎』で連載中の「野球芸人」も絶好調のナイツ・塙宣之に聞く、ネタ作りの裏側やコンビ結成秘話。後編は「M-1」や「THE MANZAI」といった賞レースと、普段の寄席や営業でかけるネタの違いに迫ります。

前編はこちら

《たまに演芸場に出ていないと、感覚が悪くなる》

─── ナイツの漫才スタイルに関してもお聞きしたいんですが……その前に、土屋さんは野球は詳しいんでしょうか?
 まあそんなに詳しくはないです。好きでも嫌いでもないというか、普通の男子ですね。
─── じゃあ、後輩というのもあって、野球漫才みたいのはもう塙さんがリードしてっていう。
 まあ、そうですね。野球漫才以外でも、とにかくいろんなパターンをやってきたんですけど、やっぱりこう、しっくり来るパターンとしてそれ(野球漫才)があったんですよね。苦手なことと得意なことっていうのは、漫才を5、6年もやっているとわかるようになるんですよ。
─── 得意なこと、というのは?
 僕が熱く語って喋る、というボケ。要は「コントに入らないボケ」っていうのが得意なんです。だから、みんなはよく「漫才コント」っていうのをやるじゃないですか。でも僕ら、漫才コントが全然ダメだったんですよ。だからこそ、色々試してきたっていうのはありましたね。
─── やっぱりそういう試行錯誤というのは、お客さんの数や層が限られる漫才協会の興行だからこそ、色々試しやすかったんでしょうか?
 そうそうそう。
まあいろいろ試して。あとは、当時僕らはライブにも結構出ていたので、昼は寄席に出て夜はライブっていう生活で、ライブでもだんだんウケるようになってきて……そんな感じですかね。
─── 叩き上げというか、現場主義ですよね。
 だから、今も土日には営業で1000人くらいの大きなホールでネタをやることが多いんですけど、営業でばっかりネタをやっていると、大きい人数にしかウケないネタになってくるんです。芸人としてそれがないとダメなんですけど、たまに演芸場に出ていないと、感覚が悪くなっちゃうんですよ。
─── そうなんですか?
 今日もさっきまで池袋演芸場でネタをしていたんですが、お客さんは多くて20人なんですよ。今日も15人くらいしかいなくって。でも、15人の前でネタをやる機会って今なかなかないじゃないですか。寄席って、それがいいんですよ。僕らを見に来ていない人の前でネタをやることでこそ、自分たちの力になっていくんです。そのほうが「ここがウケるな」とかが実際わかるんですよ。
─── 肌感覚として。

 でも、ファンの前や知っている人の前でやると、どこが本当にウケるのかがわからなくなるんです。だから、そういう(小さい)ところでウケるネタが本当にウケるネタ。そして、賞レースってそういうネタじゃないと勝てないんですよ!
─── え? 逆かと思っていました。大きな箱で受けるネタじゃないとダメなのかと。
 賞レースで勝てない芸人って、自分たちのファンのライブとかでしかネタをやってないからだと思うんです。
─── あぁ。何しゃべってもウケてしまう、という。
 そう。で、勘違いをして「コレが一番おもしろいネタだ」って思っちゃうんですけど、ネタになってないんです。ただの内輪ウケなんです。だから、寄席でネタをやれるっていうのは相当いいですよ。


《球場の広さによってピッチングを変えるピッチャーみたいな》

─── 今の話とも通じる部分があるのかもしれませんが、DVD(「ナイツ独演会~浅草百年物語~」)を拝見して、テレビでネタを見るときよりも、喋りのスピードがゆっくりだなと感じたんです。
それっていうのは意識して変えているんですか?
 それはですねー、漫才のスピードっていうのは「広さ」によるんですよ。だから、DVDでは(独演会場の)250人の人が一番聞き取りやすいように作っています。DVDで見る人のことを考えてネタを作ったり喋ったりはしていないんですよ。お金を払って舞台を見に来てくれた人のためのものなので。
─── なるほど。
 でも、テレビの場合はまた違ってきて、テレビを見ている人を意識して喋るので、やっぱり速くなるんです。でも、それはいまだに難しいですね。漫才って、お客さんが近いか遠いかでも、スピードを変えなきゃいけないんで。
─── じゃあ発表する「媒体」で変えるというよりは、箱のサイズとかお客さんとの距離で変えているんですね。
 そうですね。球場の広さによってピッチングを変えるピッチャーみたいな感じですね。「今日の審判はココを取るな」っていうのと一緒で、漫才も「今日はここで笑うな」っていうのがなんとなくわかって、「じゃあ今日はスピードちょっと遅くした方がいいな」とか。
ホントそんな感じです。
─── 野球の喩えは、さすがわかりやすいです。
 でも、「THE MANZAI」みたいな番組というか賞レースの場合では「勝ちに行っている」と思われた方が得なんです。
─── 審査だから?
 はい。だから、勢いのあるネタをバンバンスピードを出してやった方がいい。あれで逆に落ち着いた感じでやっちゃうと意味がないんですよ。


《空間で決まっちゃうんですよ、漫才って》

─── ちなみに、何秒に一回ボケを入れようとか、ネタ作りの際にそこまで考えていたりはしますか?
 そこまでは考えてないですね。それはやっぱり、「心地よい」というところがあるので。戦い方なんですよね。そこが結構面白いんですよ。
─── 土屋さんも場所や状況によってツッコミ方を変えているんでしょうか?
 そうですね。ナイツって土屋が“ツッコミ”ですけど、リードしているのが“ボケ”の僕の方じゃないですか。
だから、いつもだとあえてちょっと遅く喋って、アイツのツッコミが終わるところで食い気味で次の話をしたりするんですけども、営業の場合だと、ツッコミを聞き終わってから喋る、みたいに使い分けている感じですね。
─── 確かに、笑い声でボケやツッコミが聞こえない場合もありますもんね。
 営業だと、あまりに速く喋っても伝わらないので、スゴくゆっくり喋ったりしますね。だから、「M-1」や「THE MANZAI」とかで、決勝戦で全然ウケないコンビやネタがたまにあるじゃないですか。それ、なんで決勝に行けたのかというと、準決勝ではテンポの遅いネタやコンビのほうがすごくはまるんですよ。
─── おぉぉ、なるほど!
 「M-1」って人気があったから、準決勝からもうメッチャ大きなホールでやるんです。大きなホールの場合、ちょっとスピードが遅くないとウケない。テンポの速いネタはお客さんに伝わらないんです。でも、遅いネタで決勝に勝ち上がっても、逆に決勝だと遅過ぎて全然ウケないんですよ。
─── じゃあ、敗者復活で上がってきたコンビが結構ウケるっていうのは、そういう?
 そうそうそう。そういうことです。NON STYLEとかね(笑)。
いや、他のコンビでもそうで、準決勝でウケなかったのはスピードの問題なんですよ。ホント、その「空間」ですよね。ネタそのものの問題もあるけど、空間で決まっちゃうんですよ、漫才って。


テレビ、営業、寄席、賞レース……演じる箱や客層によってネタやテンポはどうあるべきかを赤裸々に語ってくれたナイツ・塙宣之。そして“漫才師・ナイツ“といって今や欠かせないのが、「寿限無」ネタで話題の「野球漫才」、そして100個以上あるという「野球ネタ」の数々。
そんな野球とナイツの深い関係性を、スマートフォン向けマガジン『週刊野球太郎』内の「野球芸人」で連載中です。この「野球芸人」、ナイツの他にも、トータルテンボス・藤田憲右がイチローとの自主トレ秘話を語ったりと、野球好き芸人の“ここだけの野球話”が満載。お笑い好き、野球好きは、そちらもぜひチェックを!
<スマートフォン向けマガジン『週刊野球太郎』アクセス方法>
・ドコモdメニュー http://sp.yakyutaro.jp/
・auスマートパス http://ausp.yakyutaro.jp/
・Yahoo!プレミアム http://yp.yakyutaro.jp/

(オグマナオト)
編集部おすすめ