私は、幼少期から地声が小さかった。
「ぼそぼそしゃべるなよ」とか「もっと元気だせ」とか言われても、普段の声が小さいのだからしょうがない。

「腹から声出せばいいんだよ」「胸を張ってさ、そんな猫背じゃなく」そのアドバイスも何度も聞いた。やってるつもりだけど、大声は出ない。
テレビ番組に出たときも、音声さんから「すみません、今の3倍くらい声張れますか」と言われた。高性能のマイク使ってるんなら拾ってよ。3倍の声量て、オペラ歌手か。
そして、テレビをつけると、地声の小さそうな真木よう子が、ビールのCMで明らかに無理したテンションの大声を出している。いたたまれない。

大声は全員が出せるわけじゃない。
世の中誰しもゴルフがうまいわけではないように、大声を出すことが苦手な人だっている。だが、自然に大声が出せる人は、大声を出せない人の気持ちがわからない。結果として、声が小さい人間に大声を強要する「声ハラ」とも呼べるシチュエーションが世の中には存在する。

今回は、私個人だけでなく周囲の皆様からも集めた「地声小さい人あるある」をご紹介し、大声を出したくても出せない苦しさを抱える人の存在を世に問いたいと思う。


<地声小さい人がつらいシチュエーション>
●ショーケース越しに注文するとかなりの確率で聞き返される
●美容院、とくにブロー中の会話は、ドライヤーを一旦消して聞き返されることが目に見えているので雑誌を熟読

ブロー中でなくとも、美容院では「えっ何ですか?」と聞き返されることが多い。そんなに会話したいわけでも、聞いて欲しい話があるわけでもないのに、せいいっぱいの大声まで出さなくてはならず髪を切ってもらうだけで疲労困憊。

●ホールにいる店員への「すみませーん」の声が届かず、近くに座っている大声の紳士に助けられることしばしば
●飲食店の注文の時用の特別な声がある
●回転寿司で真ん中にいる板前に注文をするのが苦痛で、仕方なく既に五周くらいしたサーモンとかを取って食べる

とくに「集団の中で自分が一番下っ端で注文をとる係」というシチュエーションがつらい。先輩が使えねえなという顔で、かわりに大声で店員を呼ぶとか地獄である。飲食店で客側が大声を出さねばならぬシステムは何とか改善をお願いしたい。席に押しボタンがあったり、注文がタッチパネル式の店だとわかったときの安心感はんぱない。

●しっとり歌いたいのに、カラオケで「リンダリンダ」をみんなが大声で大合唱し始めるのにうんざり
●カラオケにおけるみんないっしょに大声で歌う系の歌は、声量で貢献できるはずもないので、口だけパクパクする
●飲み会の「最後、じゃあエールで締めてもらおうか」が恐怖。

サラリーマンの飲み会はなぜか未だにエールで締められることが多い。声量がないのをわかっていて指名したにもかかわらず「何か締まらねえなあ」とか言われるとやり切れない。

●田舎が嫌い。祭りが嫌い。

とくに風が強い地域で求められる声量は想像を超える。


<学生時代の憂鬱>
●卒業式の返事の練習で何度も注意される
●応援団に居残り練習をさせられる
●部活の「声出し」という謎の習慣への限りない憎悪
●体育教師に嫌われる
●学級委員時代「静かにしてくださーい」は誰の耳にも届いていなかった

教室を静かにさせる係は、クラスで一番大声が出せるやつにすべきだと思う。

<その他>
●なぜか、カラオケで歌うときは、腹から声が出る

こういった状況をみて「なんだ、声でるじゃないか」と言う人もいるのだけれど、それとこれとはまた違う。

<あきらめの境地>
●二度聞き返されたら、もう話しかけなかったことにする。
●個室じゃない居酒屋では会話すること自体をあきらめる
●宴会で会話がとぎれた一瞬は貴重な発言の機会
●やたら大声を出さなければならない居酒屋のバイトは最初から応募しない

地声小さい人が大声をしぼり出すのは本当につらい。
このことが少しでも認知され、小声で何にもかもが済む世の中になっていければよいと思う。

この文章も脳内で小声で読んでいただければうれしい。
(文:前川ヤスタカ)
編集部おすすめ