「篤蔵というキャラクターは、天真爛漫でやんちゃ。そして掴もうと思ってもうなぎのようにヌルヌルっと逃げられてしまう掴みどころのない男だと思うんです」(TBS「天皇の料理番」公式サイトインタビューより)

今夜26日(日)よる9時スタートの新ドラマ「天皇の料理番」(初回は2時間スペシャル)。
原作は杉森久英の同名小説。幼い頃から強情で家族の手を焼かせてきた主人公・篤蔵がわずか10歳で仏門を目指すところから物語が始まる。家族が止めても、坊さんになると言ってきかない。ところが、いざ剃髪が始まると「こんな痛いことをするなら、坊主はいやじゃ!」と逃げ出す。挙げ句、墓石を倒すいたずらを繰り返し破門される。とんだ悪たれ小僧なのだ。


ドラマではこの篤蔵を佐藤健が演じる。父・修蔵(杉本哲太)は篤蔵の所業にしょっちゅう腹をたて、ブチ切れる。杉本哲太自身も公式サイトのインタビューで「血圧が高くなりすぎているんじゃないかと、心配になるくらい怒っているので、キレのあるキレキャラを目指して頑張っています(笑)」と語っていた。

原作とドラマで大きく設定が異なっていたのは妻・俊子(黒木華)の存在。ドラマでは、篤蔵は海産物問屋・高浜家の長女・俊子と結婚し、婿養子に入る。しかし、原作には「俊子」は登場しない。


原作の篤蔵はまず、地元の仕出し料理屋「八百勝」の養子になる。しかし、八百勝が篤蔵の父親に借金を申し込んだのを機に、実家に戻る。「たった三ヵ月で、金を貸してくれというような家とは、縁を切ったほうがいいような気がするぞ」という父親のアドバイスに従ったのだ。

しばらく家でぶらぶらした後、海産物問屋の養子話が持ち上がる。正式に養子縁組をした後、同じ町内の呉服屋の娘・ふじとの縁談があり、17歳で結婚。原作によると《ふじは界隈で評判のきりょう良しで、色白で目もとが涼しく、どこか国高村の警察署長のお嬢さんの八千代さんと面影が似通っているのが、篤蔵の気に入ったのである》という。


しかし、篤蔵は結婚から半年足らずで料理人を目指し、上京する。妻にはひと言も告げず、家出同然で東京に向かった。
《薄情なようだが、いまは自分のことで頭がいっぱいだ。いずれにしろ、篤蔵は新しい世界への期待に胸を躍らせて、古い世界のことは忘れがちだった》
さすがの行動力だが、つきあわされるほうはたまったものではない。

篤蔵の後を追い、東京にやってきた妻に対しても「何か用か?」とそっけない。宿で二人きりになると《いじらしさとなつかしさがこみ上げてきて、(中略)布団をしく暇もなく、そのまま、そこへ倒れ込んだ》が、妻の妊娠を聞かされ、口ごもる。
《正直なところ、この若さで、そんなものを背負わされるのは勘弁してくれ、といいたいところである》と内心思っている。

一方、妻に「あたしが嫌いになったんでしょう」と」なじられると、「そんなことはない! 嫌いなもんか、だい好きや」と即答する。ひどく身勝手なのにチャーミング。女側からすると、見切りもつけづらく、わりと迷惑なタイプの男なのだ。

原作ではその後、ふじに縁談が持ち上がり、離婚。《身を引いたといえば、話の筋は通り、篤蔵は美談の主にさえなりかねないが、本心の底をいえば、草深い田舎に埋もれるのがいやで、花の都へ出て、一旗揚げたいという、男の功名心−−言い換えればエゴイズムから出たことである》という。


その後、篤蔵はパリ留学を経て、帰国。下宿先の娘・敏子と結婚する。またもや「溜池小町といわれるほどの美人」である。敏子は強さも持ち合わせていて、篤蔵に「馬鹿野郎!」と怒鳴られてもひるまない。篤蔵をにらみつけ、そのまま奥の部屋でふて寝を決め込む。夫婦げんかの締めくくりは篤蔵の「おい、わしが悪かった。
そろそろ機嫌を直してくれよ」と懇願という様子が描かれていた。

おそらく、ドラマで黒木華が演じる「俊子」は原作のおふじと敏子をモデルに、新たに生み出された人物なのだろう。真逆とも思える二人の女性がどのように「俊子」に昇華されるのか楽しみだ。そして、何より気になるのは、原作にたびたび登場する、篤蔵を艶っぽい“やんちゃ”の数々がどの程度ドラマに反映されるのかという点だ。佐藤健がどこまで、どう演じるのか。ハラハラしながら見守りたいと思います。今夜9時から!
(島影真奈美)