
16話は、こんな話
あさ(波瑠)は、五代才助(のちの友厚/ディーン・フジオカ)と再会。米会所を案内してもらい、自分も勢い良く働いてみたいと思う。
はつ(宮崎あおい/崎の大きいは立)の元には、梨江(寺島しのぶ)が山王寺屋の経営状況を心配してやってくる。
時代が大きく変わろうとしていた。
語らないところがいい
五代がなんでそんなにすぐにあさに気づくことができるのかという誰もが抱く疑問はさておき(しかもあさのほうが完全に忘れてしまっている)。彼は「世の中が大きく変わる」とあさに告げる。
1週めはこの時代における女性のあり方を強調し、2週は時代の変り目を強調。
世界を俯瞰している五代友厚を登場させて、活気づく大阪の商いの現場を描き、あさの潜在能力を目覚めさせていく。
雁助(山内圭哉)に商売について習いだすあさ、それを頼もし気に見つめる新次郎(玉木宏)。舞台のようにわかりやすく傍で立ち聞きしているところはご愛嬌だ。
新次郎にしても、五代にしても、あさをいわゆるおしとやかで男に付き従う存在として評価しないで、何か新しいことをして活躍していく人間として期待をかける。そんなひとがふたりも身近にいるあさはじつに幸せ者だ。
対して、はつのほうでは日本の経済状況の翳りを感じさせる。
あさの周辺のにぎわいとはつの周辺の不穏。それを交互に見せることで、大波に揺れる船のような日本のビジョンが浮かんでくる。単なる家の違いだけではなく、それだけ時代が揺れ動いていて、どっちに傾くかわからない時代をふたつの家が映している。
こんなふうに大森美香は、物語における事情の説明を、じつにこともなく日常のなかに溶け込ませる。女は余計なことをしないものと自分も娘にも律してきた梨江は、つい娘を心配してはつの家の訪ねたことで、姑・菊(萬田久子)の機嫌を損ねてしまったため、あさの家を訪ねることが憚られたのだろう、という複雑な思いが、託した手みやげから伝わってくる。
結果はさらっと、そこに至る心情を丹念に描くことで、登場人物が深まっていくし、着物の柄の名前、あゆのお菓子など、ちょこちょこ出てくるガジェットの使い方もうまい。五代友厚(才助)の妙にエキセントリックな存在感も、時代の変り目だからこそ現れたトリッキーな人間として効果を成している。
また、あさが雁助のお気に入りの襦袢に縫い付けた「かわいらしい猫ちゃん」。あれは犬にも見えるのだが、あさが犬と猫を間違ったように、勘違いしているのかどうなのか、それについて触れずにさらっと先に進む。
柄本佑も目だけで感情を雄弁に語っていて、早くも「あさが来た」の語らない部分がクセになりかけている。
(木俣冬)
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