bit

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展


妖怪画と中世人の感性


打って変わって、古来より大人から子供まで幅広い世代が楽しむものというイメージがあるのが「妖怪」だ。

――なぜ近年妖怪に関する資料が再発見・再評価されているのでしょうか?

木場さん
「妖怪については『妖怪ウォッチ』、そして今年から再び放送が始まった『ゲゲゲの鬼太郎』が高評価を受けているように、安定した人気を得ています。毎年夏の時分には、全国の博物館・美術館で“妖怪”を冠した展示が行われているのが、その証拠ですね。

日文研ではそうした動向を押さえながら、人間文化としての「妖怪」について研究活動を継続しています。その成果が活かされた今回の展示を通じて、市民の方々に妖怪に対する関心をより高く持っていただければと思います」

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展
北斎季親「化物尽絵巻」(部分)国際日本文化研究センター


このような“妖怪コンテンツ”のルーツは中世に遡ることができる。そのひとつ「長谷雄草子」は、早い時期から物語の筋が成立していたと伝えられている絵巻だ。男が契りを交わした女性が水になるという、幻想的でありながら背筋が寒くなるストーリー。思いついた人、天才すぎる……。

――「長谷雄草紙」は完成度も高く、現代にも通じる面白さを感じます。写しがとられるほどなので中世の御伽草子の中でも非常に人気が高い作品だったのでしょうか?

木場さん
「人気があったかまでは確かではありませんが、絵師が技法を学ぶためにさまざまな絵巻を模写していました。契りを交わした女性が水になるのは、とても幻想的でそこから中世人の感性に思いを馳せることは大事だと思います」

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展
福田太華(写)「長谷雄草紙」(部分)国際日本文化研究センター


続いて妖怪を語る上で外せないのは「百鬼夜行絵巻」である。中世から近世、そして近代、現代になっても絵師たちの想像力を刺激し続ける妖怪画史上最大のバイブルとも言えよう。確かに、百鬼夜行絵巻から派生した作品は「こわい」というよりは「わらえる」妖怪画だ。

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展
山本光一「滑稽百鬼夜行絵巻」(部分)国際日本文化研究センター


――英一蝶「妖怪絵巻」は、生類憐みの令に触れて島に流されるという波乱万丈な人生を送ったからこそ描けた絵だと感じます。

木場さん
「実はこの作品は、英一蝶の落款が押されているだけで、果たして本人の手によるものなのかは不明なんです。この絵巻は土佐派の『百鬼夜行絵巻』という妖怪の群行を描いたものを元にしています。中には絵師オリジナルのものも確認できますね。元の絵巻を踏まえながら、新しい妖怪を創作するのは絵師としての創作意欲に駆られたかもしれません」

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展
[英一蝶][妖怪絵巻](部分)国際日本文化研究センター


最後に明治期に入ってから月岡芳年が描いた、可憐で耽美な蜘蛛女が活躍(?)する妖怪画も紹介しよう。月岡芳年はエロティックで過激な作風で、浮世絵にあまり詳しくない人にも知られているかもしれない。

女性に化けた蜘蛛のアンバランスな足元と、坂田公時の逞しいふくらはぎの対比がいっそ清々しい。現代人には場違いなほどにユーモラスに映る姿もまた「わらい」と「こわい」の世界を体現しているのだろうか?

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展
月岡芳年「天延四年秋妖怪土蜘蛛悩源頼光寝所坂田公時等宿直欲払其妖図」国際日本文化研究センター


――こちらはどのような場面を描いたものなのでしょうか?

木場さん
「女性に化けた土蜘蛛が、寝ずの番をしている坂田公時を術で眠らせて頼朝の寝所に向かおうとしている様子を描いています。武勇のある公時ですら妖術にかかってしまうこともあるという絵です。九尾の狐のように妖怪は美人に化けることもありますが、美は時として人を惑わすこともありますね」

このような女性の変身譚には、生きることの厳しい時代だからこそ滲み出る独特のエロティシズムも感じられる、……と言っては言い過ぎだろうか。

館長の情熱的すぎる想い「一度きりのお祭り騒ぎとなってはいけない」


「わらい」と「こわい」展を行うきっかけとなったのは、細見美術館から日文研に対してもう一度春画の展覧会を行いたいと連絡があったからだという。細見館長はその時「一度きりのお祭り騒ぎになってはいけない。春画については今後も展覧会を開きたい」と言葉を重ねた。

2013年に大英博物館で〈春画展〉が開催される以前、日本では春画に関する展示は一度も行われなかった。しかし逆にそのことが、「自国の文化を自分たちの手で紹介しなければ」という細見館長の春画にかける情熱的すぎるほどの熱い想いを際立たせているようでもある。

一方、日文研も1990年代半ばより20年来、妖怪画や春画の保存収集を進めてきた。石上さんは「わらい」と「こわい」というふたつの感性は、人間が持つ普遍的なものであり、この切り口で日本文化を紹介することで、海外の方にも関心を持ってもらいやすくなると考えているそう。

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展
真野暁亭「東都千社納札大会披露」国際日本文化研究センター


――最後に上記以外の注目の作品や、来場者の方へ伝えたいメッセージをお願いします。

石上さん
「日文研では春画と現代をつなぐプロジェクトとして鳥居清長『袖の巻』の復刻事業を進めています。本展覧会では、実際に復刻された錦絵、版木、彫・摺の道具、映像なども展示予定です。江戸時代の技術に、現代の職人たちがどのように挑むのかというところをみていただければと思います」

古くから日本人の興味をひきつけてきた「わらい」と「こわい」。現在に生きる私たちもそれにひかれるのは変わらない。エロティックなだけではない春画、恐ろしいだけではない妖怪画。それらがつなげる世界をこっそり覗いてみよう。

日文研コレクション
描かれた「わらい」と「こわい」展 ―春画・妖怪画の世界―

春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展
メインビジュアル

http://www.emuseum.or.jp/exhibition/ex062/index.html

18歳未満は入館不可(美術館・ショップ)
受付にて、年齢のわかるものをご提示いただく場合があります。

<会期>
2018年10月16日(火)~12月9日(日)
※展示替有り・再入場不可
1期:10月16日(火)~10月28日(日)  3期:11月13日(火)~11月25日(日)
2期:10月30日(火)~11月11日(日)  4期:11月27日(火)~12月9日(日)

<開館時間>
午前10時~午後6時 (毎週土曜日は午後8時まで)
※入館は閉館の60分前まで

<休館日>
月曜日

<入館料>
1,500円(1,400円)
※( )内は20名以上の団体料金
※障がい者の方は、障がい者手帳などのご提示でご優待 (一般:1,500円→1,400円)

(丹野加奈子/イベニア)

あわせて読みたい

  • 妖怪芸術家によるポップな妖怪

    妖怪芸術家によるポップな妖怪

  • 化粧品広告で人気 美女画家は今

    化粧品広告で人気 美女画家は今

  • だまし絵だけではない"エッシャー"

    だまし絵だけではない"エッシャー"

  • 月9ドラマ 美術セットの作られ方

    月9ドラマ 美術セットの作られ方

  • コネタの記事をもっと見る 2018年10月12日のコネタ記事
    「春画と妖怪画のイメージが変わる? 描かれた「わらい」と「こわい」展」の みんなの反応 3
    • 匿名さん 通報

      この手の作品を検索すると、よく海外のサイトにたどりつく、それだけ海外での評価は高い

      5
    • 匿名さん 通報

      要らん!!

      4
    • 匿名さん 通報

      艶やかにまいりましょう

      1
    この記事にコメントする

    \ みんなに教えてあげよう! /

    新着トピックス

    コネタニュースアクセスランキング

    コネタランキングをもっと見る

    コメントランキング

    コメントランキングをもっと見る

    おもしろの人気のキーワード一覧

    新着キーワード一覧

    コネタとは?

    B級グルメやネットで話題のネタを徹底リサーチ! 流行トレンドをおもしろい視点と大きな写真で毎日お届け。

    その他のオリジナルニュース