『おちょやん』第8週「あんたにうちの何がわかんねん!」

第37回〈1月26日 (火) 放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

『おちょやん』「千代はわいとは似ても似つかぬええ娘」寂しさも感じさせたテルヲの言葉
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

テルヲが盗みを……

大部屋中堅女優として、3年間、それなりに暮らしてきた千代(杉咲花)だったが、不景気の波がひたひたと彼女の生活に不安を感じさせていたとき、あの忌まわしき貧乏神・父・テルヲ(トータス松本)が訪ねて来た。

【前話レビュー】“人たらし”のテルヲ(トータス松本)撮影所に潜り込み、千代(杉咲花)のもとへ――

不景気は父、父は不景気。テルヲは不条理のメタファーでもあるのだと思う。
実体があるけど、ないがごとく。だからこそ、撮影所に自由に出入りできてしまう。厳しかった守衛(渋谷天外)が門前払いしないのがおかしい。千代が入れないでくださいと言えば済むことなのに。

千代に「てっぺん」をとらせる! と勝手に盛り上がったテルヲは、まるで家族経営の個人事務所のマネージャーのように、千代にぴったり寄り添い、勝手に所長(六角精児)に売り込む。

そっと分厚い封筒を渡すものだから、どこからそんな大金? と思ったら、その頃、カフェー・キネマではボーイの平田(満腹満)宮元(西村和彦)に何かが「なくなっている」と不穏なことを言っている。やっぱり……と思ったら、店の割引券が消えていた。

さすがにお金を盗んだら大問題になって、カフェー・キネマにいられない。テルヲはそれをわかっているのか、作劇の都合か定かではないながら、封筒をのぞいて中に入っていたのが割引券だったときの所長の表情がおもしろかったので、無問題。

「地獄や……」

テルヲは撮影現場にもずかずか入ってきて、わきまえなく大声でしゃべる。この時代の映画が無声映画だからよかったけれど、そうでなかったら声が録音されてしまって大問題になる。こういう一般の方は時々いて、現場泣かせなのだ。

せっかく、千代が『家政婦は見た!』的な役割――つまり、現場を目撃するシーンを演じているところを邪魔する。
そして、主演女優・滝野川恵(籠谷さくら)を「ぶさいく」と言って怒らせ、セットを倒して、主演俳優・百々之助(佐藤太一郎)が下敷きに。散々。

「地獄や……」と千代はつぶやく。ふつーだったら、厳重に、テルヲを出禁にするはずだが、なぜか、野放しになっている。この時代はおおらかだったということか。

『おちょやん』「千代はわいとは似ても似つかぬええ娘」寂しさも感じさせたテルヲの言葉
写真提供/NHK

千代、試験(オーディション)を受ける

そうこうしていると、千代にチャンスが。新作『鳥籠』の主役は試験(オーディション)で選ぶことになり、千代も受ける。

カフェー・キネマのみんなは千代の練習に協力し、テルヲは撮影所で仕入れてきた化粧品や補正下着(乳ふとん)をもってきて千代にすすめる。3年、撮影所にいるのだから、そんなことを千代が知らないとは思えないのだが、千代はかまってもらえるのが嬉しいのかもしれない。この場はみんな千代の味方で、こんなに彼女が中心になったことは『正チャンの冒険』以来であろう。孤独な千代にはたまらない時間であるはず。

『おちょやん』「千代はわいとは似ても似つかぬええ娘」寂しさも感じさせたテルヲの言葉
写真提供/NHK

洋子(阿部純子)真理(吉川愛)の女優業はどうなっているのか、もう諦めたのか、よくわからないが、そこもスルーして、いまは千代のことだけ見つめていたいと思う。

いつもより化粧を濃くして、試験を受ける千代。
みんなの目が違うことに気づき、いけるかもわからへんと気をよくするが、単に化粧が濃すぎるのだと思う。

セリフを言い始めると、社長(中村雁治郎)が茶碗を落とす。そのとき、千代はすこしも騒がず、芝居を続ける。茶碗の音を波の音に見立て、アドリブセリフらしきものを言って演技をやり終えた。

でもここで、審査員たちは「おおっ、茶碗の音を生かして!」――とか全然言わない。第1話の冒頭で、黒衣の説明をしているくらいだから、演劇のノウハウだったり、千代の芝居の巧さを、もうすこし際立たせる工夫があってもいいのではないか。とはいえ、福田雄一と指原莉乃の演劇ドラマ『ミューズの鏡』みたいになると、年配の朝ドラファンを逃す危険性もある。……などと筆者が思いながら観ていると、けっきょく、千代は試験に落ちる。

世の中、お金

滝野川恵の父親がお金を積んで主役を獲得したのだ。千代はまた世間の不条理に負けた。こういう展開だから、千代の才能の片鱗にはまだ触れなくていいってことかもしれない。

テルヲの割引券よりお金のほうが強い。こう思うと、貧しい環境に生まれ学がなく機会に恵まれないため貧しさから抜けることのできないテルヲが哀れになる。


ふいに千代を想うセリフ「わいなんかとははな、似ても似つけやへん、ええ娘やねん」などと言って、テルヲだってこの世の中の被害者なのであるみたいな流れができる。千代は努力家で友達もたくさんいるっていう言葉にはテルヲの寂しさがある。なにをやってもうまくいかず、仲間もいないテルヲ。世の中にはこういう人もいるよなあ。

そんなテルヲを無視できない千代。社長に文句を言いに言って怪我したテルヲ(ここで所長の大事にしている金色の玉にぶつかるところが滑稽さを増幅させる)を看病する手付きには情があり、無条件に触れ合える相手との記憶に浸っているようだった。

大病院の息子らしいお坊ちゃんの小暮(若葉竜也)は小暮で、千代のおてもやん化粧を「僕は好きだよ」と言って、慌てるという、千代に気持ちを寄せてきているような感じに。テルヲは小暮を「色男」とか言ってまんざら嫌いじゃないみたいで。小暮にへんに絡んでこないといいけれど……。

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■杉咲花(竹井千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西村和彦(宮元潔役)プロフィール・出演作品・ニュース
■吉川愛(宇野真里役)プロフィール・出演作品・ニュース
■若葉竜也(小暮真治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■六角精児(片金平八役)プロフィール・出演作品・ニュース
■ファーストサマーウイカ(ミカ本田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■朝見心(純子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■籠谷さくら(滝野川恵役)プロフィール・出演作品・ニュース
■竹井テルヲ(トータス松本役)プロフィール・出演作品・ニュース
■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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