『おちょやん』第20週「何でうちやあれへんの?」

第99回〈4月22日(木)放送 作:八津弘幸、演出:盆子原誠〉

朝ドラ『おちょやん』一平のどあほ!『あさイチ』鈴木アナ「ぶっちぎりで『だめ自慢』優勝」
イラスト/おうか
※本文にネタバレを含みます

「俺と離縁してくれへんか」

千代(杉咲花)一平(成田凌)灯子(小西はな)の三角関係は悲劇へーー。苦渋に満ちた千代を支えるのは養子同然の寛治(前田旺志郎)だった。

【前話レビュー】「さんざん面倒見てきた女と密通」した一平「絶対許せへん」

今週は観ていてもやもやが止まらず、BSの「早おちょ」放送から観てしまった。
この頃、8時の本放送しか観ていなかったのに。それだけ良くも悪くも心を激しく動かすことはたしか。ただし劇薬である。

みつえ(東野絢香)から一平の伝言を聞いた(第98回)千代は朝10時に稽古場に向かう。見送る寛治が「今日はきれいやな」と声をかけると、「あほ、今日もや」と千代。

まるで本番に赴くかのように艶やかに紅を差し、稽古場で待つ千代。だが人の気配に振り返ると、熊田(西川忠志)だった。

「急用ができたさかい、家で待っといてくれ、て」と熊田から聞いても千代は動かない。黄昏時まで稽古場にじっと座っている。稽古場がやけに広く感じられる。そこにかかるのは宇宙のようにもの悲しげな劇伴。

やがて、家で待っていても帰ってこない千代にしびれをきらしたのか、一平がやって来る。


一平「熊田さんから聞いてへんのか」
千代「なんとのう、ここにいてたかってん」

ここから千代と一平にはいちいちずれが起こる。まさに悲喜劇の様を舞台中継のような引きで映す。

待ち合わせの約束を反故にした一平は、そのとき、灯子が黙って出ていくところにうまいこと出くわして「どこにもいかんといてくれ」と引き止めていた。

千代が先に離婚届を出しているにもかかわらず、「堪忍。俺と離縁してください」と土下座する一平。「うん、ええで」と千代は冷たく返す。

一平は千代から渡された離婚届をいったんくちゃくちゃにしてしまっていた。灯子が黙って出ていかなければ、千代とやり直す気持ちだったのか。

離婚の理由は「生まれてくる子を守ってやりたい」。自分が悪いにもかかわらず、千代のプライドを立てることをせず、逆に彼女をどんどん追い込んでいく一平。「予選なしで『だめ自慢』に出れますね」と『あさイチ』で華丸が言っていたが、ホントにそう。

それにしても一平がこここまでええかっこしいだったとは……。
千代の唯一の強がりは、新喜劇を辞めないこと。うーーん切ない。家で話すより稽古場にいたかったのは、彼女にはもう芝居しかない印であろうか。

朝ドラ『おちょやん』一平のどあほ!『あさイチ』鈴木アナ「ぶっちぎりで『だめ自慢』優勝」
写真提供/NHK


朝ドラ『おちょやん』一平のどあほ!『あさイチ』鈴木アナ「ぶっちぎりで『だめ自慢』優勝」
写真提供/NHK

「40過ぎてまた同じこと繰り返してしもうた」

千代が帰宅すると、一平は当然いなくて、寛治が食事を作って待っていた。

「勝手に子供つくって、うちは邪魔者や」と30年前、テルヲ(トータス松本)の後妻・栗子(宮澤エマ)に子どもができて奉公に出されたことと今を重ねる千代。これもひとつの伏線回収? それはさておき、古今東西、こういう出来事が常に起こっていて、たくさんの女性が苦しんでいることを表現しているのだろうか。

「今は僕が一緒にいてますやんか」と寛治が言うと、せきを切ったように怒りが沸いて出る千代。自分がいたからいまの一平(二代目天海)があるのに、「なんでうちやあらへんの」と言う。寛治が「一緒にいてますやんか」と言ったことに「ありがとう」も言わず、怒りをぶちまけるのも人間の業だし、養子同然とはいえ、生んだ子ではない。実子のできた灯子のほうが強いと暗に感じさせて、またつらい。

そう、もしも、ここで千代が我を張ったなら、生まれてくる子が親に捨てられた子になってしまうのである。千代も一平も親の愛に飢えてきて、それがふたりをつないできた。孤独な子どもを作るわけにはいかない。


思えば、やや子ができたと医者から聞いたときの一平の顔(第97回)は、よくよく見れば、絶望とも希望ともつかない顔に見えるのである。一平の子どもが欲しかった気持ちもわからなくはないのだが、千代が不憫でならない。

寛治は「どあほ!」と一平の着物をタンスから出して力まかせに畳に投げつける。何枚も、何枚も。千代も一緒に投げつけて少しだけすっきり。びりびりに破らないところが寛治と千代の優しさか。

さて、週の終わり、金曜日第100回は晴れるだろうか。

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■杉咲花(天海千代役)プロフィール・出演作品・ニュース
■成田凌(天海一平役)プロフィール・出演作品・ニュース
■西川忠志(熊田役)プロフィール・出演作品・ニュース
■前田旺志郎(松島寛治役)プロフィール・出演作品・ニュース
■小西はる(朝日奈灯子役)プロフィール・出演作品・ニュース
■篠原涼子(岡田シズ役)プロフィール・出演作品・ニュース

■桂吉弥(黒衣役)ニュース


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番組情報

連続テレビ小説『おちょやん

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り

<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)

<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送

<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

:八津弘幸
演出:梛川善郎
音楽:サキタハヂメ
主演: 杉咲花
語り・黒衣: 桂 吉弥
主題歌:秦 基博「泣き笑いのエピソード」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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