朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第3週「1942-1943」
第13回〈11月17日(水)放送 作:藤本有紀、演出:橋爪紳一朗〉

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「せめて晩ごはんぐれえ」算太、出征
突然いなくなったと思ったら突然帰って来る算太(濱田岳)。彼の元に召集令状が届いたのだ。家族の誰かにだけ連絡先を知らせていたのか、算太は戻ってきた。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜13回掲載中)
算太は母・小しず(西田尚美)とはこっそり連絡をとっていたのかもしれない。「せめて晩ごはんぐれえ」と言う小しずだが、金太(甲本雅裕)は「赤の他人」だとけっして許そうとしない。
心配しておにぎりを握る小しず、見送りに出ず菓子をこね続ける金太。ふたりの親、それぞれの両腕に込めた力に心が宿る。「お国のために……踊って……もとい戦うて参ります」。おにぎりの包をさり気なく抱えた算太が挨拶で壇上に登る足さばきはダンスのステップのようだった。
この時、勇、稔、安子は…… 制作者に聞いてみた
どんどん状況が悪くなっていくが、安子(上白石萌音)は「私にできることねえ?」とすっかり気落ちした金太に言う。いい子過ぎる。このとき、黄昏の家の中、安子が歩いてくるストロークが寂しくも美しく撮られている。金太は安子と稔(松村北斗)の仲を許してやればよかったと肩を落とす。
安子と稔はあれから(第12回)離れたまま。帰省した折、稔に縁談があることを知った勇(村上虹郎)は急遽稔のいる大阪に向かう。
「兄さんだから諦めたんじゃ」と勇が稔に激しくぶつかっていく。これまであくまでも淡々と牽制しあってきた兄弟の真剣さがスパークした。このシーンの撮影はどうだったか、制作統括の堀之内礼二郎チーフプロデューサーと斎藤明日香プロデューサーに聞いてみた。
ふたりの俳優の真剣さによって緊張感ある場面になっている。ところで、稔と勇、共に惹かれる安子を演じる上白石萌音さんの魅力は?

人々の暮らしの点描
冒頭は庭のあじさい。ラジオではミッドウェーを強襲したと臨時ニュースを報せる(1942年6月5日であろうか)。職人たちも皆招集された。あじさいはやがて野菜畑に変わる。家庭菜園はいいものだが、戦争で食糧難のための自給自足と思うと寂しく、だが青々と元気に育った野菜は力強い。「戦争は庶民の当たり前の生活を様々な形で歪め蝕んでいきました」(ナレーション・城田優)とはなかなか辛辣な言葉である。「歪め」「蝕む」には歯ぎしりしたくなるような響きがする。
「進め一億火の玉だ」の看板の下で野球する勇たち。ストライクは「正球」、ボールは「悪球」。
第12回で父・定一(世良公則)と絶妙に合った動きを見せていた健一(前野朋哉)までひっそりと出征していた。「出歯口の憂鬱」「歪め」「蝕む」こういう濁点のある言葉の響きにはある種の共通の感情がこもっているような気がする。
一方、安子は母と苦労してもらってきた小豆で、老体に鞭打って畑仕事をしたため寝込んでいる祖父・杵太郎(大和田伸也)のためにお汁粉を作ろうとする。「小豆」にも濁点は入っているが、こちらは不思議と明るさややさしさがある。

商店街を歩く安子が千人針を頼まれ縫っていると、街頭ラジオから学徒出陣のニュースが流れてくる。学生は戦争に行かないでいいものと少し安心していたら、学生を動員するまで戦争は進行していた。千人針の手を止めた安子の脳裏に浮かぶのは稔のこと……。上空からの安子を俯瞰するアングルがこの先の不安を感じさせる。
時はいつの間にか1943年まで進んでいる。安子と小しずが小豆をもらってきたときのラジオのニュース「ガダルカナル島撤収作戦」が1943年2月を表していて、学徒動員が1943年10月。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami