2009年のスマイレージ(現・アンジュルム)結成時よりグループを牽引してきた、和田彩花。その彼女が6月18日の日本武道館公演をもって、ついに卒業する。
デビュー時は不思議キャラとして衝撃を与え、その後現在の強みとなる「美術」や「仏像」といったカルチャーへの熱意を武器に、アイドル界以外からも評価される異色のアイドルに成長。その「自分らしさ」を貫く和田の姿は多くのアイドルに多大なる影響を与え、アイドル界外からも注目を浴びた。そんな、多方面から愛される和田彩花の魅力を卒業記念してみうらじゅん氏と「仏像とアイドル」を語る特別対談を2回にわたってお届け。1回目は仏像編から。
みうら 聞いていますよ、仏像が好きなんでしょう?

和田 はい! でも、もともとは西洋絵画が好きだったんですよ。どちらかというと仏像は苦手でした。漢字も読めないし、顔の見分けもつかなかったんですよ。でも、大学で本格的に美術を勉強するということになったとき、やっぱり一度はきちんと日本の美術や文化も知っておかないとマズいなと感じたんですね。だから最初は勉強というかたちで仏像に入りました。

みうら そうですか。僕は教科書で習う前に仏像を好きになったので、逆にラッキーだと思いました。勉強が昔っから嫌いだったもんで(笑)。


和田 それで言うと私も最初に仏像を学ぼうとしたとき、学校の先生に薦められたのが『見仏記』(みうらじゅん・いとうせいこう共著)だったんですよ。

──あの本を学校の先生が薦めるというのもすごい話ですね。

和田 でもあの本から入って本当によかったと、今も思います。『見仏記』って歴史とか美術的な角度とは関係なく、自由な発想で仏像を楽しもうって提唱している本じゃないですか。怪獣とかに例えるのがいい例ですけど。私はショックを受けると同時に、「ここまで自由に見ることが許されるんだ!」って気持ちが解放されたんです。仏像をセクシーだと表現するセンス、普通はなかなか出てこないですから(笑)。

みうら かつては仏像のことを表現するフレーズって決まっていたじゃないですか。「たおやかな微笑み」とか「崇高な美しさ」とかね。いとうせいこうさんと『見仏記』を始めた25年くらい前もそうでしたが、本来感じ方や見方はもっと自由でいいんじゃないかと思っていました。まあ、当時はお寺の方からよく叱られていたんですけどね(笑)。

和田 やっぱり、最初はそういう保守的な反対意見も多かったんでしょうか?

みうら いやあ、初めての試みはとにかく叱られるものですよ(笑)。
だけど仏教界はね、もっとい人にもどんどん門戸を広げていかないといけないと思うんですよ。ところで和田さんは実際によく仏像を見に行かれるんですか?

和田 そうですね。『見仏記』を読んでからは一気に仏像にのめり込むようになって、お母さんと一緒に奈良に行ったりもしましたし。奈良では中宮寺の半跏思惟像に圧倒されましたね。やっぱり実物を見ると違うんですよ。心にストレートに響いてくるというか……。こっちに与えてくるパワーが写真とは全然違う!

みうら 分かります。けどね、“パワー”ってちょっとヤバいフレーズが出ましたね。和田さんは、入信されているってことは……(笑)。

和田 全然ないです! そこは気にしないでください(笑)。だけどパワーをもらうっていうのは、仏像に限らず、すべての美術作品で私が重視しているポイントなんですよ。

和田 ちなみにみうらさん、仏像を見るときはお寺派ですか? 美術館派ですか?

みうら それはもちろんお寺派ですよね。
時の流れで仕方なく配置が変わっていたとしても、それが本来あるべき姿だと思いますから。

和田 美術館での展示は、出張みたいなものですしね。

みうら そうそう。だけど最近では美術館も照明とか見せ方に凝っているでしょう。そっちのよさもあるんだよね。

和田 そうなんですよ。近い距離でじっくり見る美術館の仏像もいいなって。私、最近はパワーうんぬんよりも仏像の構造的な部分が気になるんですね。美術史を本格的に学ぶと当然いろんな作品を見ることになるわけですけど、そうすると仏像に対しても1つの作品として対峙するように自然と変わってきたんです。「これはどういう作りになっているのかな?」とか、構造的な部分の方が気になっちゃって。

みうら それ、「これは寄木造だな」とか「やったー! 脱活乾漆像だ」とかでしょう(笑)。

和田 そうです、そうです! その角度で見ていくと、やっぱり私は運慶が一番ビシッと来るんですよ。


みうら 独創性に溢れていますもんね。運慶と快慶は教科書でも習うし、名前くらいはみんな知っているだろうけど、運慶が作ったものは、実は48体くらいしか見つかっていないでしょ?

和田 あぁ、そのことは私もずっと不思議に思っていたんですよ。

みうら 一番有名な東大寺南大門の仁王像だって、実際はプロデューサーだもんね。仏像の世界にプロデュースという概念を持ち込んだ革命児でもありますけどね。分業システムで仏像を作ったからこそ、短期で完成したわけでさ。それまでは1人の仏師が作るのがルールじゃないですか。で、ここからは僕の仮説なんだけど、なぜ運慶はこうまで作品が少ないのか? 思うに、運慶作品の中には、クライアントの意にそぐわなかったものもあったんじゃないのか? って。

和田 え~!? でも、そんなことが本当にありえるんですかね!?

みうら いやいや、あくまで仮説ですよ。快慶の場合は穏やかな仏像作りが得意だから、明らかにクライアントが満足しそうじゃないですか。だけど運慶は仏像に血管を浮かび上がらせたりして、より人間臭くするわけでしょ。それって“仏”の概念じゃないもの。

和田 分かります! 仏師というよりも芸術家ですよね、運慶は。
個を前面に打ち出す作風というか。

みうら ですよね。仏像に作者名を入れるようになったのも運慶からだもんね。しかもデビュー作(奈良県・円成寺、大日如来坐像)から。それと運慶の場合、親父に対する意識も強かったんじゃないですかねえ……。

和田 父親って康慶ですよね。これまた有名な仏師ですけど。

みうら そう。親父も仏像界に新風を巻き起こした人ではあるけど、息子はさらにルネッサンスを狙っていたのでは? 完璧なアーティストですもんね。

和田 私が運慶に惹かれるのも、その作家性だと思うんです。自分で切り拓いている感じがすごいなって。

和田 みうらさんの場合、一番好きな仏像って何になるんですか? もちろん「好き」にもいろんな種類があるとは思うんですけど。


みうら そうですねえ。いろいろおられるんですけど、滋賀県にある渡岸寺の十一面観音は、やっぱりすごいですよ。

和田 渡岸寺の十一面観音ですか? すみません、知らなかったです。

みうら 仏像というと、やっぱり京都と奈良が中心になりがちだけど、実は滋賀も相当アツいんですよね。琵琶湖一円を僕は「仏ゾーン」って呼んでいます(笑)。たぶん大陸から仏像が入ってきたとき、若狭(福井県)のあたりから滋賀を通って京都にたどり着いたんじゃないですかねえ。ぜひチェックしてみてください。

和田 そうか~。滋賀県のお寺は完全に盲点でした。行ったこともないし、ぜひ攻めてみたいです!

みうら 攻め込んじゃいけませんよ(笑)。渡岸寺の十一面観音の特徴は、顔の両脇にヘッドフォンのように2つの顔が並んでいるところです。十一面だからいろんな表情の顔が並んでいるんですが、裏には暴悪大笑面っていうあざけり笑う顔もあるんです。異形なんだけど、ものすご~くセクシーな仏像なんだわ。

和田 うわ~、見たい!

みうら 和田さんも見たら一発で好きになると思います。エキゾチックなお顔でキュッと腰をひねってらっしゃる。

──みうらさんの場合、趣味の仏像巡りが仕事に繋がった稀有な例だと思いますが、和田さんの仏像好きが仕事に影響を与えることは?

和田 ファンの方に「あやちょのおかげで自分も仏像に興味が出てきたんだ」って言われることは当然あります。私が『見仏記』を通ったことで仏像を身近に感じられるようになったのと同じく、私も自分の分かりやすい言葉で仏像の魅力を伝えていきたいなと思っているんですよ。

みうら よろしくお願いします! もっとテレビとかで発信していってださいよ。仏教界も和田さんに盛り上げてほしいと思っているでしょ、そりゃあ(笑)。

和田 そうなんですか?

みうら 若い人にもお寺の魅力を広めたいっていうのは真剣に考えていると思いますよ。しかも、僕らのようなジジイじゃなく、こんなに可愛くて、しかも仏像の魅力を熱く語る子がいたら、お寺の方も放っておかないですって(笑)。

──和田さんの仏像好きは、「タレントとしての特徴を作ろう」というところから始まったものではないですよね。

和田 そうですね。別に私はこれを仕事に結びつけたいなんてまったく思っていなくて、単純に好きだから公言しているだけなんです。だけど仏像って引っ掛かりワードとしては抜群なんですよ。「女の子なのに仏像が好き? なんで?」っていう反応が結構多いんですね。あと、よくあるのが面白がられるパターン。正直言って、それはまったく納得いっていないです。だって私が夢中になって話せば話すほど、ニヤニヤ笑われるんですよ?

みうら 和田さん! 申し訳ないけど、それはしょうがないです(笑)。ずっとその状態は僕が小学生時代から変わっていませんから。

和田 そうか~(笑)。

みうら だからこそ、和田さんみたいな存在は、これからますます貴重になっていくんじゃないかと思いますけどね。

(「アイドル」編に続く)
▽和田彩花(わだ・あやか
1994年8月1日生まれ、群馬県出身。A型。ニックネームは「あやちょ」。2009年にスマイレージのオリジナルメンバーとしてデビュー、2015年にアンジュルムへと改名。現在に至るまでリーダーとしてグループを牽引しつつ、2016年よりハロー!プロジェクトリーダーも務めている。

▽みうらじゅん
1958年2月1日生まれ、京都府出身。AB型。イラストレーターなど、幅広い分野で活動している。信仰や美術品としての視点とは異なる独自の観点から各地の仏像を鑑賞することを目的に、いとうせいこうと共著した『見仏記』は和田を始め、多くの仏像初心者に影響を与えた名著。
▽アンジュルム最新アルバム『輪廻転生?ANGERME Past, Present & Future?』
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▽和田彩花(アンジュルム)卒業記念パーソナルフォトブック『和田彩花』(オデッセー出版)
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▽「ハロプロ プレミアム アンジュルム コンサートツアー 2019春 ファイナル 和田彩花卒業スペシャル 輪廻転生 ?あるとき生まれた愛の提唱?」
6月18日(火)に日本武道館にて開催

▽『見仏記 道草篇』(KADOKAWA)いとうせいこう、みうらじゅん 著
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