──お2人は初めての顔合わせということですが、大木さんが1989年8月18日生まれ、松村さんが1990年1月17日生まれと学年は一緒ですね。
大木 同級生対談ということでうれしいです。
松村 同級生って知らなかったんですよ。ファンの人に言われて「え~!?」みたいな。
──以前、松村さんにはENTAME nextで大木さんの著書『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』の書評を書いていただきましたが、その依頼がある前から関心を持っていたそうですね。
松村 すーちゃん(佐藤すみれ)が何度もツイートしていたので気になってリンク先をクリックしたら、SKE48で一緒だった(藤本)美月と(菅)なな子も出てるから、「へ~! 何話しているんだろう」って気になってて。そしたら、ちょうど依頼をいただいたんです。
──松村さんの書評を読んで、大木さんはどう感じましたか。
大木 それまで会ったこともない、AKB48時代にも関わりのなかった私に愛情のある感想をいただいてうれしかったです。本の序文から丁寧に読んでいただいて、内部にいた方からはこういう感想をもらえるんだって勉強になりました。
──深く感謝したと(笑)。松村さんに対してどんな印象を持っていましたか。
大木 もともとお名前は知っていましたけど、深く知ったのは、ここ1年のことです。SKE48を卒業されるということでweb記者として追っていたんです。卒業公演で「一時期すごい(SKE48が)大っ嫌いで『なんなんだこのグループ!』って思ったこともあったんですけど、そんなこと今は絶対口に出したくないくらい大好きな場所です。自分自身のこれからの人生考えたら、ここに甘えていたらいけないなと思って卒業を決心させてもらいました」というふうにおっしゃっていましたが、今はセカンドキャリアで何をされたいんですか?
松村 今年3月にSKE48の運営が、AKSから「株式会社SKE」(KeyHolderの関連会社として新設、7月より「株式会社ゼスト」に社名変更)に変わったんです。それがきっかけです。「グループにいたいんだったら、ずっといれば」みたいな雰囲気なんですよ。実際、私が卒業を口にしたときも「別に辞めなくてもいいじゃん」って反応だったし、このままだと30代になっても、ずっといちゃうなと思ったんです。
──居心地の良さが、逆に卒業を意識させたということですか?
松村 ですね。ずーっと“中学2年生の部活の夏休み”というか。
──一種のモラトリアムですね。
松村 このままAKB48グループの、1年間のローテーションに乗っていたら5年後も同じじゃないかって思ったんですよ。もちろんグループでの活動以外にも、自分がやりたいお仕事もいっぱいさせていただいたんですけど、ローテーションは変わらないんです。これを35歳ぐらいまで続けて、アイドル松村香織じゃない、1個人として成長するのかなって。
──SKE48の松村香織としてやり切った面も大きかったですか?
松村 それはありますね。
大木 なるほどー。
松村 運営はもちろん、先輩の(松井)珠理奈さん、ちゅり(高柳明音)さん、(斉藤)真木子も私に怒ってくることもないし、後輩も逆らってこないし。こんなに居心地の良い場所はないんですよ。でも大木さんみたいに同じ年でバリバリ仕事している方もいらっしゃるじゃないですか。私の同級生も働いてたり、子育てをしたりしてるのに、このまま30歳になって10代のメンバーたちに怒ってるとかどうなのかなと(笑)。
大木 一般企業でも、上司と信頼関係ができていて、部下や後輩にも恵まれているのに転職する方って多いですけど、それと同じですよね。松村さんのお話を聞いて、アイドルは社会の縮図だなって改めて確信しました。
松村 楽しいけど現実も見ないとなって。
──SKE48にいて恋愛が制限されることのストレスはなかったんですか。
松村 それはなかったです。私の場合が特殊なのかもしれませんが、普通に地元の男友達に誘われたら飲みに行ってましたし(笑)。恋愛感情があるわけじゃないですから、たとえ、その姿を週刊誌に撮られても、「飲みに行って何が悪いの?」って、そこに対してコソコソすることもなかったですからね。まあ自分自身のキャラに助けられていた部分もありますけど。
大木 私のいたSDN48はお姉さんもいる、既婚者もいるグループだったのでSKE48とは環境が違います。私は25歳でアイドルを辞めて転職しましたけど、29歳までアイドルを続けていた松村さんと、会社員になった私が、ほぼ同じようなことを経験して、同じようなことを考えていたのは新しい発見です。私も会社で信頼性ができて、上司とも後輩とも良い関係で、でも転職しようと思ったんです。なので共感する部分は多いです。
──大木さんはアイドルを卒業して働きながら「アイドルという名の十字架」を感じたと著書で綴っていますが、書評によると松村さんはあまり感じていないそうですね。
松村 競馬のイベントなどで「元SKE48って書いていいですか?」って聞かれるんです。
大木 松村さんは2013年にSKE48終身名誉研究生に就任されるなど、グループを知り尽くし、楽しみ尽くしたと思うんです。でも私はSDN48の2年半、選抜にも入れなかったし、センター争いも無縁だったし、常に客観的な立ち位置で2年半を過ごしたので、SDN48にお邪魔していたって感覚がどこかにあるんです。アイドルを経験させてもらったけど、自分のアイデンティティはどこにあるんだろうって。それから会社員になったけど、「元アイドルなんだね」って言われることも多かったし、ライターとして元アイドルの視点で仕事を取ってこれたこともあったんです。それは、めちゃくちゃうれしかったし、会社にも貢献できたと思う反面、「元アイドルって今の職業ではないしな……」という気持ちもあって。周囲は優しかったんですけど、勝手に私が邪推しちゃって悩んでたんです。SDN48という屋号がデカすぎて、持て余していました。それも『アイドル、やめました。』の取材を通して成仏していったので、今はネガティブな気持ちはないですけどね。
──松村さんはフリーになることへのプレッシャーはなかったんですか。
松村 プレッシャーよりも1回やってみようって気持ちのほうが強かったですね。そこまでプライドも高くないので、本当に食うに困ったら偉い人に頭を下げようと(笑)。
大木 素晴らしい!
松村 フリーになるときも、「事務所に入らないか」って言ってくださる方もいたんです。でも1回フリーでやりたいので、困ったときに連絡しますって。グループを卒業して思うのは、SKE48という肩書きは大きいし、グループにいたからできる仕事も多いけど、握手会があったり、他のグループとの競合があったりで、できない仕事もたくさんあるんです。事務所が守ってくれてるからこそ、できないお仕事もあるかもしれないじゃないですか。いろんな顔色を窺うのも面倒くさいし、フリーになると明らかな競合以外に障害はないし。いろいろ気にするのが嫌だったんですよね。
──先日、松村さんは現役のSKE48メンバーである大場美奈さん、芸能界を引退してOLをやっている島田晴香さんと3人で食事をしたそうですが、そういうときにグループ卒業後の話はするんですか。
松村 めちゃめちゃしますよ。そのときも美奈は「めっちゃ不安」って言ってました。それに対して島田はバリバリ働いている感じで、広尾のカフェに集まったんですけど、ノートパソコンを開いてメールチェックとかしちゃって(笑)。
──みなさん十代から芸能活動をしている訳ですからね。
松村 ただ株式会社SKE(現・株式会社ゼスト)の社長がメンバーのセカンドキャリアについて考えてくれていて、説明会でも「私たちのところに来てくれたからには、卒業した後に何かお仕事をしたかったら紹介します。路頭に迷うような辞め方はしてほしくないですし、そこまで会社としてサポートしたいと思っています」って言ってくれたんです。親会社の株式会社KeyHolderは上場企業で関連会社もたくさんあるので、本当にやりたいんだったらセカンドキャリアの場所も用意してくれるそうなんですよ。
大木 運営側も何百人も若い女の子を預かっているんだから考えるところもあるでしょうしね。
松村 なので今後はSKE48の元メンバーが関連会社で働くこともあるんだろうなって思いながら説明会を聞いてました。
──確かに学生時代も、就職期間中もアイドル活動をしたメンバーに対して、なにがしかの保証があって然るべきですよね。松村さんも数年後には関連会社で働いている可能性がありますね。
松村 就職したいって言えば紹介してくれると思います。まあ今まで接客業しかしてない私に、そんな簡単にOLは勤まらないと思いますが(笑)。
▽松村香織
1990年1月17日生まれ、埼玉県出身。2009年にSKE48 第3期オーディションに合格。Google+の動画番組で頭角を現し、2012年にはAKB48の「ぐぐたす選抜」に選ばれる。自身の薄毛やメイド喫茶勤務の過去をネタにする破天荒キャラで人気に。2013年にはソロ曲『マツムラブ!』、須田亜香里とのユニット曲『ここで一発』を発表。2015年の総選挙では13位にランクインし初のAKB48シングル選抜メンバーとなる。2019年5月2日にSKE48を卒業。以降は芸能事務所に所属せずフリーとして活動している。Twitter:@kaotan_0117
▽大木亜希子
1989年8月18日生まれ、福島県出身。2005年、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』で女優デビュー。2010年に2期生としてSDN48に加入。2011年にはAKB48グループの一員として『NHK紅白歌合戦』に出場。2012年にSDN48を卒業。2015年に「NEWSY(しらべぇ編集部)」に入社。PR記事作成を担当する。2018年、フリーライターとして独立。Twitter:@akiko_twins
▽『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』(大木亜希子著/宝島社刊)
元SDN48メンバーで現在はフリーライターとして活動する大木亜希子が、AKB48グループ卒業生ら8人の今を取材したノンフィクション。登場するのは佐藤すみれ(クリエイター・元AKB48/SKE48)、河野早紀(ラジオ局社員・元NMB48)、赤澤萌乃(アパレル販売員・元NMB48)、藤本美月(保育士・元SKE48)、菅なな子(広告代理店社員・元SKE48)、山田麻莉奈(声優・元HKT48)、三ツ井裕美(振付師、元SDN48)、小栗絵里加(バーテンダー、元AKBカフェっ娘)の8人。