北村匠海主演の『サバ缶、宇宙へ行く』(フジテレビ系)は、教師と高校生が"宇宙食開発"という夢に挑んだ、福井県・若狭水産高校の実話をもとにした物語だ。

【写真】『サバ缶、宇宙へ行く』の場面カット【3点】

令和の今、SNSでは「地方は不利」「都会に生まれたら恵まれている」といった声も少なくない。
しかし本作を観ていると、その土地ならではの可能性があり、地方出身者が必ずしも不遇ではないと改めて気づかされる。

◆「こんなところ」と卑下したくなる理由

本作を観ていて気になったのが、"こんなところ"という台詞の多さだ。この言葉を若狭水産高校の教師と生徒を含むこの町の人たちが、ふとした瞬間に使っている。

時代を問わず、高校卒業後、東京などの大都市圏に移る人は多い。しかし、地方から都会に出るには、家族の理解や本人の気力・体力も必要となるため、簡単なことではない。

菅原奈未(出口夏希)が担任の朝野峻一(北村匠海)に打ち明けた胸の内は、こうした現実を如実に表していた。

「ここで生まれたんやから、ここで働いたらいい。何となくそう決まっとって、何となくみんなここで働く。別に諦めとるっていうんじゃないけど、みんなそうやし、そういうもんやって。大した夢があるわけでもない」

若狭水産高校の生徒の保護者の多くは同校の卒業生で、自分が生まれ育った町で働き、家庭を築いて暮らしている。彼らはおだやかな表情をしており、楽しそうだ。

しかし、その当たり前の空気の中で、生きづらさを抱く者もいる。
「ここで生まれたんやから、ここで働いたらいい」という言葉は、居場所があるという安心感を与える一方で、別の生き方を望む人には足かせにもなりうる。

また、外の世界を知る人ほど、地域特有の雰囲気や利便性の低さに適応しにくいこともある。

東京から父の実家があるこの町に転校してきた菊池遥香(西本まりん)は、東京で暮らす友人のブログを見るたびに羨ましく思っている。遥香がブログに書くことといえば"こんなとこにいて何が楽しいのか"といったことばかりだ。

渋谷に日常的に行ける距離に住み、ゲームセンターで遊んだりマカロンを食べたりする日々を送っていれば、たこ焼き屋と定食屋くらいしかないこの町が物足りなく感じるのも仕方がない。

では、地方は本当に可能性が狭く、"こんなところ"とボヤくほどつまらない場所なのだろうか。

◆その土地にしかない価値

劇中で黒瀬正樹(荒川良々)は、赴任したばかりの峻一にこう語る。

「この学校はな、今はもう夢を追う学校ちゃうで。現実と戦う学校」

さらに、生徒について説明する。

「魚の目利きも包丁さばきもプロ並みやで。この技術を身につけて卒業させる。うちの出身者がこの町で生きていくためには必要な技術やからね」

若狭湾はサバの漁獲量が多く、この地では捕獲や加工の技術があれば生計を立てられる。
しかし、高校生がサバを捕獲・加工する未来にワクワクするかというと、そう単純でもないだろう。

一方で、将来がぼんやりと見えている点は若狭水産高校の生徒も都会の高校生も、実は大きく変わらないのかもしれない。

筆者自身、文系私立大学進学を目指して勉強していたが、"大学を卒業したら会社で働くもの"と思っていた。その未来に期待していたわけではないが、満員電車に揺られて通勤し、どこかのオフィスで働く将来像しか描けていなかった。

だからこそ、奈未たちが知識を共有しあい、大型クラゲからコラーゲンたっぷりのクラゲ豆腐を開発する姿はまぶしく映った。同時に、自分は受験のための勉強しかしてこなかったという思いもよぎった。

また、大人の視点で見ると、都会のカフェでマカロンを友人と食べる高校生も、海辺でお弁当を食べる高校生も、その笑顔にも"楽しい時間"にも差はないように感じられる。

遥香が撮影したクラスメイトの写真と、東京の友人がブログにアップした写真には、その笑顔において違いがなかった。

SNSでは「都会に生まれたら当たり」という声もあるが、自分次第で"アタリ"も"ハズレ"もないだろう。あえていうならば、自分の適性や趣向にマッチした場所で子ども時代を過ごせれば、恵まれていると思う。世の中には都会が好きな人もいれば、横浜から若狭湾周辺に引っ越してきた峻一のように、のどかな町を好む人もいる。

自分の趣味嗜好と異なる土地であっても、峻一の「つまらなくしてるのは 菊池さん自身なんじゃないかな」という言葉にもあるように、自分次第で物の見え方は変わるはずだ。


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