【写真】福地桃子主演、NHK夜ドラ『ラジオスター』の場面カット【9点】
◆ドラマ化の経緯
――今回『ラジオスター』を制作した背景を教えてください。
能登を舞台にした朝ドラ『まれ』(2015年放送)で演出を務めていたのですが、その時から「本当に素晴らしいところだな」と惚れ込んでいたんです。その能登に2024年1月1日に地震が起きました。私は長年ドラマ制作を主に行っていて、普段は報道に携わっていません。でも、NHKの中では能登地方には誰よりも詳しいという自負があったため、報道応援として金沢局に詰め、2か月にわたって被災地の状況を伝えるためのサポートを務めました。
――現地に入った時の心境は?
やはり被災地の凄惨さを感じましたが、別の側面も強く印象に残りました。それは、被災してもみなさんが互いに支え合って生き抜いていく姿です。また、能登半島では、生業の一方で自分の畑や漁船を持つ“半農半漁”の人も多く、「自分で食べるものは自分で調達する」という習慣が根強いんです。だからこそ、道路が寸断し孤立しても「生き延びることができている」姿を目にし、そのことにとても感銘を受けました。
――能登で生活する人の生きる力や豊かさを感じたと。
そうです。とはいえ、物資不足や感染症の拡大など、命に関わるトピックは最優先で伝えなければいけません。全国ニュースでは1分半ほどの中継時間しかないため、どうしてもそういった部分以外を伝えるのは難しい。そこで、「ドラマであれば、私が目にして感じたこと、生きる力や心の豊かさを時間をかけて描ける」と思い、今回ドラマ化を進めました。
◆なぜ“ラジオ”だったのか
――なぜ“ラジオ”を本作の軸に据えたのですか?
まず石川県輪島市町野町で臨時災害放送局を開局しようと動いている方々がいることを知り、興味を持ちました。また、「ラジオだからこそ話せることがある」「ラジオブースには、なかなか人には話せない本音を話せる不思議な力がある」という思いがあったからなんです。
――ラジオが持つ力に惹かれたのですね。
「あの時、どうやって生き延びたのか」といった話は、気軽に話すことも難しいですよね。ただ、マイクを目の前にして問われれば、そういった問いに真剣に答えざるを得ず、その中で自分の心の奥にしまっていた、自分自身でも気付かなかった本心にたどり着ける場合もあると思うのです。そういった意味で、濃密な人間ドラマを描けると考え、ラジオを軸にしました。
――「ラジオだとついつい話してしまう」というのは何となくですが分かります。
あと、もう1つ理由があって、地震や豪雨の被害を受けた家やお店の“公費解体”が行われました。
そこにあったものを思い出させてくれるのは“語り”なんですよね。みんなで語り合い、言葉で記憶をつないでいく。なにより、人間の想像力は無限大です。語りでイメージを膨らませ、思いを馳せることができます。ある意味、映像で伝えるメディアであるテレビよりも、ラジオのほうが想像力で自由に、見えないものを見せてくれる可能性があると思ったことも影響しています。
◆キャスティングの背景
――次にキャスティングについて教えてください。
まず福地さんですが、「型にハマった芝居を一切しない」というか、自分が感じたものを信じ、エネルギーにして表現していくスタイルの俳優だと思っています。脚本に「笑う」と書いてあるから笑うのではなく、本当に「楽しい」「面白い」と思って初めて表現が生まれる。「信念を持っている俳優だな」と前々から思っていました。
――素直さが決め手になったと。
そうですね。ドラマではありますが、ドキュメンタリー的な要素も大切にしたかったんです。彼女の嘘のない表情やリアクションを通して、見ている方が、外から来たカナデと一緒に能登を知っていくことが出来るだろうと思ったことが1つです。あと、ラジオパーソナリティーを演じてもらうので、声はかなり重視したポイントになります。地震で傷ついた人たちの心にパーッと虹がかかるような、そんな声を持っている人に演じてほしくて、福地さんは適任だと思いました。
――また、本作の起点となる松本功介を演じる甲本雅裕さんは?
本当に演技が素晴らしい方ですが、朝ドラ『カムカムエヴリバディ』や大河ドラマ『どうする家康』などでも存在感を放っていて、最近は特に演技力がスパークしていると感じていました。
――ついつい目を追いたくなる役を演じることが多いですよね。
はい。松本功介は決してカリスマ性を持ったリーダーではありません。どこにでもいるような人物であってほしいと思っていました。「これをやりたい」という思いは人一倍強いもののカリスマ性はない。このアンバランスさやちぐはぐさ、そんな普通の人間を演じてもらうには、甲本さんの持つ温かみと柔軟な演技力が欲しいと思ったんです。
◆大野を大抜擢した理由
――本作のキャスト陣でSNSで一番話題を呼んだのは、小野まなを演じた大野愛実さん(日向坂46)でした。大野さんは役者経験がほとんどない中、好演を見せていますが、なぜ今回抜擢したのですか?
失礼ながら、オーディション時点では大野さんのことは全く知らず、演技経験がないことも知りませんでした。しかし、オーディションという緊張した空間でありながら、とても情熱的に演じていたのが印象に残りました。
――他の参加者とはどのような違いがあったのですか?
オーディションでは、第8話でまなが「異議あり」と、大阪で生活したいことを両親のさくら(常盤貴子)と政博(風間俊介)に伝えるシーンをやってもらいました。「どれくらいのテンションでやるのがいいのか」と探りながら取り組んでいた俳優さんも多い中で、大野さんはすごい熱量と勢いで演じていました。
――慣れていないからこそ全力でぶつかったのかもしれませんね。
そうかもしれません。演技経験は少ないですが、「全力で演技できる」「オーディションのわずかな時間でも瞬間的に役に入れる」という才能を感じました。
――とはいえ、経験がない役者を起用するのも不安はありませんでしたか?
ポテンシャルは非常に高いと感じたので、迷いはありませんでした。もちろん不安は0%ではなかったですが、彼女の持つ熱さと「鮮度」に賭けました。
【後編】NHK夜ドラ『ラジオスター』演出が込めたエンタメの役割と問い「被災地で笑わせることは正しいのか」

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