富山県富山市は2026年3月に、新たなPRキャラクター「やまやま」と「くすくす」を制作しました。地方自治体が公式キャラクターの制作過程に画像生成AIを活用した注目の事例として、話題を呼んでいます。


どのようなプロセスを経て完成に至ったのか、富山市の担当者にその背景を取材しました。
○圧倒的な数のアイデアの出力と話題性が、生成AI活用のメリット

富山市がキャラクター制作に取り組むことになったのは、10代~20代を中心とした若い世代に市をPRするためです。富山市 広報課 シティプロモーション推進係長の浅野哲平さんによれば、若者との接点が乏しいのは、地方自治体に共通する悩みだと言います。

「中学生までは市立の学校を通じてアプローチできますが、高校から大学へと進むと市役所とは疎遠になってしまう。次に関わりを持つのは結婚や子育てのタイミングとなり、その間に長い空白期間が生まれてしまうんです」(浅野さん)

この「空白期間」は進学や就職などを経て、どこで暮らすかを決める重要な時期でもあります。「できれば富山市に愛着を持ってもらい。長く暮らしてほしい。かといって押しつけがましくはなりたくないので、まずはちょっと興味を持ってもらったり、親しみを持ってもらったりするようなライトなところからアプローチして、富山市の良さに気づいてもらえたら」。

そのきっかけづくりのためにキャラクターを制作し、SNSでアニメ映像を発信していくことを考えたそうです。

キャラクター制作に、生成AIを活用することにしたのには、大きく2つの理由があったと浅野さん。「1つは話題性です。単にキャラクターを作るだけだと今さら感があるかもしれませんが、生成AIをうまく使えば話題になるだろうと考えました。
もう1つの理由は、生成AIを使えば膨大な数の案から選べるからです。アイデアを取りこぼすことなく検討できると考えました」。

実際にキャラクター制作の過程では、ワークショップを通じて市民から寄せてもらった「富山の良いところ」約900点と、ウェブ検索から抽出した約300点を合わせた、計1200点の「富山と言えば……」のキーワードをもとに、生成AIで約2500点ものキャラクターの素案を出力したと言います。

○著作権侵害のリスク回避のため、学習データがクリアな「Adobe Firefly」を使用

話題性や数多くの案を出力できるというメリットの一方で、生成AIの活用にはリスクも伴います。実際に企業や自治体が広告などに生成AIを使用し、批判を受けたり炎上したりした事例も数多くあります。

「予算化と公募に向けた仕様書の作成にあたって、文化庁や経済産業省の生成AIに関するガイドラインを徹底的に読み込みました。その上で仕様書には、著作権上問題のない生成AIを使用することを明記して、委託事業者にはAIの学習元の依拠性と、既存作品との類似性の両方に配慮した安全な運用を求めました」と浅野さん。その結果、受託した企業から提案されたのが、アドビの生成AI「Adobe Firefly」でした。

「Adobe Firefly」は、ストックフォトサービスの「Adobe Stock」など、著作権上問題のないデータのみを学習データとして使用しており、安全に商用利用できることが特徴となっています。エンタープライズ版では、生成した画像が著作権侵害で訴えられた場合に、アドビが補償する制度も設けられています。

さらにもう1つ、仕様書に盛り込まれた条件が、「プロのクリエイターによる監修でした」と浅野さん。富山市はキャラクター制作を生成AIだけで完結させるのではなく、若者に人気の作品を手がけた実績もある、アニメ・映像クリエイターでFUNNYMOVIE代表の中道一将さんをプロジェクトに招き入れています。


「生成AIで約2500点もの案を作ることができても、本当に大変なのはそこから選ぶことです。どんなキャラクターなら若者に受け入れられるのか、ユーザーのニーズを掴み、トレンドの数歩先を読むには、プロの知見が絶対に必要でした」と、浅野さんは振り返ります。

網羅的なアイデア出しができるAIと、ターゲットや市場をよく知るプロクリエイター。両者の長所をうまく融合させ、相乗効果を生み出すのが狙い。実際にAIが生成したものに対して、「この要素を深掘りしよう」「組み合わせてみよう」と、プロの視点から取捨選択やバリエーションの作成が行われ、徐々にアイデアが絞り込まれていきました。

AIの素案をベースにして、最終的には中道さんがキャラクターを制作。素案にあった「(頭の)コルク栓が取れる」といったアイデアからインスピレーションを受けて、キャラクターの性格付けやアニメーション化を見据えた動きを追加するなど、まさに生成AIとクリエイターの協働作業で、キャラクターをブラッシュアップしていったそうです。

この協働作業は、「著作権侵害のリスクを回避する上でも重要でした」と浅野さん。たとえば素案では、キャラクターの足がバスになっているものがありましたが、類似する既存キャラクターが存在したため、バスを路面電車に変更する細かな調整が行われました。こうして誕生したのが、「立山連峰」「路面電車」をモチーフにした「やまやま」と、「薬」「ガラス」をモチーフにした「くすくす」です。

○公開後の反響は?キャラクターに託した「富山の歴史」

完成したキャラクターが公開されると、賛否の声はあったものの、ターゲットである若い世代からは「見慣れてくると可愛く思える」など、概ね好評を得ています。

否定的な声の中には、生成AIを活用したことそのものに対する批判もあるとのことですが、「簡単にできるから安直にAIを使ったわけではありません。
クリエイターの方も一緒になってしっかりと作っているということを丁寧に説明して、理解を求めていきます」と浅野さん。「AIではできなかったし、人だけではあれだけのアイデアを出せなかった。AIと人、それぞれのいいところをうまく融合して、相乗効果で良いものを作ることができたと思います」と、確かな手応えを感じていました。

すでに都会に出た若者に向けて、就活などをテーマにしたショートアニメを展開中。またキャラクターを通じて、「富山の歴史も知ってもらえたら」と浅野さんは話します。「テレビ局や銀行など、富山の多くの企業のルーツは売薬にあります。あなたが暮らしている豊かな環境は、実は薬に関係しているんだよということを、富山の薬売りを知らない若い人にも知ってほしいです」。

富山市では今後もSNSや市の媒体を通じて、積極的に情報を発信していく計画。新キャラクターの「やまやま」と「くすくす」を通じて、若者に富山の魅力と歴史を知ってもらい、市への愛着を育んでいきたいと話していました。
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