いま、世界のラグジュアリー市場において、日本のウイスキーやクラフトジンは単なる“酒”ではなくなりつつあります。そこに求められているのは、味だけではありません。


土地の空気、水、静けさ、職人の感覚、建築、デザイン──。
その土地にしか存在しない“風景”そのものが、一本のボトルに封じ込められているかどうかが問われています。

北海道・東川町から始まる“液体のラグジュアリー”。丹丘蒸留所...の画像はこちら >>
Courtesy of Tankyu Distillery
北海道・東川町に拠点を構える 丹丘蒸留所 は、まさにその感覚を体現する存在かもしれません。大雪山系・旭岳の伏流水を用いたシングルモルトウイスキーの製造を本格始動し、数量限定の「シングルモルト ニューポット」を発売。同時に、「プライベートカスクプログラム2026」の募集も開始しました。その一方で、昨年には東川米やトドマツを使用したクラフトジン「雪の窓」シリーズを発表。さらに2026年1月からは、蒸留所見学ツアー「Discover」もスタートしています。

“北海道の空気”を蒸留する
丹丘蒸留所が興味深いのは、単に北海道産の素材を使っていることではありません。彼らが目指しているのは、“北海道、東川の静寂の中にある美しさを、スピリッツで描き出すこと”。実際、蒸留所が位置する東川町は、「写真の町」としても知られる場所。大雪山の雪解け水が町全体を流れ、空気には都市とは異なる透明感があります。

北海道・東川町から始まる“液体のラグジュアリー”。丹丘蒸留所が描く、ジャパニーズスピリッツの新しい風景
Courtesy of Tankyu Distillery
その土地性は、ウイスキーやジンの設計にも強く反映されています。
クラフトジン「雪の窓」には、東川米の米麹や、地元森林組合の協力によって間伐されたトドマツの葉を使用。柚子やシトラスの香りとともに、雪の中へ溶け込むような清涼感を表現しています。

北海道・東川町から始まる“液体のラグジュアリー”。丹丘蒸留所が描く、ジャパニーズスピリッツの新しい風景
Courtesy of Tankyu Distillery
一方、今回発表されたニューポットでは、英国産フロアモルティング麦芽を100%使用しながら、仕込みから加水までの全工程で旭岳の地下湧水を採用。さらに世界的にも導入例が少ないマッシュフィルターを用いることで、濃厚でふくよかな麦汁を抽出しています。発酵には、ステンレスタンクと木桶タンクを併用し、合計168時間という長時間発酵を実施。ぶどうを思わせる芳醇なアロマを原酒へまとわせています。

それは、単にスコッチを模倣する“ジャパニーズウイスキー”ではなく、北海道という風土を液体へ変換する試みに近い印象です。

クラフトと国際性の交差点
製造チームを率いるのは、香港で高い評価を受けた「Perfume Trees Gin」を手がけたチョウ・エイ・シュン氏と、スコットランドで蒸留士・ブレンダー経験を積んだダーウェイ・シェイ氏。香港、台湾、英国、日本。異なる文化圏を横断してきた経験が、この蒸留所には独特の国際感覚を与えています。

北海道・東川町から始まる“液体のラグジュアリー”。丹丘蒸留所が描く、ジャパニーズスピリッツの新しい風景
主任蒸留士 ダー・ウェイ・シェイ氏 | Courtesy of Tankyu Distillery
近年、海外市場で評価される日本のクラフトスピリッツには、“日本らしさ”を過剰に演出するのではなく、土地の感覚や素材の繊細さを静かに表現する傾向があります。丹丘蒸留所にも、その空気感があります。
特にボトルデザインやネーミング、余白を活かしたビジュアルには、香水やコンテンポラリーデザインにも近い美意識が漂います。

北海道・東川町から始まる“液体のラグジュアリー”。丹丘蒸留所が描く、ジャパニーズスピリッツの新しい風景
Courtesy of Tankyu Distillery

“飲む”から“訪れる”へ
もうひとつ興味深いのが、蒸留所見学ツアー「Discover」の存在です。近年、世界のラグジュアリートラベル市場では、“Destination Distillery”という概念が存在感を強めています。単に酒を飲むのではなく、どこで、誰が、どんな風景の中で、どのようにつくっているのか、まで含めて体験することが価値になっているのです。

北海道・東川町から始まる“液体のラグジュアリー”。丹丘蒸留所が描く、ジャパニーズスピリッツの新しい風景
Courtesy of Tankyu Distillery
丹丘蒸留所のツアーでは、通常非公開の製造エリアを巡りながら、実際の蒸留設備や製造工程を見学可能。最後にはテイスティングルームで試飲も行われます。しかも、英語ツアーも定期開催。海外旅行者を強く意識した設計になっています。

北海道・東川町から始まる“液体のラグジュアリー”。丹丘蒸留所が描く、ジャパニーズスピリッツの新しい風景
Courtesy of Tankyu Distillery
北海道の自然、クラフトスピリッツ、建築的空間、そして“静けさ”。それらを横断しながら体験するこの場所は、今後“日本の北方ラグジュアリー”を象徴する存在になっていくのかもしれません。

【INFORMATION】
丹丘蒸留所

所在地:北海道上川郡東川町西2号北23番地

主な展開商品:
「雪の窓 ドライジン」
シングルモルト ニューポット

蒸留所見学ツアー「Discover」:
・開催日ー原則 土曜日、日曜日開催(要予約サイト確認)
・案内言語ー土曜(日本語)/日曜(英語)
・所要時間ー約60分
・参加対象ー20歳以上
※運転される方へのアルコール提供は行いません
※代替として試飲分のお持ち帰り対応あり
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