【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#38
特別編「5人目のビートルズ~ジョージ・マーティン」②
◇ ◇ ◇
今回も前回に続いての特別編として、ジョージ・マーティン(以下「Gマーティン」)を取り上げる。内容も前回同様、新田和長による名著『アーティスト伝説』(新潮社)から彼の言葉を引く。
日本ポップス界の重鎮、「ミスター・ニューミュージック」といってもいい新田和長は、Gマーティンに「弟子入り」しようとイギリスに馳せ参じ、本人から直々にさまざまな金言を聞くのだが、それがいちいち素晴らしいのだ。
──「レコードでしかつくれない音楽をつくろうとしてきた」
と、ある日Gマーティンは言ったという。その意味合いとして、
──「例えば写真ではなく絵画のような音楽のことだ。ミュージシャンがスタジオで演奏したり歌ったりしている音楽をそのままコントロール・ルームで再現するのでなく、それを聴いて何を感じ、何を伝えたいか、そのためにはどの楽器(歌)のどの演奏部分をどう強調したり手を加えればいいか、そういうことをイメージするのが大事なんだ」
ここでビートルズの楽曲をプロデュースするときの彼の基本スタンスが見えてくる。4人の生演奏、生歌をそのまま録音するのではなく「どの演奏部分をどう強調したり手を加えればいいか」を考えて、アドバイスをし、たまには自分で演奏までしたりして「レコードでしかつくれない音楽」をつくる。これぞ彼の仕事だったのだ。
こんな発言も。少々長いが、略せない迫力がある。全文読まれたい。【オリジナル記事で試聴する】
──「私はライブパフォーマンスを信じています。完璧ではないかもしれないですが、より人間的で、よりエキサイティングで満足感も与えてくれるのです。どんなにテクノロジーが進歩しても、音楽を進歩させるわけではないということは覚えておいてほしいです。
先のレコード観と、このライブ観。一見矛盾するようだが、よく読むと何ら矛盾していないことが分かるだろう。
これを読んで私が感じたのは、今音楽業界に蔓延するAIへの恐怖感のことだ。正直AIのことなど分からないが、Gマーティンの言葉を見ていると、何となく大丈夫と思えてくるではないか。
そんなGマーティンからのサポートを得ながら、ポールが完成させたのが、次のアルバムに収録された、あの超絶名曲だった。
▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」「大人のブルーハーツ」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。

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