『人はなぜラブレターを書くのか』(4月17日公開)

 2024年、千葉県香取市で定食屋を営む寺田ナズナ(綾瀬はるか)は、ある青年に宛てて手紙を書く。

 24年前、当時17歳だったナズナ(當真あみ)は、いつも同じ電車で見かける高校生の富久信介(細田佳央太)にひそかな恋心を抱いていた。

 一方、信介は進学校に通いながらプロボクサーを目指し、学校帰りにボクシングジムで練習に打ち込む日々を送っていた。そんな彼らに、運命の日となる2000年3月8日が訪れる。

 そして現在、信介の両親のもとにナズナからの手紙が届く。父・隆治(佐藤浩市)は、手紙の中に亡き息子の生きた証しを確かに感じ、息子の知られざる青春の断片と成長を知る。やがて隆治は、ナズナに宛てて手紙をつづり始める。

 石井裕也監督が、2000年3月に発生した営団地下鉄日比谷線の脱線事故にまつわる奇跡のような実話を基に描いたドラマ。自分も日比谷線はよく利用したので、事故現場を通る際に、事故のことが脳裏をかすめることが何度かあった。

 ナズナの夫を妻夫木聡、信介が通う大橋ボクシングジムの先輩で後に世界チャンピオンとなる川嶋勝重を菅田将暉、大橋秀行会長を音尾琢真が演じ、それぞれ好演を見せる。

 草野翔吾監督の『アイミタガイ』(24)や『大きな玉ねぎの下で』(25)同様、人と人との不思議な縁を描いているが、実話を基にしている点が本作の真骨頂。

 ナズナが24年前に置き去りにした感情を改めて手紙に託したことで、過去と現在がつながる再生の物語であり、ナズナと信介にまつわるそれぞれの家族の話でもある。どの登場人物の視点で見るかによって感じることが異なるかもしれない。

 そして成就しない初恋の切なさ、手紙の効用にはどこか懐かしさを感じるところもあった。

舞台となった香取市の風景も見ものだ。

 このエピソードがテレビのバラエティー番組の中で取り上げられたことは知っていたが、それを一本の映画としてきっちりとまとめた石井監督の手腕が光ると感じた。

『今日からぼくが村の映画館』(4月17日公開)

 南米ペルー、アンデスの小さな村に住む少年シストゥは、風が運んできた新聞の映画広告を手にする。導かれるままにたどり着いた移動映画館で初めて“映画”を知ったシストゥは、たちまちその物語に魅了される。やがてシストゥは週に1回“語り部”として、見た映画の内容を村のみんなに伝えることになる。

 監督は本作が長編映画第2作となるセサル・ガリンド。主人公シストゥ役に抜てきされたビクトル・アクリオ(素晴らしい!)をはじめ、キャストの多くに非職業俳優を起用。劇中ではペルーの公用語の一つであるケチュア語が使用され、ケチュア語映画としてペルー映画史上最高の興行収入を記録した。

 映画の冒頭で女性教師が、子どもたちに映画について説明する言葉が素晴らしい。「映画館は壁みたいなもの。そこに写真が浮かぶの。まるで生きているように写真が動いて目と心を喜ばせる物語を見せるのよ。

実際にそこにはいない。存在するものもしないものも何でも見られる。映画館ではいろいろなものが見られるわ。喜びも悲しみも、生も死も、太陽も月も。魔法じゃないわ。物語を伝えるために人間が発明したのよ」

 それを聞いたシストゥは映画について、両親に「魂がないのに動く。本当のことみたいに夢を見られる。よその町の物語を持ってくるんだって」と語る。

 このやり取りからも分かるように、映画館もテレビもインターネットもない村が舞台だからこそ、映画が本来持っている魅力や効用が明らかになり、映画についての原風景や原体験が浮かび上がる。映画の語り部となったシストゥは、まるでサイレント映画の弁士のようだ。

 登場する映画は、『風と共に去りぬ』(39)『燃えよドラゴン』(73)『魔人ドラキュラ』(31)『ドラゴン危機一発』(71)『モホークの太鼓』(39)ほか。

 本作は、アンデス版『ニュー・シネマ・パラダイス』と言われるが、もっと素朴で素直な印象を受けたし、なるほどそう来たかという見事な落ちがつくラストシーンもうれしくなった。

 ペルーの映画を初めて見たが、いつの間にか忘れてしまった、映画を見る初々しい喜びやワクワク感を改めて思い出させてくれるような傑作だった。

『ソング・サング・ブルー』(4月17日公開)

 今は“歌まね歌手”となったマイク(ヒュー・ジャックマン)は、同じ情熱を胸に秘めたクレア(ケイト・ハドソン)と出会い、“ライトニング&サンダー”というバンドを結成し、人々の心をつかんでいく。

 アメリカの人気歌手ニール・ダイアモンドのトリビュートバンドとして活動したサルディーナ夫妻の実話を基に描いた音楽映画。クレイグ・ブリュワーが監督・脚本を手がけた。ダイアモンドの名曲の数々をジャックマンとハドソンが圧倒的なパフォーマンスで歌い上げる。

 前半の、2人が成功していくところは、画面から音楽活動やバンドの魅力があふれ、見ているこちらの気分も高揚し、楽しい気分になる。

 クレアが事故に遭う後半は、夫婦や家族の厳しい物語へと転化するが、夫婦を囲む愛すべきキャラクターたちの存在が救いとなる。

 たとえダイアモンドの曲を知らなくても音楽映画として十分に楽しめるところが本作の真骨頂ではあるのだが、彼の曲を聴けばさらに魅力が増す。ある意味、これはダイアモンドの魅力を再発見する映画でもあるのだ。

 映画のタイトルでもあり、ジャックマンがギターの弾き語りで何度も歌う「ソング・サング・ブルー=悲しい気持ちで歌われた歌」は、「ブルーな気分も歌ってしまえば前向きになれる」という、映画のテーマを言い当てたような曲。

 ダイアモンドの曲の中で最も有名な「スイート・キャロライン」のキャロラインは、ケネディ元大統領の娘キャロライン・ケネディのことらしい。1990年代にMLBボストン・レッドソックスの応援歌として使われるようになり、楽しさや雰囲気を共有する曲として広まった。「ニール・ダイアモンドには他にも名曲がある」としてマイクが歌いたがらなかったのが面白い。

 ライトニング&サンダーがパール・ジャムの前座として登場し、エディ・ヴェダー(ジョン・ベックウェス)とコラボする「ブルー・ジーンズ・ライフ」は、エンディングロールでも流れるので、この映画の"第二のテーマ曲"とも呼ぶべきもの。日本でも「やる気満々」(79)というドラマの主題歌として使われたので、懐かしく思う人もいるのでは。
(田中雄二)

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