【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#52


 アルバム『パスト・マスターズvol.1』(1988年3月7日発売)


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 1988年に発売されたアルバム。「88年って、解散後じゃねえか」という指摘はごもっとも。


 当時はレコードからCDの移行時期。これまで紹介してきたオリジナルアルバムのCD化にともない、それらには収録されていないシングル曲などを、まとめる目的で発売されたものなのだ。


 と書くと、あまり重要ではない曲ばかりかと思われる方もいるかもしれないが、大間違い。やはり60年代当時の音楽マーケットはシングル中心。何といっても、あの『抱きしめたい』がオリジナルアルバム未収録なのだ。「パスト・マスターズ」という企画がなければ、救われないのだから。


「vol.1」と「vol.2」が発売されたのだが、ここではまず、65年までのオリジナルアルバム未収録曲を集めた「1」を先に紹介する。


『ラヴ・ミー・ドゥ』(アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』版とは別バージョン)から、シングル『ヘルプ!』のB面だった『アイム・ダウン』に至る全18曲。中には『抱きしめたい』と『シー・ラヴズ・ユー』のドイツ語バージョンという珍しい音源も。


 ある意味お買い得なアルバムで、先の『抱きしめたい』と『シー・ラヴズ・ユー』(英語版)に加え、『フロム・ミー・トゥ・ユー』など、初期を代表するヒット曲が収録されている。


 さらには『ロング・トール・サリー』『スロウ・ダウン』『バッド・ボーイ』『アイム・ダウン』というロックンロール大会や、『ジス・ボーイ』『イエス・イット・イズ』というコーラス大会も楽しめる。「ビートルズを始めるなら、まずはこれから」という感じもする一枚だ。


 という『パスト・マスターズvol.1』収録曲を次回から紹介していく(すでに紹介済みの『ラヴ・ミー・ドゥ』は除く)。


 さて、ここで思い出すのは、LP時代にあった『オールディーズ』というアルバムである。


 元々は66年の暮れにイギリスで発売されたもので、『パスト・マスターズvol.1』と似た狙いで作られたベスト盤。『抱きしめたい』『シー・ラヴズ・ユー』『フロム・ミー・トゥ・ユー』も入った、私世代にとってのまさに入門盤だった。


 貸しレコード屋で『オールディーズ』を借りて、カセットにダビングすることで、ビートルズ生活を始めた若者が当時、何万人いたことだろう。


 画像右は筆者自前の『オールディーズ』だ。このサイケデリックなジャケットから、私のビートルズ生活は始まったのだ。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。早大政治経済学部卒業後、博報堂に入社。在職中から音楽評論家として活動し、10冊超の著作を発表。2021年、55歳になったのを機に同社を早期退職。主な著書に「中森明菜の音楽1982-1991」「〈きゅんメロ〉の法則」「サブカルサラリーマンになろう」「大人のブルーハーツ」など。

半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた最新刊「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」(日刊現代/講談社)が絶賛発売中。最新刊「日本ポップス史 1966-2023: あの音楽家の何がすごかったのか」が発売。ラジオDJとしても活躍。


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