世界各国で人材不足が深刻化する中、欧米やアジアでは軍経験者を民間企業で活用する動きが広がっており、軍で培われた規律や組織力、危機対応能力を企業経営に生かそうとする流れは、人材戦略の一つとして注目を集めている。

その他の写真:イメージ

 日本でも少子高齢化による労働人口の減少が進み、多くの企業が採用難や人材定着の課題を抱えている。
一方で、国防や災害派遣など社会を支えてきた自衛官退職者の能力が、民間市場で十分に活用されていないという指摘もある。

 こうした状況を背景に、自衛官退職者に特化した人材紹介サービスを展開する株式会社Next Missionが、2026年5月に人材紹介免許を取得し、正式にサービスを開始した。

 同社が掲げるのは、自衛官退職者に新たな可能性と選択肢を提供し、社会で活躍できる環境を広げることだ。自衛隊で培われる規律、責任感、リーダーシップ、組織適応力、そして任務を最後までやり遂げる力は、民間企業でも重要視される能力である。Next Missionでは、これらを企業側に分かりやすく伝え、採用につなげる仕組みづくりを進めている。

 同社資料では、自衛官人材の強みとして「任務完遂力」「組織適応力」「ストレス耐性」などが整理されている。特に、限られた条件下でも冷静に任務を遂行する力や、チームで連携しながら成果を出す力は、多くの企業が求める人材像と重なるという。

 しかし一方で、自衛官退職者のキャリアには構造的な課題も残されている。厳しい訓練や組織生活を通じて培われた能力は高く評価される一方、実際の就職先は警備、運送、建設、製造など体力を活かす分野に偏りやすい現実がある。自衛隊での経験が、民間企業において「ビジネス人材」として十分に言語化されていないことが背景にあり、これが採用ミスマッチにつながっているとみられる。

 Next Missionは、この課題に対して、自衛官経験を企業に伝わる言葉へ変換することを重視している。例えば、報告連絡相談の徹底や責任感、組織内での協働力などを、営業、現場管理、マネジメント、危機対応といった具体的な業務能力として整理し、企業側に提示する。
こうした取り組みにより、求職者と企業双方にとって納得感の高いマッチングを目指している。

 また、退職後の選択肢が限定的になりやすい現状を踏まえ、ホワイトカラー職種を含めた幅広いキャリア形成支援にも力を入れている。自衛官が培った経験を社会全体で活かせるようにすることが、同社の大きなテーマとなっている。

 同社の特徴の一つが、経営者ネットワークと自衛隊ネットワークを組み合わせた支援体制にある。代表取締役の安藤功一郎氏は、複数の事業立ち上げや企業買収を経験してきた連続起業家である。

 新卒でガリバーインターナショナル、現在のIDOMに入社後、タイで旅行会社、携帯電話販売会社、飲食店、不動産会社などを起業。さらに上場企業グループでの役員経験も持ち、現在は動画配信番組「令和の虎」に出演するなど、発信力を持つ経営者として知られている。Next Missionでは、その経営者ネットワークや発信力を活かし、企業側との接点拡大を担う。

 もう一人の代表取締役である森崇嘉氏は、元陸上自衛隊陸曹長としての経歴を持つ。自衛隊での経験を背景に、自衛官退職者が抱える不安や課題に向き合い、求職者側の支援を担当している。

 自衛隊コミュニティやOBネットワークへのアクセスを活かし、信頼形成やキャリア支援の導線づくりを進めている点が特徴だ。経営側と自衛隊側、双方の視点を持つ2人が連携することで、企業と求職者の橋渡しを行う体制が整えられている。


 さらに、同社には元陸将クラスの顧問も参画している。川又弘道氏は旅団長、師団長、中央即応集団司令官などを歴任し、防衛政策の中枢で活動してきた人物である。退官後は民間企業でアドバイザーとしても活動している。

 田邉揮司良氏も方面総監などを歴任し、危機管理や組織運営に関する豊富な知見を持つ。こうした顧問陣の存在により、自衛隊特有の経験や価値を企業へ適切に伝える支援体制が強化されている。

 サービス内容は、企業の採用ニーズの把握、候補者とのマッチング、入社後フォローの3段階で構成される。成功報酬型を採用しており、企業側は採用が決定するまで費用負担なく利用できる。

 これにより、自衛官人材採用への心理的ハードルを下げる効果が期待されている。

 企業にとって、自衛官退職者の採用は単なる人手不足解消ではない。任務完遂力やストレス耐性、組織での協働力は、多様な業務に応用できる可能性がある。一方で、求職者側には、自身の経験をどのように企業へ伝えるかという課題が残る。同社は、その双方をつなぐ役割を担う。


 また、自衛官退職後のキャリアが広がることで、「自衛隊に入る」という選択そのものの価値にも変化が生まれる可能性がある。退職後も多様なキャリアを描ける社会になれば、自衛官という職業はより魅力的なキャリアとして認識されることが期待される。

 Next Missionは、自衛官退職者の転職支援だけではなく、日本全体の人材活用モデルの変革も見据えている。自衛隊で培われた能力を企業成長へとつなげる同社の取り組みが、日本の採用市場や人材活用のあり方にどのような影響を与えるのか、今後の動向に注目が集まりそうだ。
【編集:Y.U】
編集部おすすめ