4月9日、ファミリーコンピュータ Nintendo Classicsに3本の作品が追加されました。その中の1作品が、誰もが知っているであろう大名作『パックマン』です。


1980年7月にナムコがアーケードゲームとして市場投入したこの作品は、日本のみならず世界で様々な文化的影響を与えました。そうした意味で、『パックマン』は20世紀の日本が送り出した「最大級の工業製品」と言えるかもしれません。

そんな『パックマン』は、法曹界にも大きな影響を与えました。ゲーム映像を巡る裁判で、極めて画期的な判決が出たからです。

◆『スペースインベーダー』ブームの後で
1978年6月にタイトーが発売したアーケードゲーム『スペースインベーダー』は、コンピューターゲームの歴史を永久に変えてしまいました。

コンピューターの曙は、第二次世界大戦の最中に起こりました。ドイツ軍の複雑な暗号を解読するためのコンピューターが、現代につながるコンピューター科学を築いたと言われています。そのコンピューターを戦争のためでも、官公庁や学術機関でのデータ整理のためでなく、個人の楽しみのためにそれを活用しようという動きが生まれます。アタリの開発した『PONG』は、工科大学の学生ではない労働者、しかもバーでグデグデに酔っ払っている人でも説明書なしでプレイできるゲームという意味で、非常に斬新でした。

多くのアメリカ人にとっての「コンピューターゲームとの出会い」が『PONG』であるとするなら、日本人にとってのそれは『スペースインベーダー』。これは列島に社会現象をもたらしました。

『パックマン』のローンチは、『スペースインベーダー』ブームが過ぎた頃のお話。
コンピューターゲーム自体がただの一過性ブームなのか、それとも新たな作品が続々と登場し続けるのか、1980年代を迎えた大人たちは、コンピューターゲーム業界をある意味で値踏みしていたと言えます。

そんな中、『パックマン』が登場しました。

◆単純なルール、深い戦略性
迷路上のステージに、ドットで表示された餌があります。パックマンを操作して、餌を全部食べるとステージクリアです。

しかし、もちろんそれだけではありません。ステージ上にはパックマンを追跡するモンスターが何匹か存在します。このモンスターをパックマンが倒すことは、後述する一手段を除いては不可能。即ち、モンスターの追跡を上手くかわしつつ餌を食べ尽くさないといけない、というルールです。

字面にすれば非常に簡単ですが、これが深い戦略性をプレイヤーにもたらしました。

ステージ上の餌には、一際大きい「スーパー餌」というものもいくつか置かれています。このスーパー餌をパックマンが取ると、モンスターが弱体化して捕食可能に。こうしてモンスターを駆逐しつつ、餌を食べていきます。
パックマンに捕食されたモンスターは、一定時間後に復活してまた襲いかかってくるので、あまり時間はかけられない仕組みです。

『パックマン』は瞬く間に人気作品となり、発売から2年後には「ヒットしたゲームの代名詞」のように語られています。

ゲームのヒットといえば、なんといっても「パックマン」。円形のパックマンが、迷路をたどり、クラゲ形の怪物と追いつ追われつ、パクパクやり合うユーモラスな動きがうけにうけて、一昨年夏にわが国のゲームセンターで大流行。

続いてアメリカに渡り、九万六千台のゲームセンター用の機械が売れた。

(家庭用テレビゲーム手ぐすね 米のブーム、来年は上陸するか ソフト盗用騒ぎも 読売新聞1982年12月28日朝刊9ページ)
◆司法を動かしたゲーム映像
その一方で、『パックマン』は一つの深刻な問題も生み出してしまいました。

「ゲーム映像の著作権」の問題です。

映画のシーンは著作権で保護されていて、それを制作会社に無断で使用することはできません。同じように、『パックマン』のゲーム映像も「映画の著作物」に該当すると、ナムコが訴えを起こしました。それだけ『パックマン』のコピー基盤が流通していた、ということでもあります。

裁判所が過去の類似事案を覆すような判決を出すこと、或いはそれまでになかったパターンに対して新しい判断を下すことは、非常に大きなバリューを持った話題です。『パックマン』のゲーム映像を「映画の著作物」と認める判決が東京地裁で出たのは1984年9月28日。
実はこれと同じ日、柔道の山下泰裕選手に対する国民栄誉賞授与が発表されています。

翌9月29日付の朝日新聞朝刊22ページに、この二つの話題が掲載されていますが、より大きなスペースを占めているのは『パックマン』に対する東京地裁の判決です。

我が国の司法が、コンピューターゲームに映画と同等の権利があることを認めた重要な日として1984年9月28日は記録に刻まれました。

◆『パックマン』が我々の社会を変えた!
『パックマン』は、『スペースインベーダー』が創出したコンピューターゲームのブームが一過性のものではないということを見事に証明してみせました。

それだけではなく、ゲーム映像が映画と同等の「権利あるもの」と司法に認めさせ、その後のコンピューターゲーム業界の健全性を整備した実績もあります。

食いしん坊のパックマンは、業界の枠を飛び越えて我々の住む社会を大きく変えたのです。

【参考】

家庭用テレビゲーム手ぐすね 米のブーム、来年は上陸するか ソフト盗用騒ぎも 読売新聞1982年12月28日朝刊9ページ

TVゲーム映像に著作権 「パックマン」で新判断 東京地裁 朝日新聞1984年9月29日朝刊22ページ
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