機長の体が窓ガラスの外へ吸い出されるも全員無事。本当にあった航空機不時着事故

機長の体が飛行機の外に投げ出される航空機不時着事故 iStock

 最近ツイッターで目を疑いたくなるような画像が投稿された。そこには飛行機の窓から飛び出した男性と、その人物が飛ばされないよう必死に足をつかむ人物が映し出されている。

 投稿主の説明によると、これは1990年に起きた事故で、パイロットの1人が窓から外へ吸い出されてしまい、もう1人のパイロットが不時着を試みているところなのだという。

 これはイギリスで実際にあった事故で、「ブリティッシュ・エアウェイズ5390便不時着事故」と知られている。
【操縦席の窓ガラスが吹き飛び機内は急激な減圧状態に】

 1990年6月10日、乗客81名とスタッフ6名を乗せたブリティッシュ・エアウェイズ5390便は、イングランド、バーミンガム空港からスペイン、マラガ空港へ向けて離陸した。

 それは普段通りのフライトに思われた。機体は順調に上昇しており、機長と副操縦士は安全用のベルトを外し、少し気を緩めたところだった。

 だが機体が高度5273メートルに到達した時点で、予想外の事態が起こる。突然破裂音と共に窓ガラスが吹き飛んでしまったのだ。

 機内にはあっという間に霧が充満。急激に減圧し、空気が凄まじい勢いで外へ吸い出されていく。そしてあろうことか、ベルトを外していた機長までも窓の外へ放り出されてしまった。

 それだけではない。幸か不幸か、機長の足が操縦桿に引っ掛かり、その衝撃で自動操縦が解除。機体が高度を失い始めたのだ。まさに絶体絶命の大ピンチである。


【氷点下の気流が吹き荒ぶコクピット】

 異変に気がついた客室乗務員の1人が駆けつけると、コクピットではとんでもない事態が起きていた。慌てて機長のベルトをつかんで体を支えるが、機体の外は空気が薄く、しかもマイナス17度の低温である。このとき機長はほとんど意識を失いかけていた。

 客室でも減圧が起きていたが、機内には全員分の酸素マスクが搭載されていなかった。副操縦士はひとまず空気が十分にある高度まで機体を急降下させて、それから付近の空港に不時着を試みた。

 だが本来2人で行う操縦を1人で行わねばならなず、さらに機内に進入してくる激しい気流のために、声がかき消されて航空管制との通信も思うように交わすことができない。

[画像を見る]
image by:twitter@davidfarrier
【疲労と凍傷で限界。だが機長は奇跡の生還を果たす?】

 また機長をつかんでいた客室乗務員も疲労の限界に達し、さらに凍傷と挫傷まで負ってしまっていた。他の乗務員と交代するが、このときまでには機長の体はさらに外に飛び出してしまう。

 コックピットの窓越しに、その機長の様子を確認することができた。彼の顔は繰り返し風防に打ち付けられていたにもかかわらず、瞬き一つしない。

 誰もが機長はもう助からないと考えたが、体を放してしまえば、エンジンに吸い込まれて機体が損傷する恐れがあったので、絶対に手放すことはできなかった。

[画像を見る]
image by:twitter@davidfarrier
 このような大ピンチに陥ったにもかかわらず、副操縦士はどうにかサウサンプトン空港に不時着することに成功。驚いたことに機長は凍傷・挫傷・骨折の大怪我を負ってはいたが生きていた。

 また、彼を必死につかみ続けた客室乗務員は肩を脱臼し、左目には凍傷を負っていた。それでも怪我人はこの2名だけで、奇跡的に死者が出ることはなかった。

【事故の原因は?】

 一歩間違いば大惨事になっていただろうこの事故の原因は、整備中に交換された窓ガラスに規格外のネジが使われて、強度が不足していたことだった。

 窓ガラスの交換は2年ぶりのことだったのだが、整備士はマニュアルをよく確認しないまま作業を行っていたのだった。当時バーミンガム空港では、過密スケジュールのために手抜き整備が横行していたのだそうだ。

【事故は本当だが出回っている画像はドラマのワンシーン】

 最後に1つがっかりなネタバレを。この事故は実際にあった話だが、ツイッターに投稿されていた画像は本物ではなく、再現ドラマのワンシーンであるそうだ。


 よく考えればそんな非常時の時に撮影する暇などなかったろうし、飛行機の外からの写真なんて絶対無理だもんな。

 でも実際の事故現場ではこのような白熱した展開だったことは確かなようだ。

References:Fact Check: Yes, A Plane Really Did Land With The Pilot Hanging Out Of The Cockpit Window | IFLScience/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:機長の体が窓ガラスの外へ吸い出されるも全員無事。本当にあった航空機不時着事故 http://karapaia.com/archives/52296639.html