5000匹のクマムシとダンゴイカが人類の為、宇宙へと旅立っていった(NASA)

photo by iStock
 人類がこれから宇宙進出を果たし、火星を目指そうという中、先行して小さな生き物たちが先行して無限の宇宙へと旅立っていった。

 6月3日にスペースXが国際宇宙ステーションへ打ち上げる貨物に、5000匹のクマムシと128匹のダンゴイカが乗せられた。


 彼らが宇宙に向かう目的は、宇宙空間が人体に与える影響を解明するためだ。

【宇宙が人体に与える影響をクマムシなどを使って調査】

 宇宙は人体にどんな影響を与えるのか?これに関する研究を行うNASAヒューマン・リサーチ・プログラムは、今のところもっぱら国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士に頼っている。

 これまで国際宇宙ステーションに滞在した宇宙飛行士は240名。滞在期間は数週間や数ヶ月ということもあれば、1年の長期にわたることもある。

 彼らの献身によって、人体が宇宙でどのように変化するのか徐々に理解されてきたが、それでもごく少数の人たちが対象になったに過ぎない。

 クマムシやダンゴイカのような小さな生き物が宇宙に送られるのは、こうした研究をさらに加速するためだ。


[画像を見る]
photo by iStock
【実験台に選ばれたクマムシ】

 スペースXに乗せられる「クマムシ(緩歩動物)」は非常に生命力が強いことで知られている。100度の高温から絶対零度近い低温、極端な乾燥、真空から7万5000気圧の高圧、人間の致死量をはるかに超える放射線などなど、諸々の過酷な環境に耐えてきた実績がある。

 宇宙空間でもそう簡単には死なない。2007年に「フォトンM3」(ロシア)に乗せられ、宇宙の真空と太陽から照りつけられる放射線にさらされた2匹のクマムシは、地球に帰還して見事蘇生してみせた。

 また2019年に月面着陸に失敗した「べレシート」(イスラエル)に乗っていたクマムシも、クラッシュの衝撃を生き残ったのではないかと推測されている。

[画像を見る]
image by:Thomas Boothby, University of Wyoming
 こうした耐久力は、宇宙で遭遇することになる過酷な環境に生命がどの程度対応できるのか確かめるうえで都合がいい。
そして今回の実験の目的は、宇宙空間でクマムシの体に生じる遺伝子発現レベルの変化を探ることだ。

 クマムシは冷凍された状態で国際宇宙ステーションに送られ、そこで蘇生したのちに、宇宙空間の放射線に1週間以上さらされる。それから変化があった遺伝子を特定して、宇宙空間での生存を助ける方法を見つけるヒントにする。

 たとえば仮に大量の酸化防止物質をつくり出す遺伝子のスイッチが入っていれば、それをサプリメントなどで補うことで人間を守ることもできるかもしれない。

【暗闇で光るダンゴイカも実験台に】

 クマムシと一緒に宇宙へ向かう「ダンゴイカ」は、親指程度しかない小さなイカだ。

 彼らが今回の実験に選ばれたのは、暗闇で光る特殊な発光器官を持っているからだ。
その器官は1種の組織でできており、そこにたった1種の細菌が潜んでいる。このために宇宙空間で細菌と組織が作用する様子を観察しやすい。

 人間の体の中には無数の細菌が潜んでいる。そのため、そうした細菌が宇宙でどのように行動を変化させるのか理解するのはとても大切なことだ。

[画像を見る]
image by:Jamie S. Foster, University of Florida
 くわえてその免疫系が人間によく似ていることも理由の1つだ。人体に欠かせない免疫系は、宇宙ではどのように機能するのか? それをイカの免疫反応から推測しようというのだ。


 ダンゴイカは海水入りのバッグに入れられて宇宙に打ち上げられる。宇宙に着いたら海水に細菌が投入され、それからの数時間で起きる反応が観察される。

【小さき生物の尊い犠牲が宇宙飛行士を救う】

 気の毒なことに、彼らが再び生きて地球で活動することはない。

 実験後、冷凍されてしまうからだ。サンプルはそのまま地球の研究機関に持ち込まれ、そこで解剖されることになる。クマムシは冷凍されても蘇生できるが、解剖されてしまえばその命も尽きてしまう。


 こうした尊い犠牲は、いずれ火星やさらに遠くへと向かう宇宙飛行士たちの命を救うことになるだろう。

 あるいは逃げ出したいくつかの個体が、過酷な環境の惑星で生き延び脅威の適応進化を遂げ、新たなる生態系を形成していたことは、まだこの時誰も予想していなかった...とかいうお話はまた別の機会にしよう。
 
References:SpaceX’s 22nd Commercial Resupply Mission to Space Station | NASA/ written by hiroching / edited by parumo

記事全文はこちら:5000匹のクマムシとダンゴイカが人類の為、宇宙へと旅立っていった(NASA) https://karapaia.com/archives/52302758.html