ウーパールーパーが持つ特定の遺伝子が、人間の失われた手足を再生する治療法につながる可能性が示された。
米ウェイク・フォレスト大学などの研究チームが、この遺伝子をマウスで働かせたところ、指の骨が部分的に再生することを確認した。
四肢の切断を余儀なくされた患者への新たな治療の選択肢として注目されている。
この研究成果は『Proceedings of the National Academy of Sciences[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2532804123]』誌(米国科学アカデミー紀要:2026年2月18日付)に掲載された。
毎年100万人以上が手足の切断を余儀なくされている
世界では毎年、100万人以上が手足の切断を余儀なくされている。
原因の多くは糖尿病による血管障害や、事故による外傷、がん、感染症だ。
高齢化社会の進行と糖尿病患者の増加により、この数はさらに増え続けると予測されている。
現在の主な選択肢は義手や義足といった補装具だが、本物の手足が持つ繊細な感覚や細かな運動機能を完全に再現することはできない。
そこで、米ウェイク・フォレスト大学、デューク大学、ウィスコンシン大学マディソン校の研究者たちが、それぞれ異なる生物を使った共同研究に取り組んだ。
3種の動物が共通して持つ再生遺伝子の発見
研究チームが着目したのは、体の一部を失っても再生できるという共通点を持つ3種の動物だ。
1種目はウーパールーパーだ。
日本では、1985年に日清食品のカップ焼きそばのCMに登場して有名になった生き物で、正式名称はアホロートル、学名はメキシコサンショウウオというカエルやイモリと同じ両生類だ。
メキシコのソチミルコ湖にのみ生息するサンショウウオの仲間で、大人になっても変態せず幼生の姿のまま一生を水中で過ごすという珍しい特徴を持ち、現在は野生個体が絶滅危惧種に指定されている。
ウーパールーパーは、四肢や尾、心臓・脳・肝臓の一部まで再生できる驚異的な能力を持つ生物だ。
2種目はゼブラフィッシュだ。
インド原産の体長5cm程度の小型淡水魚で、切断されたヒレが素早く再生し、心臓や脊髄も再生できる。
3種目はマウスで、人間と同じ哺乳類でありながら、すでに指先の骨・肉・皮膚を再生する能力を持つ。
研究チームは、この再生能力を持つ3種すべての再生中の皮膚を詳しく調べたところ、「SP6」と「SP8」という2種のSP遺伝子が共通して活性化していることが判明した。
SP遺伝子とは、細胞の増殖や分化のスイッチ役を担うタンパク質をつくる遺伝子群のことだ。
種類も生態もまったく異なる3種の動物が、体の一部を再生するときに同じ遺伝子を使っていた。この発見が研究の核心となった。
ウーパールーパーのSP8遺伝子が再生の鍵だと判明
果たしてSP遺伝子は本当に再生に必要なのか、それとも再生に伴って偶然活性化しているだけなのか。実験は次のフェーズに入った。
米ウェイク・フォレスト大学の研究チームはCRISPRという遺伝子編集技術を使い、ウーパールーパーのDNAからSP8を取り除く実験を行った。
その結果、SP8を失ったウーパールーパーは四肢の骨を正常に再生できなくなった。
一方マウスではSP6とSP8の両方を欠損させた場合に指の再生が妨げられた。
哺乳類であるマウスでは2つのSP遺伝子が協調して再生を支えているのに対し、ウーパールーパーではSP8が単独で再生プログラム全体を主導していることが実験で裏付けられた。
SP8を模倣した遺伝子導入実験でマウスの骨が再生
ではSP遺伝子の働きを人工的に補うことはできないか。
そこで、デューク大学のデイビッド・ブラウン氏ら研究チームが応用実験を進めた。
SP6とSP8の両方を欠損させたマウスの指に対し、ゼブラフィッシュのヒレが再生するときに活性化するDNA配列を利用して、ウイルスを運び手に「FGF8」という分子を届ける手法を開発し、導入を行った。
FGF8とはSP8遺伝子によって通常スイッチが入るタンパク質で、細胞の成長や分化を促す働きを持つ。
SP遺伝子そのものを届けるのではなく、SP8が本来起動させるFGF8を直接送り込むことで、SP遺伝子が存在しなくても再生に必要な反応を引き起こそうという試みだ。
SP6とSP8の両方が欠損していても、その先にある反応を直接補えれば再生が促せる可能性がある。
実験の結果、SP遺伝子を欠損したマウスの指に骨の再生が部分的に回復した。
人間の手足再生に向けた第一歩
人間の手足にはウーパールーパーのような自発的な再生能力はない。
しかし今回の研究が示したのは、「ウーパールーパーのSP8遺伝子が本来起動させる反応を外から届けることで、人間の組織再生を促せる可能性だ。
マウスの指でその第一歩が確認されたことは、将来の人間への応用に向けた重要な足がかりとなる。
現在、失われた手足の代替を目指す研究は多岐にわたる。
人工的な足場構造体に細胞を定着させて組織を作り直す生体工学的アプローチや、あらゆる細胞に変化できる幹細胞を使った治療法などがその代表だ。
今回の遺伝子導入を用いたアプローチはこれらを補完し、強化できる可能性を持つ新たな手段として期待されている。
References: For regrowing human limbs, this salamander gene could hold the key[https://www.eurekalert.org/news-releases/1124515] / PNAS[https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2532804123]











