アスファルトに藻類を混ぜると、有毒ガスを100分の1に抑えられ、道路の寿命を延ばせる
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 道路のアスファルトは、熱や紫外線にさらされることで神経障害や肺がんリスクと関連する有毒な揮発性ガスを排出しており、劣化が進むほどその量を増していく。 

 米アリゾナ州立大学の研究チームは、廃水で育てた藻類からアスファルトの結合剤を作ることで、この有毒ガスを約100分の1に抑えられることを明らかにした。

 さらに藻類由来の素材は寒冷地でのひび割れを防ぎ、道路の寿命そのものを延ばす効果も確認されている。

 この研究成果は『ACS Sustainable Chemistry & Engineering[https://www.pnnl.gov/publications/algae-asphalt-enhance-pavement-sustainability-and-performance-subzero-temperatures]』誌(2026年2月11日付)に掲載された。

アスファルトが放つ見えない有毒ガス

 現代の道路の大部分はアスファルトで舗装されている。アスファルトは砕いた石や砂に、原油を精製した後に残る黒い粘性物質・ビチューメン(歴青)を加えて固めたものだ。

 ビチューメンは材料同士をつなぎとめる結合剤で、接着の役割を果たしている。

 問題は、道路が老化するにつれてビチューメンが分解され、揮発性有機化合物(VOC)と呼ばれる有害な化学物質が常時放出されることにある。

 VOCとは、常温で気体になりやすい炭素系の化学物質の総称で、吸い込むとめまいや息切れを引き起こす。

 長期間にわたって吸い続けた建設作業員では、肺がんのリスクが著しく上昇することも分かっている。

 さらに、米アリゾナ州立大学グローバル・フューチャーズ研究所のエルハム・フィニ博士の研究では、紫外線と熱が道路の劣化を加速させることが確認されている。

 劣化したアスファルトほど、より小さく、より毒性が高く、無臭のため気づきにくい化合物を放出するようになる。

 これらの微細な分子は体内の防御をすり抜け、動脈を通じて脳や内臓に到達する。

 研究では、こうした物質への長期曝露が、特に女性や高齢者において神経障害のリスクを高めることが示されている。

 フィニ博士は、気候変動による気温上昇がこの状況をさらに悪化させると指摘している。

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廃水で育てた藻類をアスファルトの結合剤に

 その解決策として、フィニ博士はアリゾナ藻類技術イノベーションセンターのピーター・ラマーズ博士と共同研究を進めている。

 注目したのは、急速に増殖する藻類だ。

 藻類の中には1日で質量が2倍になる種もあり、同じ面積で収穫できる有機物の量はトウモロコシや大豆の最大10倍にのぼる。

 また、成長過程で光合成により大気中のCO₂を吸収するため、環境負荷が低い原料でもある。

 研究チームはフェニックス市の下水処理場から廃水を調達し、藻類の養分として活用している。

 通常は窒素やリンが多すぎて河川などに放流できない廃水だが、藻類を育てる培地として再利用することで無駄なく処理できる。

 収穫した藻類は「水熱液化」と呼ばれるプロセスで処理される。

 高温・高圧の水の中で藻類を分解する水熱液化技術は、地球が何百万年もかけて有機物を原油に変える過程を人工的に短縮したもので、数時間で石油に似た性質のオイルを取り出すことができる。

 このオイルをさらに精製することで、石油系ビチューメンの代わりに使える藻類由来の結合剤「バイオバインダー」が完成する。

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藻入りアスファルトは有毒ガスを大量に抑え、劣化を遅らせる

 太平洋岸北西部国立研究所(米国エネルギー省管轄の国立研究機関)とアリゾナ州立大学の共同研究では、藻類由来のバイオバインダーを混ぜたアスファルトの性能が試験された。

 アスファルトにバイオバインダーを混入することでアスファルトが放出する有害物質の総量が約100分の1に低下することが確認された。

 バイオバインダーの成分が有害な揮発性化合物を内部に封じ込め、外部への放出を大幅に抑制するためだ。

 この研究にはメイヨー・クリニック(米国ミネソタ州に本部を置く世界的な医療・研究機関)も参加しており、地域住民や建設作業員への健康影響の観点から評価が進められている。

 また道路の劣化そのものも遅くなるため、長期にわたって有害物質の放出が続くリスクも下がる。

 耐久性の面では、石油系アスファルトが低温で脆くなりひびが生じやすいのに対し、アオサ(Ulva)属の藻類から作ったバイオバインダーをわずか6%混ぜるだけで、素材の柔軟性が大きく改善された。

 別の微細藻類であるヘマトコッカス・プルビアリス(Haematococcus pluvialis)を水熱液化して得た接着剤を使った試験では、重い荷重をかけた後にアスファルトが元の形に戻ろうとする力(弾性回復率)が、0.1%から71%にまで上昇した。

 炭素排出量については、石油系ビチューメンをバイオバインダーに1%置き換えるごとに正味の排出量が3%ずつ減少する。

 理論上、33%の配合率でカーボンニュートラル(排出と吸収が相殺された状態)を達成でき、それ以上の配合率では道路が大気からCO₂を実質的に除去する存在になる計算だ。

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世界で進む実証と残された課題

 現在、フィニ博士はフェニックス市と協力し、藻類入りアスファルトによる実際の試験道路を整備中だ。

 猛烈な日差しが続くアリゾナの環境は、有害ガスの放出量を検証する場として最適であり、ここで得られるデータが実用化の判断材料になる。

 国際的な動きも加速している。

 フランスでは「アルゴルート(Algoroute)」プロジェクトが試験走路への施工に成功し、従来品と比較して炭素排出量を最大70%削減できることを実証した。

 英国の大手建設会社ターマック(Tarmac)も同様のパイロット実験を進めている。

 だが課題も残っている。

 現時点ではバイオビチューメンの製造コストは石油系に比べて高く、大規模な生産体制を整えるにはバイオ精製施設への大きな投資が必要だ。

 実験室での結果と実際の道路での挙動が異なるケースもあるため、大型トラックが行き交う実環境での長期的な耐久試験も欠かせない。

 それでもフィニ博士は、アメリカ国内だけで約640万kmにのぼる道路網を安全なものに変える可能性があると強調する。

 道路の有毒ガスの放出を抑えることで健康を守り、なおかつ気候変動を和らげる効果が期待されているからだ。

References: Asphalt is everywhere, but is it bad for our health?[https://news.asu.edu/20260417-environment-and-sustainability-asphalt-emissions-algae-health] / PNNL[https://www.pnnl.gov/publications/algae-asphalt-enhance-pavement-sustainability-and-performance-subzero-temperatures]

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