シャチの高度な狩りスキル。強力な波を起こし流氷のアザラシを海に落とす方法が明らかに
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 南極の流氷の上で休むアザラシを、シャチは波を武器にして海へ叩き落とす。

 噛みつくでも体当たりするでもなく、群れで特定の姿勢をとって泳ぐだけで、狙い通りの巨大な波を作り出せるのだ。

 イタリアと中国の国際研究チームが、この驚異の狩りの物理的なメカニズムを水槽実験で初めて解明した。

 シャチが頭を上げ、尾を下に向けて泳ぐとき、水面に深いくぼみが生まれ、大きな流氷は割れ、小さな流氷は波に飲み込まれる。

 単純な力任せではなく、流体力学を駆使した精巧な集団戦術だったのだ。

 この研究成果は『Journal of Fluid Mechanics[https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-fluid-mechanics/article/abs/how-orcas-capture-seals-resting-on-ice-floes/7CA805E44AFD77DC16D1056EE55E2CF8]』誌(2026年4月27日付)に掲載された。

群れで強烈な波を起こしてアザラシを海に落とす

 南極の海に浮かぶ流氷の上は、アザラシにとって一見すると安全な避難場所に思える。水から上がっているため、海中を泳ぐ捕食者には手が届かない。 

 しかし知能の高いシャチは、その「安全地帯」を崩す方法を持っている。

 水の中にいながら、氷の上のアザラシを海へ落とすことができるのだ。

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 シャチが流氷上のアザラシを狙うとき、単独で突進することはしない。

 複数頭が横一列に並んで隊列を組み、アザラシのいる流氷へ向かって一斉に泳ぎ出す。

 そのまま水面すれすれを高速で通過するか、氷の真下へ潜り込む。

 大きな体が水を押しのけながら勢いよく進むことで、進行方向の水面に強力な波が生まれる。

 その波が流氷を揺さぶり、アザラシを海へ叩き落とすのだ。

時には流氷が真っ二つに割れることもある。

 アザラシが水に落ちたところを、待ち構えていたシャチが仕留める。

 この狩りの方法は以前から観察されていたが、どのような泳ぎ方でどういう物理的メカニズムによって波が生まれるのか、詳細はわかっていなかった。

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波の威力を決めるのは泳ぎの姿勢だった

 中国・西北工業大学とイタリア・トリノ工科大学の国際研究チームは、シャチが流氷に近づくときの体の向きに注目した。

 観察によれば、シャチは頭を上に向け、体を斜め上方に傾け、尾を下方に押し下げるという特定の姿勢をとっているとみられる。

 この姿勢が波の威力を左右するのかどうかを検証するため、チームは楕円形の胴体とくさび形の可動式の尾を持つ縮小モデルを作製し、曳き(ひき)水槽と呼ばれる実験用水槽の中で引っ張りながら、胴体と尾の角度をさまざまに変えて水面への影響を計測した。

 曳き水槽とは、模型を水中で引っ張ることで泳ぐ動作を再現し、生じる水流や波を精密に測定できる装置だ。

 計測の結果、最も強力な波が生まれたのは、胴体を上方に傾け、尾を下方に向けた姿勢のときだった。

 この姿勢では、モデルの体と水面の間を流れる水が体の表面に長く付着し続け、水面を深くへこませる効果が生まれた。

 この現象の背景にあるのが流体力学の現象の「コアンダ効果」だ。

 流体には物体の曲面に沿って流れ続けようとする性質があり、シャチが頭を上げて体を傾けることで、体に沿った水流がより長く付着し、水面に深いくぼみを作り出す。

 研究チームは、シャチは狩りの際に意図的に頭を上げているように見え、この姿勢と下向きの尾の動作を組み合わせることで、波の生成効率が高まる可能性があるという。

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大きな氷は割り、小さな氷は波で洗い流す

 シャチが作り出す波の最初の部分は、波の山ではなくくぼみだ。

 水面がへこんだまま前進し、流氷の端に達すると、氷の前端がそのくぼみに引き込まれるように沈む。

 大きな流氷の場合、後端は水面に浮いたままなのに前端だけが沈むため、氷全体に大きな曲げの力がかかる。

 その力が氷の強度を超えた瞬間、流氷は真っ二つに割れる。これは、板の一端を固定して他端を強く押し下げると板が折れるのと同じ原理だ。

 小さな流氷に対しては別の方法をとる。

 小さい氷は割れにくい分、波によって大きく傾く。そこへ続く波の山が上から打ちつけると、水がテーブルの上を滑るように氷の表面を流れ、アザラシを海へ押し流す。

 研究チームは水槽実験と映像解析によってこの2つの戦略が実際に機能することを確認した。

 シャチの群れが作るくぼみ波は、まず大きな流氷を割り砕き、次に残った小さな氷の上のアザラシを洗い流すために使われる可能性があるという。

 シャチの賢さを裏付けるかのような高度な頭脳プレイだ。

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群れの利点を熟知した高度な狩リスキル

 1頭のシャチでも水面を乱すことはできる。

 しかし複数頭が肩を並べて泳ぐことで、波は横に広がり、流氷全体を揺さぶれるほどの力を持つ。

 1頭では届かない規模の波が、群れになることで初めて実現するのだ。

 これがシャチの群れ狩りに流体力学的な意味をもたらしている。

 研究チームは、シャチが作る波が風や船、潜水艦が生む波とは性質が異なることも指摘している。

 シャチの波はより集中しており、流氷のサイズに合わせてその力を効率よく伝えることができる。

 ただし今回の研究には限界もある。

 実験に使ったのはあくまで縮小モデルであり、実際の南極の海氷をすべて再現することはできない。

 実際のシャチも、泳ぎながら常に一定の姿勢を保つわけではなく、体を曲げ、尾を打ち、姿勢を刻々と変化させている。

 研究チーム自身も、実際の行動は実験室モデルが再現できる範囲よりはるかに複雑だと認めている。

 それでもこの研究は、シャチが流体力学の法則を狩りに組み込んできた可能性を示す重要な一歩となった。

 水を精密な道具として操り、氷の上の獲物を海へ落とす戦術は、長い進化の歴史の中で群れが培ってきた知性の産物といえるだろう。

まとめ

この研究でわかったこと

  • シャチは頭を上げ尾を下げる姿勢で泳ぐことで、強力なくぼみ波を意図的に作り出せる
  • 大きな流氷はくぼみ波の曲げる力で割り、小さな流氷は続く波で洗い流してアザラシを落とす
  • 群れで横並びに泳ぐほど波が広く強くなり、1頭では不可能な規模の狩りが実現する。これがシャチが群れで狩りをする流体力学的な理由だ

身近な例に例えるなら?

プールで複数人が横に並んで同時に泳ぐと、1人で泳ぐより大きな波が立つ。シャチはこの原理を使い、群れで並んで泳ぐことで流氷ごとアザラシを揺さぶれるほどの波を作り出している。姿勢まで工夫して波を最大化する点が、単なる力任せとは違う知能の高さを物語っている。

まだわかっていないこと・今後の課題

  • 実験は縮小モデルのため、実際の南極の海氷で同じことが起きるかは完全には確認できていない
  • 実際のシャチは泳ぎながら姿勢を絶えず変えており、その複雑な動きは再現しきれていない

References: DOI: https://doi.org/10.1017/jfm.2026.11483[https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-fluid-mechanics/article/abs/how-orcas-capture-seals-resting-on-ice-floes/7CA805E44AFD77DC16D1056EE55E2CF8] / How Orcas Create Giant Waves to Hunt Seals on Ice Floes[https://www.zmescience.com/science/oceanography/how-orcas-create-giant-waves-to-hunt-seals-on-ice-floes/]

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