ポイント
・ 延べ400日を超える現地調査と、採取試料の化学組成・年代の分析を基に精密な地質図を作成
・ 日本海形成前・形成期・形成後にわたる堆積環境・火成活動・断層活動の変遷史を解明
・ 鳥取県・兵庫県における地質災害評価・土地利用計画・教育・観光振興への活用に期待
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国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)は、鳥取県・兵庫県の県境に位置する浜坂地域の地質調査の結果をまとめた5万分の1地質図幅「浜坂」(以下「本図幅」という)を刊行しました。鳥取県東部から京都府北部に広がる山陰海岸ユネスコ世界ジオパークおよび山陰海岸国立公園の指定域における5万分の1地質図幅の刊行は47年ぶりとなります。
同ジオパークは日本海形成を主要テーマとしていますが、「浜坂」地域には日本海形成期のみならず、その前段階である大陸時代および形成後の列島時代に相当する地層も広く分布しています。これらの地層は、地層形成時の急激な環境変化や、活発な火山活動を記録しており、日本列島形成史を総合的に理解する上で学術的に重要な地域です。しかし、本地域の地質は日本海形成前後の激しい変動の影響で非常に複雑であり、従来の地質図ではその特徴を十分に捉えきれない面がありました。こうした背景を踏まえて、最新の地質学的見地に基づく精密な地質図を刊行しました。
本図幅には、延べ400日を超える緻密な地表踏査に加え、化学組成分析や年代測定など多様な手法を組み合わせて得られた情報が集約されています。特に、日本海形成期の地層である中新統・北但層群については、日本海形成に伴って本地域が陸上環境から浅海・深海へと移行し、その後再び陸上環境へ戻った急激な環境変化と、同時期の活発な火山活動について、明瞭な時系列関係を示しました。なかでも、鳥取市と岩美町の境界に位置する駟馳山では、日本海形成末期に陸上で形成された火山噴出物を見いだし、駟馳山層と記載しました(図1)。これにより、鳥取地域でははじめて、日本海形成に伴って深海化したのち、再び陸上環境へ戻ったことを示す地層記録の存在が示されました(関連論文1)。
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本図幅では、このような地層の情報を解明・整理したことに加え、断層露頭(図2)の発見や周辺の地層との関係の検討を通じて、断層活動の時期や分布の対応関係を明らかにしました(関連論文2)。また、「鳥取県の化石」に選定されている「中新世魚類化石群」についても新たな産地を発見するなど、多様な成果が得られています(図3)。
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さらに、大陸時代の地下で生じた大規模なマグマ活動の産物である古第三系・浦富花崗岩や、列島時代のカルデラ形成の証拠である鮮新統・照来層群、日本最大級の砂丘である第四系・鳥取砂丘の堆積物など、山陰海岸ユネスコ世界ジオパークを代表する多様な地層について詳細に記載しました。あわせて、過去の研究史の整理や地層名・層序体系の整備・統一を図りました。
加えて、鳥取市の摩尼山では、これまで認識されていなかった約330万年前の火山の痕跡を見いだし、これを摩尼火山と命名しました(図4)。また、岩美町の羽尾鼻周辺に分布する玄武岩が約430万年前の溶岩であることを明らかにし、大羽尾溶岩と命名しました(図5、関連論文3)。兵庫県の湯村温泉周辺では、照来層群のカルデラ形成に先立つ火山活動を示す地層を識別し、湯層と命名しました。これらをはじめ、日本海形成前後に関わる多くの新知見が得られたことで、本図幅は山陰海岸ユネスコ世界ジオパーク域の大地の成り立ちに新たな理解を加えるものとなりました。
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本図幅は、今後の山陰海岸地域および周辺域における地質学・古生物学・地形学などの地球科学分野の研究の発展を支えます。加えて、地質学的な土地の成り立ちや石材の特性に着目する観点から、考古学や歴史学など非地球科学分野における学際的な研究や、社会実装の基礎資料としても大きく貢献すると期待されます。
また、詳細な岩相記載や断層・地すべり地形などの分布情報は、斜面災害対策、土地利用計画、地震動評価などに資する科学的根拠を提供します。さらに、本地域の大地の成り立ちへの理解の深化を通じて、教育活動やジオツーリズムの質的向上と地域振興にも寄与することが見込まれます。
下線部は【用語解説】参照
メンバー
羽地 俊樹(産総研 地質情報研究部門 地殻岩石研究グループ 主任研究員)
工藤 崇 (産総研 地質情報研究部門 地殻岩石研究グループ 研究グループ長)
佐藤 大介(産総研 地質情報研究部門 地殻岩石研究グループ 主任研究員)
関連する論文
1.掲載誌:地質調査研究報告
タイトル:鳥取県東部,駟馳山付近に分布する中新統鳥取層群駟馳山層とその地史的意義
著者:羽地俊樹・金山恭子・工藤崇・菅森義晃・仁木創太・平田岳史
DOI:10.9795/bullgsj.77.1_1
2.掲載誌:Island Arc
タイトル:Small half-graben inferred from a Miocene syn-rift succession in the Kinbusan area, eastern Tottori Prefecture, Japan
著者:T. Haji
DOI:10.1111/iar.12508
3.掲載誌:地質学雑誌
タイトル:鳥取県北東部,羽尾鼻に分布する下部鮮新統大羽尾溶岩
著者:羽地俊樹・工藤崇・菅森義晃・金山恭子
DOI:10.5575/geosoc.2025.0001
入手先
本図幅は、産総研地質調査総合センターのウェブサイトからダウンロードできます(https://www.gsj.jp/Map/JP/geology4-12.html#12012)。また、産総研が提携する委託販売先からも購入できます(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guide.html)。
用語解説
地質図・地質図幅
地質図とは、表土の下にある岩石や地層の種類・分布、褶曲や断層などの地質構造を、色や模様、記号を用いて地形図上に示したものを指す。
山陰海岸ユネスコ世界ジオパーク
京都府・兵庫県・鳥取県の沿岸域から構成される東西約120 kmに及ぶ広域ジオパーク。日本海形成に伴う地形・地質と、それらを背景とした生物、暮らし、文化・歴史を主要なテーマとしている。本ジオパークでは、地形・地質の保全に加え、それらを教育・観光・地域振興と連携させるジオツーリズムの推進が重視されている。
日本海形成
日本海は、プレートの沈み込みに伴ってアジア大陸の地殻が引き伸ばされ、その縁辺部が裂けることで形成された海域である。この過程で、日本列島はアジア大陸から離れて移動し、日本海を隔てた現在の列島として成立した。日本海の形成時期については諸説あるが、主要な時期は約2,300~1,500万年前と考えられている。この期間には、活発な火山活動や大規模な断層運動が生じた。当時形成された断層の一部は現在も再び活動しており、被害地震を引き起こした例もある。
北但層群
約2,200~1,500万年前(中新世)の日本海形成期に形成された地層群である。山陰海岸地域の日本海形成期の地層は、従来、鳥取県域では「鳥取層群」、兵庫県・京都府域では「北但層群」と別々に扱われていた。本図幅では、両者の岩相・年代・分布を総括し、北但層群として一括整理した。陸上河川・湖・浅海・深海など多様な環境で堆積した堆積岩と、同時期の火山活動に由来する火山噴出物・貫入岩から構成され、日本海形成期の地殻変動や火山活動を読み解く上で重要な地質記録である。
中新世魚類化石群
日本地質学会が選定した鳥取県の石(化石)であり、主要産地は鳥取市国府町宮下である。宮下では、中新世の地層から保存状態のきわめて良好な魚類化石が産出し、現在7種が記載されているほか、未記載種も含めて種数が多いことから、この時代の浅海域の堆積層としては世界的な魚類化石産地とされている。またこの化石群を産出する層準は、日本海形成期に山陰海岸ジオパーク域において海が侵入し始めた時期の地層から産出するため、地質学的にも重要である。本図幅で新たな産地を確認したことにより、この魚類化石群を産出する地層の広域的な分布の解明や、宮下では未報告の新種化石の発見が期待される。なお、新産地は私有地内にあり、立ち入りには地権者の許可が必要である。
浦富花崗岩
本図幅で新規に命名した、約3,300~3,200万年前(古第三紀漸新世)に形成された花崗岩体である。従来は「浜坂花崗岩」などと記載されていたが、地層としての定義に必要な記述が十分ではなかったため、今回、詳細な岩相記載と地層命名指針に基づき新称として定義した。
照来層群
照来コールドロンと呼ばれる火山性陥没盆地(カルデラ)の形成と、それに関連した火山活動によってつくられた約300~260万年前(鮮新世)の地層群である。火山活動に由来する火山岩と、陸上河川や湖で堆積した堆積岩が複雑に入り組んでいる。本図幅では、詳細な岩相および層序関係の調査に基づき、従来の層序区分を見直し、本層群を構成する地層名の整理と体系化を行った。日本海形成後の西日本で生じた大規模火山活動やカルデラ形成を示す重要な地質記録である。
鳥取砂丘
鳥取市北東部の日本海沿岸に発達する砂丘である。日本海沿岸の海浜砂が季節風によって内陸に運ばれ、その背後に堆積して形成された砂丘で、更新世から完新世にかけて発達した。本図幅域内には鳥取砂丘の東端部が含まれ、三段の砂丘列が発達し、最高標高は約70 mに達する。砂丘堆積物からは過去の気候変動や海岸環境の変遷を読み取ることができ、縄文時代以降の遺跡も保存されている。浜坂地域を代表する地形資源であり、観光や環境・人文教育に活用されている。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260423_2/pr20260423_2.html