第三次安倍改造内閣で安倍首相が防衛相に任命した自民党・稲田朋美衆議院議員。8月4日、就任後初の会見で、日中戦争などが日本の侵略戦争だとの認識があるか質問され、こう答えた。



「侵略か侵略でないかは評価の問題であって、一概には言えない」
「私の個人的な見解をここで述べるべきではないと思います」

 曖昧な回答で明言を避けたのは、本音では日本の侵略や戦争責任を否定したい歴史修正主義者だからに他ならない。実際、稲田氏は自民党きっての極右タカ派で、安倍政権による戦前回帰の旗振り役。本サイトではこれまで、稲田氏の経済的徴兵制推進など、その軍国主義丸出しの発言の数々を伝えてきた。

 ところが、こうした稲田氏の極右政治家としての本質を、日本のマスコミ、とくにテレビメディアはほとんど触れようとせずに、ただ"将来の総理候補"ともてはやすばかりだ。

 しかし、そんな国内マスコミとは対照的に、世界のメディアはその危険性を盛んに報道している。

 たとえば、英タイムズ紙は3日付電子版で、「戦中日本の残虐行為否定論者が防衛トップに」(Atrocity denier set to be Japan's defence chief)との見出しで、冒頭から稲田氏について「第二次世界大戦中の日本が数々の残虐行為を犯したという認識に異議を唱え、日本の核武装をも検討すべきとする女性」と紹介した。


 また英ロイター通信も3日付の「日本の首相は経済回復を誓いながらも、新たな内閣にタカ派防衛相を迎える」(Japan's PM picks hawkish defense minister for new cabinet, vows economic recover)という記事で、稲田氏の写真を冒頭に掲載し、大きく取り上げている。

「新たに防衛相に就任する稲田朋美(前・自民党政調会長)は、日本の戦後や平和憲法、日本の保守派が第二次世界大戦の屈辱的な敗戦の象徴として捉えている平和憲法や戦後を改めるという安倍首相の目標をかねてより共有している」

 さらに米AP通信は3日付で「日本が戦争の過去を軽視する防衛トップを据える」(Japan picks defense chief who downplays wartime past)という記事を配信し、ワシントンポスト紙などがこれを報じている。記事のなかでは稲田氏を「戦中日本の行いを軽視し、極右思想(far-right views)で知られる女性」「国防についての経験はほとんどないが、安倍首相のお気に入りの一人」と紹介。そして「慰安婦問題など戦中日本の残虐行為の数々を擁護し、連合国による軍事裁判を見直す党の委員会を牽引してきた」と書いたうえで、在特会などヘイト勢力との"蜜月"についてもこのように伝える。

「稲田氏の悪名高い反韓団体とのつながりについて、今年、裁判所は稲田氏の主張を退けて事実と認めた。また2014年には、稲田氏が2011年にネオナチ団体トップとのツーショット写真を納めていたと見られることも表沙汰となった」

 加えて、今回の内閣改造が安倍政権の改憲への助走であることにも触れ、なかでも稲田氏は日本の平和憲法を強く敵視してきたことをコンパクトにまとめている。


「安倍晋三首相は19人の閣僚の半数以上を変えたが、それは戦後日本の平和憲法を改訂すると同時に、安倍政権の安全保障や経済政策をサポートさせるためだ」
「57歳の稲田氏は、安倍首相の悲願である憲法改正の協力者である。稲田氏は、現行憲法は日本の軍隊を禁止していると解釈できるとして、戦争放棄を謳う9条を部分的に解体すべきと主張してきた」

 こうした海外の報道は、稲田朋美新防衛相の極右思想がもたらす国際関係の緊張に対する、世界の深い危惧を表すものだ。しかし、国内メディアといえば、たとえばテレビでは『報道ステーション』(テレビ朝日)などごく一部を除き、この稲田氏の危険性、そして彼女を防衛相に任命した安倍首相の真意についてつゆほども触れようとはしない。よしんば彼女の極右性に触れたとしても、それは「中国や韓国が懸念を示しています」という程度で、まるで、安倍政権がしかける対立構造の深化に手を貸しているようにすら見える。

 その背景には、もちろん報道圧力を強める安倍政権を忖度する放送局の姿勢があるのだろうが、それに加えて、稲田氏が"ネット右翼のアイドル"であることも関係しているのではないか。

 周知の通り、稲田氏はその極右発言の数々でネトウヨから「稲田姫」などともてはやされている。
その絶賛ぶりはネットの有象無象の声を見ればあきらかだ。テレビメディアはいま、政権からの有形無形の圧力に加え、こうしたシンパからの抗議電話、いわゆる"電凸"に怯えており、その影響はあの池上彰氏も指摘していることだ。

 安倍首相の覚えがめでたい有力議員で、かつ、大量のシンパを抱える稲田氏についてつっこんだ報道をしないのは、そのためではないかと思わざるをえない。ようするに、AP通信などが稲田氏とヘイト勢力の蜜月を批判的に報じたのとは対照的に、むしろ国内メディアは、彼女がヘイト勢力やネトウヨに"庇護"されているが故に、その危険性をネグってしまっているのではないか。だとすればこれほど奇妙な反転はないだろう。

 こうしたメディアの状況を、稲田氏は十分に心得ているはずだ。
近年では極右発言だけでなく、ゴスロリのコスプレを披露してオタク層にアピールしてみたり、性的マイノリティの日本最大のイベント「東京レインボープライド2016」に出席してLGBTへの理解を示すポーズを打ち出だすなど、新たな支持層の拡大に躍起となっている。

 しかし、騙されてはいけない。稲田氏はバリバリの表現規制派であり、雑誌でも「男らしさ」「女らしさ」を強調してジェンダーフリーバッシングに明け暮れてきた。そして何より、彼女は本音のところでは、"隠れ徴兵制"論者でもある。「教育体験のような形で、若者全員に一度は自衛隊に触れてもらう制度はどうですか」(「正論」2011年3月号/産経新聞社)と提言したことが象徴するように、最終的には、国民を兵役に就かせ、戦地に送り込むことを狙っている。

 海外メディアからの懸念に対して、見て見ぬ振りを決め込む国内マスコミ。
今後、安倍政権のタカ派政策によって、日本はますます世界から孤立していくだろう。いま、保身に走っているメディアは、その片棒を担いでいるのだ。これからわたしたちは、そういう視点で国内のニュースに向き合わねばならない。
小杉みすず