年金事務所の「強引な徴収」で倒産危機 猶予対応めぐり“驚きの実態”も明らかに
会社と従業員が折半して納付している厚生年金。これをある事情で滞納した大阪の会社は、年金事務所の「強引な徴収」で会社が倒産危機に陥ったと主張して、国と日本年金機構を提訴しました。
一体なにが起きたのか。
20年間黒字経営の会社がなぜ?賃料支払えず駐車場の片隅に事務所移転
大阪府高槻市の運送会社「シーガル」。駐車場の一角にあるプレハブ造りの建物が本社事務所です。総務部長の村岡大典さんはこの狭いスペースで仕事をしています。
シーガルはもともと茨木市にある3階建てビルを事務所として借り、創業から20年間黒字経営を続けてきましたが、おととし、賃料が支払えなくなりこの駐車場の片隅へと移転しました。
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「社長の報酬は2年間ゼロです。私(の給料)は食べる分の月5万円とか10万円です」
30人いた運転手は20人以上解雇
駐車場にあるトラックの台数も・・・
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「(Q何台くらい?)以前は最大30台、31台。(Q今は?)実働しているのは7台です」
以前はこの駐車場全体を借りていましたが、今は3分の1のスペースしか借りる余裕がなく、30人いた運転手も20人以上解雇せざるを得なくなりました。
経営危機の発端は「社員が約5000万円を横領」
これほどの経営危機に陥ったそもそもの原因は「社員の横領」でした。
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「(社員が)『実は横領していました』と。『中国の妻に送っていました』と」
会社によると、2023年10月、経理担当の男性社員が会社が納めるべき税金や厚生年金など約5000万円を横領していたことが発覚。
男性社員は「中国人の妻に送金していた」と打ち明けましたが、詳細が分からないまま3か月後に心臓病で急死しました。
税務署や市役所などは滞納金の納付を猶予
残されたのは税金や厚生年金などの多額の滞納金。村岡さんは税務署などに事情を説明して回りました。
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「税務署の方は『そういう事情でしたら職権で猶予します』と。『出来るだけの分割か1年間払わなくていい』という対応だった」
法律では「詐欺や横領などの被害にあった場合、税金や社会保険料の納付を1年猶予する」と定められています。
「税金」を徴収する税務署や市役所、「雇用保険」などの徴収窓口である労働局、すべてが「納付を猶予」してくれました。
しかし…年金事務所は「猶予する理由がない」
村岡さんは約3000万円を滞納していた「厚生年金」も猶予してもらおうと、おととし1月、吹田年金事務所に相談しましたが・・・
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「『猶予する理由がない』と。『横領はおたくの事情、資金をどう捻出するかもおたくの事情』。『そんなことうちには関係ないです』。1年間猶予できるって(法律が)あるじゃないですか?と言うと、『何の法律ですか?』『そんなん聞いたことないですね』『何の何条ですか?』って言われたんですよ」
何度相談しても猶予を認めずおととし8月には、売掛金の差し押さえを始めたのです。
売掛金を差し押さえ→売り上げが激減し倒産危機に
売掛金とは運送会社が運送業務を行ったあと、取引先から後日支払ってもらう運送料のことで、年金事務所は直接取引先に対してこの売掛金を差し押さえにかかったのです。
その結果、経営が危ないと思われ取引先が7社から2社に減少。売り上げが激減し倒産の危機に陥りました。
年金事務所"勉強不足"を認めるも差し押さえはとめず
ところがその1か月後。年金事務所の職員から“驚きの発言”があったというのです。
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「『横領は猶予の対象になるって(法律に)ありましたわ』『勉強不足ですみませんでした』って言われたんです。(差し押さえの)残りの分は止めていただけるんですか?と言うと、『それは無理ですねぇ』と言うんです。どういうことですか?法律が分かったんでしょう?(と聞くと)『もう既に着手しているから』って言うんですね」
さらに年金事務所は、「正式に書面で申請をしていなかったから猶予をしなかった」と主張したといいます。
「書類が出されていなかった」と繰り返す年金事務所
村岡さんが録音したという年金事務所の担当者との電話では・・・
【村岡さん提供の音声】
(担当者)「猶予っていうののご申請いただいたりとか、まず書類っていうのが必要になってしまうので。書類自体は受け付けていないですよね」
(村岡さん)「いや、そんな受け付けられないというか『横領被害にあったからって猶予する法律はない』とおっしゃったんですから、うちは何を出せるんですか?」
(担当者)「猶予の場合はこの前いただいた決算書であったりとか揃えていただいた上で、それを協議に諮って該当するかしないかっていう内容になってくるので」
(村岡さん)「それは今の話ですよね?今の時点の話で(最初の)1月にそうしておくべき」
(担当者)「もともとそうですね」
担当者は「書類が出されていなかった」と手続きの話を繰り返すばかりでした。
差し押さえ処分の取り消しなど求め…国と日本年金機構を提訴
年金事務所の対応に納得がいかない村岡さんたちはおととし12月、国と日本年金機構を相手に大阪地裁に提訴。
猶予申請を受理しなかったことの違法性の確認や、差し押さえ処分の取り消しなどを求めました。
また、裁判と並行して年金などの不服申し立てを審査する厚生労働省の社会保険審査会にも「差し押えが不当である」と訴えました。
厚労省の審査会が差し押さえを取り消す裁決
そして去年12月、審査会が下した判断は・・・
(厚生労働省・社会保険審査会の裁決書)「原処分(差し押さえ)は適切、妥当なものではなく、取り消しを免れない」
審査会は、5件の差し押さえのうち4件について、「横領被害によって納付を猶予できることを考慮せず行った」としてシーガル側の主張をほぼ認め、差し押さえを取り消す裁決を出しました。
その後に行われた裁判で日本年金機構は審査会の裁決を踏まえ、差し押さえを取り消して返金するとしました。
『横領の被害の証明』を繰り返す年金機構
ただ、一方でシーガルはそもそも猶予を申請しておらず横領の事実を証明する資料の提示を受けたこともないと従来と変わらない反論を繰り返しました。
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「今になって『横領の被害の証明をしてくれ』っていう、この主張って国がすることですか?」
こうした年金機構の対応に、村岡さんは強引な差し押えをされている会社はほかにもあるのではないかと思い、全国の年金事務所に電話をかけ、「横領被害が猶予の対象となるかどうか」について聞いてみることにしました。すると驚きの結果が・・・
「横領被害が猶予の対象になる」と明確に説明した事務所はわずか1割
(東海地方の年金事務所)「従業員の方が違法行為を行ったことによる猶予制度みたいなものは特段設けられていることはないんですよ」
(近畿地方の年金事務所)「事務員の横領とかそういう話になってくると、事業所側の責によることになってくるので一般的にはそういうのは猶予の事由としては一般的には該当しないのかなと思います」
村岡さんの調査では、「横領被害が猶予の対象になる」と明確に説明した事務所は50か所中5か所、わずか1割だけでした。
「こんな人たちに預けてていいのか…怒りよりも恐怖が湧く」
村岡さんはこの調査結果を、年金事務所の実態を表す資料として裁判に提出しました。
(運送会社「シーガル」村岡大典総務部長)「中小企業もこのご時世、大変な資金繰りの中納めたお金をね、こんな人たちに預けてていいのかな?と怒りよりも恐怖が湧いてきます」
MBSは日本年金機構に対し、村岡さんの調査結果などへの見解を求めましたが、回答は『係争中の案件なのでコメントは差し控える』というものでした。
(2026年4月21日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『憤マン!』より)

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