「一見クリーチャー?」異例のビジュアル公開
2026年11月、大阪で初めて開催される「第45回全国豊かな海づくり大会~魚庭(なにわ)の海おおさか大会~」。
5月1日にJR大阪駅で開催された200日前イベントのステージで、そのメインビジュアルが公開された瞬間、会場は独特の熱気に包まれました。
写真やPOPなイラストが中心だったこれまでの大会の常識を覆す、大会史上初となる「水墨画」による公式ポスター。
うねる波のような躍動感で描かれた巨大な「海」の文字を前に、大会委員長の大阪府・吉村洋文知事は、アンバサダーのSUPER EIGHT村上信五さんに問いかけました。
(大阪府 吉村洋文知事)「素晴らしいポスターになりました。村上さん、この魚、なんて魚かわかりますか?」
一見、クリーチャーのようにも見えるこの全体ビジュアル。一体何をモチーフに、どのように描かれたのでしょうか。
その舞台裏には、一人の書家の並々ならぬ執念がありました。
「人生で一番『海』を書いた」――岸和田が生んだ才能
このキービジュアルを手掛けたのは、“妖怪書家”として活躍する岸和田市出身の書家・逢香(おうか)さんです。
当初の依頼は大会テーマの揮毫(きごう)のみでしたが、その圧倒的な世界観に魅了された大阪府の担当者から、次々とリクエストが舞い込みました。
(書家 逢香さん)「生まれ故郷の岸和田での開催ということで、最初は大会メッセージを、というお話だったのですが、気づけば『あれもこれも』と。結局、大会公式ロゴから『魚庭の海』の文字、そしてメインビジュアル・大会公式ポスターまで担当させていただくことになりました。何度も書き直しが発生し、人生で一番『海』という字を書いたと思います」
そう笑って振り返る逢香さん。
実は1年前のプレイベントで配布されたミニトートバッグのデザインも彼女の作品です。当初はロゴ掲載だけの予定でしたが、「せっかくなら」とデザイン全体を引き受け、「海」の字をモチーフに作成、大会のイメージを形作ってきました。
古文書の妖怪に魅せられ、唯一無二の「妖怪書家」へ
逢香さんの原点は、幼少期にあります。もともと書道の先生をしている母の影響で、幼い頃から墨と筆が身近な環境で育ちました。
その後、奈良教育大学の書道科に進学。寝ても覚めても書に向き合う日々の中で、彼女の運命を変える出会いがありました。
(書家 逢香さん)「変体仮名を書くために古文書を見ていたんです。昔から古文書は好きだったのですが、そこに描かれていた妖怪たちがあまりにも愛おしく、かわいくて。一気に虜になりました」
文字と書、そして水墨画。古来の文化に、彼女が愛する「妖怪」を現代風に融合させました。世界に二人といない『妖怪書家』が誕生した瞬間です。
その実力は、一大ブームを巻き起こしたアニメ『妖怪ウォッチ』の墨絵(「黒い妖怪ウォッチ」)を2023年に手掛けたことで広く知られるようになり、奈良市美術館での個展で1万人を動員するなど、妖怪書家として唯一無二のアーティスト活動を広げます。
一方で、本来の書家としても世界遺産・金峯山寺や、橿原神宮の御鎮座百三十年記念大祭で揮毫するなど、伝統と現代を繋ぐ活動を精力的に続けています。
さらに、墨を使った逢香さんならではの活動も始めました。一般社団法人『モノモン』の設立です。「モノモン」とはモノクロモンスターの略、墨で描く妖怪のこと。
逢香さんは、大阪府の特別支援学校高等部で書道教諭をしていた経験から、障害のある子どもたちや支援の必要な子らが、自ら墨で妖怪を描くことで、表現する喜びや感性を引き出し、その作品を展示・販売するしくみ作りに取り組んでいます。表現者として認められることが、自己肯定感の向上につながれば、と逢香さんはいいます。
文化としての書を、様々な角度から幅広く広めたい――その想いが、彼女の筆を動かす原動力となっています。
専門家との“真剣勝負”で描いた「大阪湾の命」
そんな逢香さんにとって、今回の「海づくり大会公式ポスター」制作は、これまでにない挑戦でした。
(書家 逢香さん)「生き物は描き慣れていますが、今回はかなり苦労しました」
海づくり大会のポスターは、日本中の水産関係者の目に触れるもの。描かれた魚の体型バランスや、ヒレの形や位置、模様が実際の魚種と異なるといけません。彼女は府の水産担当者や専門家のアドバイスを受け、魚類分類学などの専門書を参考に、正しい魚の特徴を徹底的に学びました。
マイワシ、キジハタ、クロダイ……。
大阪湾を代表する魚たちが、敢えて線画で少しユーモラスにかわいく描かれ、水墨画特有の躍動感ある墨の「海」の文字に配置されています。逢香さんの「妖怪書」の作品に通じる表現法です。
(書家 逢香さん)「魚って妖怪に似ていると思うんです。ありえない形をしていたり、本当に種類も多様で。そう考えると、魚のデザインや忠実さもそうですが、パッと見たときに、子どもたちが魚を探したりして、少しでも大阪湾の魚に興味を持ってもらえたら嬉しいなと思います」
水墨画なので、書き直しの効かない一発勝負です。
大会ロゴ内の「海」と同じ形のシルエットを視覚的に認知できるよう強調し、その「海」は、墨ならではの表現として濃淡で海の上層から海の底層までを描き分け、その層にいるべき魚を配置しているそうです。
墨と筆で描くアナログの挑戦
この日、届いたばかりのポスターのお披露目で大阪府水産課に来た逢香さん。
関係者の方に見てほしいと持参した「原画」に「うわぁ!!すごい!!浮き出て見える」「これほんとに筆で描いたんですか?」と、驚きの声が上がっていました。
実行委員会は「水産関係はじめ、みなさまにこのデザインを気にいっていただいています。普通のポスターは、パッと見て終わりなんですが、これはじっと見てしまうので。大会本番に向けて盛り上げていければ…」
この日は、大阪府の咲州庁舎の2階のガラス窓に大量に貼り出されました。
両陛下の前へ、故郷の誇りをのせて
このポスターは今後、大阪府内はもちろん、全国の都道府県や学校に配布されます。
11月14日・15日の大会本番では、天皇皇后両陛下をお迎えする式典会場周辺を、逢香さんの書や水墨画が彩ります。
(書家 逢香さん)「光栄な機会をいただき、感謝しています。本番は、会場に掲示されるロゴやポスターを、この目でしっかり見届けたいです」
岸和田の地で生まれ、伝統を背負いながら革新を続ける妖怪書家。彼女が描いた一筆一筆が、大阪の豊かな海の未来を力強く照らし出しています。
【大会概要】
第45回全国豊かな海づくり大会~魚庭(なにわ)の海おおさか大会~
• 開催日: 2026年11月14日(土)・15日(日)
• 式典行事: 南海浪切ホール(岸和田市)
• 放流行事: 府営りんくう公園(泉佐野市)
※当日、両会場付近では一般参加が可能なイベントも開催されます。

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