今回は、過去に大きな反響を呼んだ実録エピソードから、都内の高級中華レストランに勤める男性が遭遇した、思わず目を疑うような“事件”をご紹介します。電話予約で訪れた5人家族を個室に通したものの、いつまで経っても呼び出しベルが鳴らない――。不審に思った店長と一緒にドアを開けた瞬間、円卓の上に広がっていた“とんでもない光景”とは。
記事の後半では、店側が「出入り禁止」を伝えることに法的な根拠はあるのか、そして居座る客に適用されうる“ある罪”についても触れていきます。「お客様は神様」の続きにある、ちょっと知っておきたい法律の話、お届けします。
高級中華レストランに来る迷惑客
都内某所にある高級中華レストランで働く吉富さん(仮名・42歳)。以前は自動車の営業マンをしていたそうですが、異業種に転職して早15年がたとうとしていました。そんな吉富さんに「迷惑な客とは?」という直球な質問を投げてみたところ…
「最近は、店側と客とが対等になりつつありますが、以前は『お客様は神様』の時代が全盛でしたね。やはり一番多いのが『怒鳴る客』でしょうか。
注文が遅いとか、メニューと写真が違うとか……。次に迷惑なのは『長居する客』ですかね。悪気はないのでしょうが、混んでいる時なんかはもう少し空気を読んでほしいというか……。
ま、無銭飲食とか、警察沙汰になる客は別枠ですけどね。ただ、最近はあまり見なくなったかな」
客は見た目では判断できない
ただ、迷惑な客は見た目では決して判断できないと語る吉富さん。「先日も驚いたことがあったんです。品の良い感じの母親と大学生くらいの娘さんが訪れて、ぎょうざとラーメンとしゅうまいを頼まれました。
しばらくしてその親子が席を立ち、会計レジへ向かったかと思うと『いい加減なこと言わないでよ!詐欺みたいじゃないの。店長を呼んで!』とかなりの大声でレジの女の子をまくしたてていました。
慌てて私が駆けつけると、どうやら無料クーポンの期限が切れていて、それを伝えたら逆上し始めたんです。こちらには非はないのですけどね」
一見上品そうに見えても、そうやって豹変する客は少なくないそうです。
「もちろん、その真逆もありますよ。失礼な言い方なのですが、どうみても浮浪者のような汚れた身なりの客が来店し、その後に同じような身なりの友人が来店し、結局宴会のような大盛り上がりとなって、キャッシュで12万円ほど支払った客もいましたね。
その客は、高校生のアルバイトに5000円のチップまで渡していましたよ」
吉富さんほどのキャリアになると、さまざまな客に遭遇しているようです。
一向に注文してこない5人家族の悪事
ただ、つい最近遭遇した客は、吉富さんも目を丸くしていたそうです。「その日は、電話で予約を受けていた5人家族が時間通りにお店に到着し、奥にある個室に通しました。ウチの店は、繁忙期でなければ無料で個室が利用できるので、よくある光景なんですよ」
ところが、部屋へ案内し、しばらくしても一向に呼び出しベルが鳴らなかったといいます。
「何度か個室のドア越しに『ご注文はいかがでしょうか?』と丁寧に尋ねたのですが、その後も呼び出しベルは鳴らず、3~4回は足を運びましたかね。
厨房の前で困った様子を見せていると、店長がやってきて『吉富、元気ないじゃないか。え?あの個室、5人家族?もしかして…。俺、見に行くわ』と、店長自らが個室の様子を見に行きました」
店長の後に続いて個室に出向き、吉富さんはとんでもない光景を目にしたといいます。
出入り禁止に相当する事案だった
店長は、客の男性に向かって毅然とした態度を取ったと言います。「お客さん、注文いただかなくて結構です。その代わり、退店をお願いします。そして、申し訳ありませんが、今後は当店をご利用しないでください」
と、はっきりとした口調で伝えました。店長の真剣な態度に、客の子供は泣きべそをかき、母親だと思しき女性は頭を下げ、すぐに店を出て行ったといいます。
「あとで店長が教えてくれたのですが、最近、お店の周辺で同様の問題が発生しているらしいのです。無銭飲食ではないので警察沙汰にはできないようですが、今後この辺りのお店は利用できなくなるでしょうね。
しかし、不思議な客でしたね。子供たちに高級店の雰囲気でも経験させたかったのでしょうか」
それ以来、吉富さんのお店周辺で迷惑客のうわさは聞かなくなったそうです。
■「お客様は神様」の続きにある、知っておきたい話
今回ご紹介したエピソード。コンビニ弁当を持ち込んでの個室利用は、無銭飲食ではないため警察沙汰にはならないものの、店側にとっては立派な営業妨害です。店長の毅然とした退店要請は、感情的になることなく、客の親子にも配慮した、まさに理想的な対応だったと言えます。実は、飲食店と客のトラブルをめぐる動きは、ここ数年で大きく変わってきました。
農水省が公表した「カスハラ対策ガイドライン」
2026年2月27日、農林水産省が「飲食店向けカスタマーハラスメント対策ガイドライン」を公表しました。背景にあるのは、2025年6月に施行された労働施策総合推進法の改正で、企業にカスハラ防止措置が義務化されたこと。ガイドラインでは、カスハラを7つの類型に分類し、それぞれへの対応例の動画まで用意されているという徹底ぶりです。
居座る客に成立しうる“ある罪”とは
ちなみに、店側が「お引き取りください」と伝えたあとも居座り続けると、刑法130条の「不退去罪」に問われる可能性があります。法定刑は3年以下の懲役または10万円以下の罰金。「お店だから関係ない」と思いがちですが、住居侵入罪と同じ条文に並ぶ、れっきとした犯罪です。さらに、大声で怒鳴ったり長時間クレームを続けたりして店の業務を妨げた場合は、「威力業務妨害罪」(3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する可能性もあります。
お互い気持ちよく、テーブルを囲めますように
――なんて、つい法律の話ばかりしてしまいましたが、外食って本当は、もっと心が躍るもののはず。湯気の立つ料理、グラスの音、誰かと囲むテーブルの楽しさ。「いらっしゃいませ」と「ごちそうさま」の間にある時間は、店員さんと客の双方が少しずつ思いやりを持ち寄って、はじめて成り立つものだと思います。明日、お店の扉を開ける側になる人も、カウンターの内側に立つ側になる人も。「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」のあいだに流れる時間が、誰にとっても穏やかなものでありますように。この記事が、ほんの少しでもその一助になれたなら、こんなに嬉しいことはありません。
<取材・文/八木正規 再構成/日刊SPA!編集部>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
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