『孤独のグルメ』原作者で、弁当大好きな久住昌之が「人生最後に食べたい弁当」を追い求めるグルメエッセイ。今回『孤独のファイナル弁当』として取り上げるのは「楽屋弁当」。
孤独のファイナル弁当 vol.32「楽屋でみんなで食べる、お弁当時間の楽しさよ」
南足柄市文化会館大ホールでトーク&ライブをしてきた。小田原から大雄山線というローカル線に乗って終着駅。ホールだから、鍵のかかる楽屋もある。
廊下にはお菓子や飲み物が用意されていて、リハーサル前にはお弁当も出た。うれしい。近くの「和み料理 きんとき」からの仕出し弁当。その店が近いせいか、弁当はまだ温かかった。ありがたい。
初めての会場、初めて会うスタッフ。見にきてくれる人々も僕らを見るのはきっと初めての人が多いはずだ。多少の緊張感がある中、いつものバンドメンバーと同じ弁当を食べる時間は和む。
「お、煮物うまい」
「このフライは鶏? 魚?」
「形はカキフライだけど」
「俺も今一口食べたんだけど、どっちかまだわかんない」
「ソースと醤油どっちかけました?」
「俺、子供の頃はソースが多かったけど、最近は天ぷらでもフライでも醤油」
「わかる、エビフライでも醤油」
「あ、下にタルタルが入ってる!」
「ウッソ!」
「ほんとだ……エビフリャーにうまし!」
この辺でトイレから手を拭きながら戻ってくるメンバーもいる。
「あ、もう食べてるんだ。俺も食べよう」
「めっちゃうまいっす」
「あ、廊下にお茶があるよ、足柄茶」
「このごはんは茶めし?」
「ですかね」
「いや、炊き込みごはん」
「なんの?」
「油揚げの破片が入ってる」
「ごぼうも」
「煮物うまいー」
「でしょ」
「筍がうまい」
「ふきも入ってません?」
「旬でしょ」
「煮物うまいとなんか幸せだなあ」
「それジジイになったってことでしょ」
「ハハハ」
「この春雨サラダうれしいね」
「うれしいうれしい」
「このフライ中身なんですか」
「今頃言ってる」
「魚だね。白身魚」
「赤身でしょう」
「なんの?」
「知らん」
弁当は基本一人で黙々と食べるものだが、みんなと食べるのもこういうふうに楽しい。
これが人生最後の弁当だったら、これ以上ない冥途の土産であろう。自分はもう病院にいて自分の口でものを食べることなどできず、話すこともままならないかもしれない。
そして狭い楽屋でどうでもいい会話を交わしたひとときが、人生のかけがえのない幸せの時間だったと思うに違いない。
―[連載『孤独のファイナル弁当』]―
【久住昌之】
1958年、東京都出身。漫画家・音楽家。代表作に『孤独のグルメ』(作画・谷口ジロー)、『花のズボラ飯』(作画・水沢悦子)など。Xアカウント:@qusumi
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