邦画の名匠・山田洋次氏(94)の監督人生は66年目に入った。「男はつらいよ」シリーズ終了後は、映画にとどまらず、演劇にも本格進出。
「そこはちょっと違うな」「もう少しセリフを立たせて」「動きに間を持たせて」…矢継ぎ早に出演者へ。監修を担当する山田監督の指示が飛ぶ。ほとんど全員に。細かく丁寧だ。取材のカメラマンがシャッターチャンスを狙っていることなど眼中にない集中力。映画と演劇で、どのような区別がなされているのだろうか。
「映画の場合、他の映画館でもこんなふうに喜んでくれているのかな、と想像したりすることがある。また見に来よう、と気軽に思えたりもするよね」と説明する。一方で「それが舞台になると、そこの劇場空間で起きることが全て。
山田監督が生まれたのは、満州事変(1931年9月18日)の直前(同13日)。「俺はあの時に生まれた、ということだよね。父が満鉄にいたから満州にも行って生活した。自分にとって大事な体験ですよ」。後に「寅さん」にも通ずる落語を愛するようになるのはこの幼少期。45年終戦時14歳。多感な時期の大半を、戦時下で過ごした。
幼い中でいや応なしに生死を考えたのではないか。コメディー、喜劇に無限の可能性を求めてやまないのは、そんな背景も影響しているだろう。山田作品が生み出してきた「笑い、ペーソス」。
山田監督を最初に取材したのは約25年前になる。話を聞く度、不思議な感覚になる。忘れかけたみずみずしさを思い出させてくれる。日本を代表する映画監督だけに巨匠、名匠といわれることは多い。敬うあまり、「先生」と呼んだりする人も少なくない。本人はこれを嫌悪する。「権威とか序列の支配関係を製作の現場に持ち込んじゃいけない。
製作現場には親子、孫ほど年の離れた若い世代もいる。若者からすれば、仰ぎ見る存在。しかし本人は仰ぎ見られることも嫌う。若いスタッフを大事にするエピソードに、新しいメンバーの顔と名前を少しでも早く覚えようと特徴などをメモしたりすることもある。
「特別なことをしているわけじゃないですよ。名前を覚えて交流するのは当然なこと。映画も舞台も、みんなで作るんだからね。一人残らず、全員が本当に一生懸命にならないとだめなんですよ。『皆で作るってどういうことか』と問われると具体的に説明するのは難しいね」
監督自身、苦い経験がある。松竹に助監督で入って2年目。
しかし、その見方を叱責したのが名匠、野村芳太郎監督だった。「君は人を見る目がまるでないね」。山田監督が熟考タイプで若いながらも物事を深く見ようとしていることを見抜いていた。後に邦画史に残る「砂の器」(74年)の成功も、この2人の力によるものだ。「僕としては、ずっとやっているつもりでいたからね。
聞きたいことがあった。新しい環境に飛び込んだ新社会人の中には、いわゆる“五月病”で職場を去る者が少なくない。増加するこの社会問題をどう見ているのか。長い沈黙の後、こんな言葉を発した。
「難しい質問だな。もし、実際に僕の前にそういう人がいたとしたら…。今この時期に悩んだり苦しんだりするのは、あなたの感受性が豊かだからなんだよ、と伝えたい。いま思い悩むことは悪いことでなく、むしろ良いことだと言ってあげたいな。正しい答えか分からないけれど」。次作に懸ける熱い思いだけではない。
名作古典「文七元結」のアナザーストーリー
山田監督が手がける「お久文七恋元結」は、落語や歌舞伎で有名な「文七元結」をもとにしたアナザーストーリー。お久と文七(早瀬栄之丞)を軸にしたラブコメディーだ。ヒロインお久を元AKB48の女優・横山由依が演じ、藤川矢之輔、曽我廼家寛太郎らが出演する。
「2人は結ばれて終わる。落語でめでたし、めでたしとハッピーエンドで終わるのは少ない。そこが好きなところだけど、何度も考えるうち、(身分の違いのあった時代に)本当に簡単に結ばれたのか。そこに面白いドラマがあるんじゃないかと思えてね」
人生に関わる場面が多く出てくる。窮地に立たされ、追い込まれた時、その人の素顔があらわになる。「『えい やっちゃえ』と彼らは決断するよね。それも自分のためじゃなくて、誰かのために。自分を犠牲にしてね」。古典的な名作の結末であっても疑問はそのままにしない。そこから新たな物語が紡ぎ出される。
山田監督と前進座には浅からぬ縁がある。劇団はかつて映画製作にも積極的で、学生時代にエキストラとして参加したこともある。「父が劇団の一ファンでした。それとやはり、前進座と自分の生まれた年がほとんど同じですからね」と激動の歴史をたどってきた老舗劇団への思いは尽きない。
◆山田 洋次(やまだ・ようじ)1931年9月13日、大阪府生まれ。94歳。東大法学部卒。54年松竹に助監督で入社。61年「二階の他人」で監督デビュー。69年に始まる映画「男はつらいよ」シリーズを手掛ける。2002年時代劇「たそがれ清兵衛」で米アカデミー賞外国語映画部門候補。主な作品に「幸福の黄色いハンカチ」「息子」「学校」「母べえ」「母と暮せば」「家族はつらいよ」シリーズ、「TOKYOタクシー」。小津安二郎氏の名作「麦秋」(10年)から演劇を本格化、「文七元結物語」(23年)を歌舞伎座で初演出。08年芸術院会員、12年文化勲章。

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