投資を行う際、SNSに投稿されている情報や動画を参考にしている人もいるのではないだろうか。
海外では、主にSNSで情報を発信している「フィンフルエンサー」の活動を規制したり、罰則を設けたりする動きが出てきているという。
フィンフルエンサーの影響力やもたらすリスクについて、レポート「フィンフルエンサーの規制と取締りに関する海外動向」をまとめた大和総研の研究員・谷京さんに聞いた。
30代以下の4割以上が「SNS」で証券投資を勉強
フィンフルエンサーは「ファイナンス」と「インフルエンサー」を掛け合わせた造語で、主にSNS上で投資や金融に関する情報を発信するインフルエンサーを指す。海外では、数百万人ものフォロワーを有するフィンフルエンサーもいるようだ。
「アメリカの金融業規制機構(FINRA)とCFA協会が2023年に行った調査によると、アメリカのZ世代個人投資家の37%が、投資判断を左右する要因のひとつにフィンフルエンサーを挙げています。少し前のデータなので、いま同じ調査を行ったらもっと高い割合になるでしょう。オーストラリア証券投資委員会(ASIC)の調査でも、オーストラリアの18~21歳の28%が1人以上のフィンフルエンサーをフォローしており、そのうちの64%がフィンフルエンサーの影響で金融行動を変えた経験があるという結果が出ています」(谷さん・以下同)
海外では、数年前から3割程度の個人投資家、特に若い世代の個人投資家がフィンフルエンサーの影響を受けていたのだ。日本においても、同様の傾向が見られるという。
「日本証券業協会が2025年9月に発表した『個人投資家の証券投資に関する意識調査報告書』によると、30代以下の4割弱が証券投資に関する勉強をした媒体として『SNS(動画・画像系)』を挙げています。投資にあたってもっとも活用している情報源でも、『Webサイト』に次いで『SNS(動画・画像系)』が2位となっています。YouTubeやTikTok、Instagramなどを指す『SNS(画像・動画系)』という回答になっていますが、フィンフルエンサーが発信する情報を見ていることを意味するといえるでしょう」
日本人も30代以下を中心に、「SNS(動画・画像系)」を投資の勉強に活用していることがわかる。
フィンフルエンサーがもたらす3つのリスク
フィンフルエンサーを参考にしている人が一定数いるなか、なぜ海外では対策に動き出しているのだろうか。
「インターネットやアプリでの取引、SNSでの投資情報の収集など、投資環境のデジタル化により、個人投資家が市場に参加しやすくなったといえます。それに伴い、これまであまり想定されていなかった投資者保護上の課題が見えてきたため、IOSCO(証券監督者国際機構)が現状に対応するべく、『個人投資家のオンライン上の安全確保に向けたロードマップ』を掲げ、2024年11月から1年間かけて対策に動き出しました。
「投資者保護上の課題」とは、どこにあるのだろうか。谷さんはフィンフルエンサーがもたらすリスクとして、3つ挙げてくれた。
(1)投資詐欺・相場操縦
(2)不適切な宣伝・販促活動
(3)不適切な投資助言
「典型的なリスクである(1)の『投資詐欺』は、既に日本でも注意喚起が行われています。『相場操縦』とは、フィンフルエンサーの利益につながるような情報を発信し、投資家の売買を促す行為です。例えば、証券の価格を意図的に変動させる目的で根拠のないウワサを広める『風説の流布』や、虚偽の情報で証券の価格を吊り上げて高値になったところで売り抜く『パンプ・アンド・ダンプ』などが該当します」
「(2)不適切な宣伝・販促活動」は、代表的な例でいうとステルスマーケティングなどが挙げられる。SNSの文字数制限などの兼ね合いで、フィンフルエンサーが本来記載するべき投資リスクの警告を省略している投稿もあり、個人投資家が知らずに損をしてしまう可能性もある。
「『(3)不適切な投資助言』は、日本ではあまり意識されていない部分ですが、問題だと感じています。フィンフルエンサー側も悪気がなく、むしろフォロワーの役に立ちたいという思いで発信している情報が、個人投資家にとってはリスクになる可能性があります。資格や知識、経験、能力不足によって、フォロワーに損失をもたらす助言になってしまうおそれがあるからです」
国内外で実施されているフィンフルエンサー対策
フィンフルエンサーがもたらすリスクを軽減するため、IOSCOが「個人投資家のオンライン上の安全確保に向けたロードマップ」を描いて動き出すとともに、各国で不適切な金融プロモーションを行った人の摘発や起訴などが行われている。なかでも先進的な取り組みを行っているのが、イギリスとフランスとのこと。
●イギリスの対策
金融商品のプロモーションに際して企業とフィンフルエンサーが遵守すべき法的義務を、国がガイドラインで明確化。
●フランスの対策
国がフィンフルエンサー向けの教育プログラムを提供し、修了者に「金融広告における責任ある影響力証明書」を付与する認証制度を導入。
「フランスの認証制度はフィンフルエンサーに義務付けられているわけではありませんが、フランス当局は『フィンフルエンサーが証明書を取得しているか、ご確認ください』という形で注意喚起を行っています。
さらに、IOSCOの最終報告書が出たタイミングで、イギリスの主導で6つの国・地域の規制当局が「違法なフィンフルエンサーに対する世界的な行動週間」というキャンペーンを実施。そのなかで、UAE(アラブ首長国連邦)もフィンフルエンサー向けのライセンス制度を導入し、香港ではSNSプラットフォームと連携して無登録の投資商品を宣伝する投稿を削除する取り組みが行われた。
海外では具体的な対策が実施されているが、日本ではどの程度進んでいるのだろうか。
「『(2)不適切な宣伝・販促活動』に関しては、現行の法律や規制で対応できる部分が多いといえます。金融プロモーションの部分は金融商品取引法(金商法)の広告等規制、日本証券業協会や投資信託協会の自主規制規則によってルールが決まっています。ステルスマーケティングは景品表示法で規制されているので、今後どこまできちんと摘発されるかが課題となるでしょう」
ただし、「(1)投資詐欺・相場操縦」「(3)不適切な投資助言」については、制度が追い付いていない部分があるとのこと。
「『投資詐欺』は金融庁が力を入れて取り組んでいるので、一定程度の対策が進んでいるといえます。一方、『相場操縦』は課題が残ります。というのも、金商法上で『風説の流布』が認められるには、『有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等(中略)の相場の変動を図る目的』という要件を満たさなければならないからです。企業に対する怨恨や愉快犯的な流布に関しては、金商法では『風説の流布』と認められません。また、根拠のないウワサでなければ『風説』にならないので、仮に自身の保有銘柄を公開して追随買いを狙うといったケースがあったとしても、摘発できません。どの範囲までを取り締まるかという点も、課題といえるでしょう」
「(3)不適切な投資助言」に関しては、ほとんど対応できていない状態にあるという。
「例えば、フィンフルエンサーが有料オンラインサロンのなかでアドバイスを提供するのは、投資助言業規制に引っかかる可能性が高いといえます。ライブ配信中に投げ銭を受け取って、その視聴者に対してアドバイス的なことを行うのもグレーゾーンといえるでしょう。ただ、フィンフルエンサーにも視聴者にもそれが不適切だという認識があまりないので問題視されることが少ないですし、金融庁などがひとつひとつチェックするのも難しいでしょう」
フィンフルエンサーも増加しているなかで、あらゆる事例に対処していくのは難しい。国ができることは、ルールを明確化することだという。
「ヨーロッパでは規制当局がQ&A集のような形で、フィンフルエンサー活動の規制の範囲を公表しています。日本でも同じようにルールを明文化することが第一歩ではないでしょうか。フランスのように、フィンフルエンサー向けの教育や認証制度を創設することで、情報発信の質も担保されるのではないかと思います」
個人投資家自身が「情報収集」で意識すべきこと
制度や規制の整備も重要だが、フィンフルエンサーが発信した情報を受け取る個人投資家自身が金融リテラシーを高め、情報を選別していくことも大切だ。
「どのようなリスクに関しても、制度や規制は後追いになってしまうものなので、投資家自身の自衛が求められます。IOSCOは最終報告書で『フィンフルエンサーを利用する個人投資家へのアドバイス』をまとめています。国に関係なく、すべての個人投資家にとって有効なアドバイスなので、参考にしてほしいですね」
●フィンフルエンサーを利用する個人投資家へのアドバイス(IOSCO, “Finfluencers,” 2025/5, pp. 65-67 をもとに大和総研作成)
・フォロワー数や評価を過信しない
・フィンフルエンサーの資格や背景情報を確認する
・一般論の(各人の財務状況には合わない)投資助言に注意する
・感情を煽る投稿に注意する
・群集心理に流されない
・高リターン・低リスクの約束に注意する
・すべての投資商品にはリスクが伴うことを理解する
・確証バイアスを認識する
・情報源を多様化する
・不審な情報を見かけたら通報する
「なかでも特に重要なのは、『群集心理に流されない』『確証バイアスを認識する』の2点だと考えています。SNSは閲覧や検索の履歴、フォローの状況などに応じて、表示される内容が最適化されますよね。
フィンフルエンサーが発信する情報は成功に近づく一般論かもしれないが、自分自身の状況にマッチするとは限らない。フィンフルエンサーだけでなく書籍や企業のウェブサイトなど、情報源を増やすことで、より冷静な判断ができるようになるだろう。
(取材・文/有竹亮介)

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