■村上春樹作品の「新しい読み方がわかって、面白かった」との感想も
忙しい現代、「仕事」と「家庭」を両立するにはどうすればいい?昭和から令和にかけてヒットした小説、ドラマ、映画を分析して見えてきたのは、ディスコミュニケーションにあえぐ「夫婦」の姿だった。三宅氏が「物語」を通して「家族の形」に切り込む。これからのパートナーシップのあり方を見直すための夫婦論となっている。
執筆のきっかけについて「連載を開始する頃、とくに(小説、ドラマ、映画などの中で)母子の関係というテーマが流行っていたのですが、一方で夫婦の話は少ないのかも、と気になっていました。『娘が母を殺すには?』という本を書いた時、夫婦の話を今度は書きたいなと思ったのですが、なかなか(夫婦の話を題材にした)物語が少ない。ではむしろそこから始められないかなと決めて、書き始めました」と回顧。実際に執筆にあたって「現代の話を見つけるのが難しい」との壁にぶち当たりながらも、村上春樹作品から取り出すという形で、新たな“読み方”も提示することになり「村上作品の新しい読み方がわかって、面白かったという感想をいただくことも多いです」と声を弾ませた。
タイトルこそ「夫婦」がつけられているが、本書の中では“さまざまなパートナーの形”があることを何度も指摘している。その点について向けてみると、三宅氏は言葉に力を込める。「大前提として、自分自身は、結婚することがいいことだとか、家族を作ることがいいことだっていう思想はあんまりないです。ひとりで生きたいと思う人は、そのように生きられる社会の方がいいですし、夫婦が解消可能なこともハッピーなことだなと思っています。
時代とともに“読まれ方”も変化している中で、著者として難しさを感じることもある。「どうすればいいのかという“How”のところに注目されやすいので、その辺りは難しさも感じます。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』でも、『じゃあ、どうすれば本が読めるようになるのか?』という部分だけを切り取っていただいてもいいのですが、そこだけが自分の伝えたいことではなかったりして。今回も夫婦の関係をどうしたらいいのかというところだけが、自分の伝えたいところではないので、その辺の“How”のところだけを求められるところは、どのようにして伝えていけばいいのか、本を出す度に考えています」。
そんな中、同書を通して伝えたいことを向けてみた。「物語を読むこと自体、現実の人間関係考える上ですごく有効なものではあると思っているんです。小説を読んでも、何かのデータが示されてるわけでもないですし、個人的な話が書いてあるだけなのですが、やっぱり物語を通して追体験できたりとか、自分にはなかった価値観や発想に気づけるものだと思うので、人間関係に悩んだ時に“How”があるわけではないのですが、小説を読んで癒されるということは、すごくあることではないかなと感じているので、物語を久しぶりに読もうかなって思ってもらうきっかけになれたらいいなと思います」。
SNSでも“批評”“評論”があふれている中、文芸評論家という職業を続ける意義について、三宅氏自身はどのように考えているのだろう。「私自身、何か問いを持つということはすごく大事なことだと思っています。その上で、SNSの批評が批評だと思われすぎると、やはりつらいところがあるなと。
「読書」を通して、自身の見方が変わる経験をするきっかけのひとつとなるのは、夏休みの宿題「読書感想文」も当てはまるだろう。時期的には夏休みが終わってしまったが、来年以降に向けて、三宅氏が考える「読書感想文の取り組み方」についても迫ってみた。「読書感想文は、自分の体験なども含めて書くことが求められることが多いと思うので、題材選びに絞って考えると『自分から遠いものの題材の方が書きやすいよ』ということは、よく伝えていました。ハック的すぎるのですが、自分が知っている題材だと、逆に何書いていいかわかんなかったりすることがあると思うんです。だから、自分があんまりよく知らない、例えば宇宙に興味がない子が宇宙の図鑑を読んだりすると、読んでみて興味を持ったことや意外だったこと、自分が知らなかったこととか、感想文として書きやすいと思います」。
“文体フェチ”としても知られる三宅氏だが、2025年10月と26年5月にはニッポン放送『三宅香帆のオールナイトニッポン0(ZERO)』も担当するなど、“語り”にも注目が集まっている。当の本人は「本当に反省しかなくて、改善点が100個ぐらいあるみたいな感じなので、しゃべりが上手い人はすごいって本当に尊敬します。でも、深夜ラジオすごく楽しかったので、できればまたやってみたいです。メール込みの作品という感じが、好きなラジオを聴いていると思うので、それのノリは、やっぱり面白かったです」と恐縮する。
最後に今後の自身の目標を向けてみると、シンプルだが力強い言葉が返ってきた。「本を読んで書けたらいいなというのが一番ですね。今後も出版界が楽しい場所であるといいなと思っていますし、本を読んで書ける世の中だといいなと感じています」。
【三宅香帆】
1994年高知県生まれ。文芸評論家。京都市立芸術大学非常勤講師。

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