糖質が高いと分かっていても、チョコやアメなど甘いものが止められないのはなぜか。消化器外科医の石黒成治さんは「近年の研究では、単なる個人の嗜好ではなく、腸内細菌が変わるだけで“甘党”が生まれてしまう可能性が指摘されている」という――。

※本稿は、石黒成治『糖質リスク 自覚なき「食後高血糖」が万病を招く』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■腸内細菌が食べたいものを指示?
どうしても甘い物がやめられない、どうしても寝る前に何かを食べてしまう。実はそれは意志力の問題ではなくあなたの腸内細菌がそうさせているのかもしれません。近年腸内細菌が食べたいものを指示するメカニズムがあることがわかってきました。腸内細菌の構成が、私たちの嗜好や食行動に影響を与える可能性が研究で示されています。
ヒトの臨床観察としてよく引用されるのが、チョコレート嗜好に関する報告です。チョコレート好きとそうでない人が同じ食事内容を摂ったとしても、尿中の腸内細菌由来の代謝物に違いが存在していました(Bioessays. 2014 25103109)。この所見は、腸内細菌とその産物が「何を欲するか」にまで影響しうることを示唆します。つまり「チョコレート好き」という性質も、単に脳や心の問題ではなく、腸内に棲む細菌の“声”かもしれないのです。
そのメカニズムに踏み込んだ最新の機序研究が2025年のNature Microbiologyに報告され、「なぜ甘い物を強く欲する人とそうでない人がいるのか」という謎に新しい手がかりを与えました(Nat Microbiol. 2025 39805952)。研究によると、腸の細胞にあるFfar4(エフファー4)という受容体が糖への嗜好に関わっていることがわかってきました。このFFAR4受容体は、単に甘味を感じるだけでなく、私たちの食欲や代謝に影響を及ぼす複雑なシグナル伝達に関与しています。

■「甘い物は十分」という信号が弱まる
このFFAR4受容体の機能が十分に働かない、あるいはその数が減少すると、腸内に生息する特定の有用な細菌、特に「バクテロイデス・ブルガータス」という菌の数が減ってしまいます。このバクテロイデス・ブルガータスは、私たちの体にとって非常に重要な役割を担っており、その1つが、必須栄養素であるビタミンB5(パントテン酸)を産生することです。
したがって、FFAR4受容体の機能不全によってバクテロイデス・ブルガータスが減少すると、結果として体内で利用できるビタミンB5の量が不足する事態に陥ります。ビタミンB5は、私たちの食欲や血糖コントロールに深く関わるホルモン、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の分泌を促す上で重要な役割を担っています。具体的には、ビタミンB5が体内で適切に代謝された物質が小腸の細胞にあるFFAR4受容体に結合することで、GLP-1の分泌を刺激するスイッチが押されます。よってビタミンB5の不足は、腸からのGLP-1分泌の低下に直結します。
GLP-1は「もう甘い物は十分」という信号を脳に送る役割を果たしますが、それが弱まると「まだ甘い物が欲しい」と感じやすくなり、甘味渇望が強まるのです。つまり、腸内細菌が変わるだけで“甘党”が生まれてしまう可能性があることを示したのです。
■腸内細菌が変われば性格も変わる
こうした研究は「腸内細菌が糖質を欲しているからこそ、宿主にそれを食べさせるよう仕向けている」とも解釈できます。実際、動物実験でも腸内細菌が行動を変える例が数多く報告されています。
例えば無菌マウスに「不安傾向のあるマウス」の糞便を移植すると臆病な行動を示し、逆に通常のマウスの糞便を移すと探究的な行動をとるようになることが知られています(Annu Rev Neurosci. 2017 28301775)。これは糖嗜好を直接測った研究ではありませんが、腸内細菌が行動を改変しうる生物学的な土台を示すものです。

ヒトでも、腸内環境を意図的に変える介入が気分やストレスを改善しうることが示されています。乳酸菌やビフィズス菌の組み合わせたものを摂取してもらうことで、不安やストレスに関連する行動がなくなりました(Br J Nutr. 2011 20974015)。これらは腸内細菌の改変が、最終的に意思決定(=何を選んで食べるか)にも波及しうる」ことを、ヒトで示したものです。
ここまでをつなげると、甘い物を強く欲する人とそうでもない人の差は、脳や意志だけじゃなく、腸に棲む細菌が欲望のシナリオに書き込みをしているから、という答えに近づきます。腸内細菌は小さな傀儡師(かいらいし)のように、宿主である私たちの食行動を、ほんの少し自分たちに有利な方向(=糖質)へ傾けることがあるのかもしれません。やめられない自分を責める前に、腸内環境を整えるという手当てが、甘い物を求める渇望やつい夜間に食べてしまう食行動を控える近道になり得ます。
■腸内環境を整えるためには…
腸は、体内でも最も注意が必要な場所の1つです。外部から摂取する食事から栄養成分を取り込む際、有害な物質や細菌、さらにはその毒素などが体内に流入するリスクを常に抱えているからです。そのため、腸管内には体内の免疫組織の大部分が配置され、絶えず監視体制が敷かれています。
しかし、腸壁の厚さはわずか細胞1個分にすぎません。腸の細胞同士は強固に密着し、隙間なく腸管バリアを形成していますが、その総表面積はテニスコート一面分にも及ぶと言われています。この広大な面積の防御を免疫細胞だけで完全に担うことは不可能です。
そこで不可欠となるのが腸内細菌の協力であり、腸内細菌との共同作業によって、細胞1個分の薄い腸壁が24時間体制で守られているのです。
■腸のバリアが失われるリーキーガット
大量の糖が腸内に流れ込む、あるいは食後に血糖が大きく跳ね上がると、腸の壁は物理的にも化学的にもストレスを受けます。過剰な糖摂取や高血糖そのものが腸のバリアを緩め、腸内細菌叢を乱し、結果として毒素や未消化の食事が腸壁をすり抜けることを許してしまう事態が起きてしまいます。
この腸本来のバリア機能が失われ、本来通してはいけない物質が腸をすり抜けてしまう状態のことを“リーキーガット(Leaky Gut:leaky=漏れる、gut=腸)”と呼ばれます(Molecules. 2023 36677677)。リーキーガットは通称で医学的には腸管の透過性の亢進(こうしん)のことを指します。
■砂糖類の摂りすぎはやはり有害
過剰な砂糖類(ショ糖・果糖・グルコース)や精製炭水化物の摂取は、近年、その有害性が強調されており、腸のバリア機能にも悪影響を及ぼしうることがわかってきました。高糖質食や高血糖状態は腸管上皮のバリアを乱し、リーキーガットを亢進させ、腸内細菌叢の異常(ディスバイオシス)を引き起こすことが報告されています(Clin Gastroenterol Hepatol. 2022 34902573)。こうした腸内環境の変化は腸の免疫を撹乱し、感染症を引き起こしたり炎症を起こしやすくなったりします。
マウスに砂糖たっぷりの餌を与えるとわずか2日で有益なSCFA産生菌(例えば酪酸産生菌)の減少と悪玉菌の増加が起こり、腸内SCFAの激減とともに腸管透過性が増大しました(Sci Rep. 2019 31444382)。高糖質食ではプロテオバクテリア門(LPS=エンドトキシン(毒素)を持つ菌群)の異常増殖と、逆に腸のバリア機能を補強するバクテロイデス門の減少が起こると報告されています(ISME J. 2012 22258098)。
プロテオバクテリア由来のLPSは炎症性物質の産生を誘導し、腸の細胞同士の密着を崩壊させて透過性を高める機序が起こることが研究で示されています。つまり高糖質の食生活は腸内細菌叢を炎症促進的な構成に偏らせ、腸粘膜のバリアを弱めてしまうのです。

■食後高血糖を起こさないために
血糖が急に上がると、腸細胞同士のつなぎ目が緩みやすくなります。腸の上皮細胞の表面には、GLUT2という糖の入口があります。食後に血糖がグッと上がると濃度差に引かれてブドウ糖がGLUT2から細胞内へ流れ込みます。細胞内に糖が大量に入ると、腸の細胞同士を結びつけているタイトジャンクションという隙間を密閉するファスナーの締め付けが一時的に緩みます(Science. 2018 29519916)。この変化は可逆的なもので一旦は元に戻りますが、血糖スパイクを繰り返すほど、緩みやすい状態が持続・再発しやすくなります。
以上のように、糖には腸のバリアの影響を緩める2つの機序があります。①食事側:腸の中に糖が多く入ると腸内細菌のバランスが悪くなり、リーキーガットを誘導しやすくなる。②血糖側:吸収後に血糖が急上昇すると、GLUT2からの糖流入を合図にタイトジャンクションが一時的に緩みリーキーガットになる。糖質をたくさん摂取して食後高血糖が起こるという2つの事象が重なるほど、リーキーガットは起こりやすくなるという点が押さえておきたいポイントです。

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石黒 成治(いしぐろ・せいじ)

消化器外科医 ヘルスコーチ

1973年生まれ。1997年名古屋大学医学部卒。国立がん研究センター中央病院(当時)で大腸がん外科治療のトレーニングを受け、名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務。
現在は予防医療を目的とした健康スクールを主宰。Dr IshiguroのYouTubeチャンネルは登録者数24万人超。著書に『医師がすすめる 太らず病気にならない 毎日ルーティン』(KADOKAWA)ほかがある。

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(消化器外科医 ヘルスコーチ 石黒 成治)
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