※本稿は、松田康生『お金の世界を可視化する 教養としてのビットコイン』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■銀行の振込手数料はなぜ高い?
【アワタニ】ビットコインが1900万円とかバカ高くなったのって、どうしてなんですか?
【松田さん】海外などの遠方に送金する場合は銀行などの金融機関で口座振替をするんですが、ビットコインは金融機関なしに瞬時に送金できるんです。これが革命的で。
【アワタニ】送金が、革命的……。どうすごいかピンとこないですが、そもそも口座振替ってなんでしたっけ。
【松田さん】Aという口座のお金をBという口座に「間違えずに」移すのが口座振替です。国内で日本円を決済するときは、ほぼすべて、金融機関が裏で各口座の残高を振り替えています。たとえば、アワタニさんと私が双方とも同じ銀行の同じ支店に口座を持っていて取引をする場合は、支店内で残高を振り替えますよね。支店が異なる場合は、本店にある各支店の勘定(口座)を振り替えます。
【アワタニ】同じ銀行ってことは、手数料がかからないやつですか。
【松田さん】そう、昔は支店が違うと手間がかかるぶん有料の場合が多かったですが、いまは同一銀行内なら無料にするようですね。他行あての場合、日銀ネット(*1)というシステムを使い日銀の当座預金を通して決済するから、手数料がかかります。
【アワタニ】手数料、払いたくないんだよなぁ。ネット銀行はだいたい無料だし。
【松田さん】銀行の振込手数料は高い、高いって言われますが、そもそも日銀ネット決済で利用する全銀システム(*2)ってのに1件あたり60円強取られるんですよ。
【アワタニ】え? システム利用に毎回、60円強もかかるんですか。なんで銀行は、僕の預金を僕の別の口座に動かすだけで手数料を取るんだ、とか思っていました……。
■手数料はセキュリティコスト?
【松田さん】この日銀ネットや全銀システムの安全性を維持するために、NTTデータなどと保守契約を結んでいて、ものすごい手間と費用がかかるようなのです。そんな莫大なコストを銀行は抱えているんですから、タダは無理ですよ。ただ、それが嫌で全銀システムに加盟しない外銀も出てきまして。
【アワタニ】手数料はコストの負担かぁ。でも加盟しないって、それで銀行の業務はちゃんとできるんですか。
【松田さん】海外ではメガバンクでも、個人向け取引をしなかったり国内決済は提携する銀行に委託したりで、フルサービスを提供するのは稀です。国内でも地方銀行や信用金庫は、国際決済をメガバンクに委託するケースが多い。というのも決済にはさきほど申し上げたセキュリティー対策を含め、巨額のシステム費用がかかるからです。
*1 日銀ネット
日本銀行が運営する銀行間決済システム。銀行どうしがお金をやり取りする際に使う電子ネットワークで、個人の送金も最終的にはこのシステムを通じて処理される。
*2 全銀システム
一般社団法人全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が運営・管理する全国銀行データ通信システム。全国の金融機関が24時間365日でリアルタイムに送金データを交換・清算する。銀行間の決済は日銀ネットを利用している。
■1BTC=約1900万円になった理由
【アワタニ】あ、インターネット上には電子データになったお金を狙うハッカーがうようよいて、そいつらからお金を守るために莫大なコストがかかる、ってことか!
【松田さん】そう、銀行の台帳をホストコンピュータに記録し、そのデジタル情報が盗まれたり改ざんされたりしないように、ものすごいコストをかけて二重三重に守りを固めています。このように手間やお金がかかる状況を、ビットコインが打破できるかも、と金融関係者が思ったんです。
【アワタニ】金融関係の人にとっては、革命級のインパクトだったんですね。
【松田さん】裏を返せば、口座振替より優れた方法を人類が600年以上ものあいだ誰一人思いつけず、ビットコインが初めて生み出したと。
■ビットコインはノーベル賞以上の発明
【松田さん】ビットコインが産業革命級の発明なのは、遠隔地と「直接決済」できる点です。いちいち銀行に依頼して高い手数料を払い時間をかけなくて済む、と。
【アワタニ】でも、それって、よく考えたらネットで送れば一瞬ですよね。PayPayなら送金手数料も無料だし。
【松田さん】国内で相手も同じ電子マネーを使っていればそうですが、海外送金手数料は為替含め1万円前後、着金に1週間ほど見込んでおいたほうが無難です。
【アワタニ】ゲッ、なんすか、それ!
【松田さん】たとえば私がタイの友人に1000ドル送る場合、日本のメガバンクからタイの銀行に届くまで、口座振替できる銀行を探します。まず日本のメガバンクの本店、ダメならメガバンクの本店が口座を持つ米国のA銀行って感じで。逆にタイ側では、タイの銀行の本店、その本店が口座を持つ米国のB銀行に行きます。
その過程でお互いが口座を開いている銀行がない場合、最終的には米国の中央銀行(*3)にあるA銀行とB銀行との口座間で振替すると。その過程で銀行を経由するたびに手数料を払い、時間もかかるわけです。
【アワタニ】それって、ちょいちょいお金をこぼしながらバケツリレーするようなものじゃないですか。バカ高い手数料だけでなく、届くまで1週間って。海外にお金を送るのコスパ悪すぎです……。
*3 中央銀行
銀行の銀行。銀行間の決済は、おもに中央銀行の口座を通じて行う。通貨発行権を持ち、一般的に金融政策を通じて物価安定を目指す。
■ビットコイン技術で手軽に早く海外送金
【松田さん】それでも、以前と比べたら多少は改善されましたよ。いまは顧客データのフォーマットを統一し、瞬時に自動で送金・入金が完了するプロジェクトが世界規模で進んでいます。ただ、そうしたシステムの開発にはコストがかかり、手数料が安くなるって話はあまり聞かないですね。
【アワタニ】うへぇ、いま21世紀ですよ……。
【松田さん】日本の銀行は当日処理が原則不可ですし、中継銀行でもタイの銀行でも人物やお金の出所が怪しくないかの審査や追加確認があります。国ごとに金融の法律は異なり、銀行ごとにセキュリティーシステムも違うので時間がかかるんです。
【アワタニ】むむむ。
【松田さん】少額なら安くて速い方法はあるものの、貿易などでの大きい額は扱えません。でもビットコインの技術を使えば、銀行にお金を預けて依頼する手間や待つ時間はなし。大きな額の貿易でも私とタイの友人でも直接、自由にお金をやり取りできます。これは誰も成しえなかった発明だと。
【アワタニ】そうか、ビットコインの技術を使えば、何の縛りもなく自由にお金のやり取りができるんですね。
■インターネットで、お金や価値を送れる
【松田さん】そうです。国際送金の話をすると、すぐ手数料や時間の話になるんですが、それって本質的な問題じゃなくて。金融機関を通さず誰もが自由に送金できる、言わば「価値のインターネット化」が最大のブレイクスルーなんですよ。
【アワタニ】価値の、インターネット化?
【松田さん】インターネットで、お金や価値を送れるようになったということです。もちろんインターネットでデータは送れるし、SNSでは双方向でやり取りもしていますが、それらはあくまで「情報」にかぎった話で。
【アワタニ】ん? えっと……、まず「価値を送る」がよくわからなくて。
【松田さん】たとえば銀行で預金を引き出したら、通帳に記載される金額は減りますよね。でも音楽や映画のデータをインターネットで送る場合は、手元にもデータが残るじゃないですか。この違いです。お金や価値は「送ってもコピーできないし増えない(所有者が明確)」、情報は「無限にコピーできるし増やせる」と思っていただければ。ちなみに、お金や価値は、みんながほしがるけれど数がかぎられている意味で「希少性のある財産的価値」という言い方をします。
■ビットコインはなぜ改ざんできないか
【アワタニ】なるほど~、それが「価値」か! あ、ちょっと疑問なんですが、そもそも、なんでビットコインは改ざんできないんでしたっけ。
【松田さん】たとえばアワタニさんが「自分は100BTC持っている」などとデータを改ざんするには、ものすごい数のコンピュータを用意し莫大な電気代を投入しなくちゃいけなくて。ビットコインの帳簿の記録には1秒間に1000京(1兆の1000万倍)回程度の計算能力とオランダ1国分の電力が投入されていて、これを改ざんするには、少なくともその半分超の計算能力と電力を投入する必要があります。2010年代に世界最速を誇ったスーパーコンピュータ「京」1000台分ですね。
■ビットコインの不正入手は意味がない?
【アワタニ】へ?
【松田さん】仮にこれに成功しビットコインを入手できたとしても、取引記録に不正が発生するとビットコインの信用が失われて価格が下がります。苦労してデータを改ざんした意味がなくなると言われているんです。
【アワタニ】……うまくやれば改ざんできるんじゃね、って思っていましたが、無理ですね……。でも、こんなに安全で自由にお金を動かせるとしたら、銀行はすこぶる面白くないのでは。貸し借りとか預かるとか、お金のすべてに関わってきたのに。
■金融機関がビットコインを潰そうとした
【松田さん】「金融機関がいらなくなる」とまで言われたので当然、かなり警戒されました。だから金融界は全力で潰そうとしたけどダメで「これはもう本物だから逆に取り込もうか」って空気に何回かなり、それが現実になりつつある感じです。
【アワタニ】怖いもの見たさの興味本位ですが、どう潰そうとしたんですか。
【松田さん】米国のバイデン政権下では、暗号資産を取り扱う業者の銀行口座を開かせなかったり、突然凍結したりする、さらにはそうした業者にサービスを提供している銀行に圧力をかけるなんてことが横行しました。当時、米国の証券取引委員会は、暗号資産業者を相手に100件以上の訴訟を起こしています。
【アワタニ】それ、国を挙げてじゃないですか。ヤバ……。
■イーロン・マスクがトランプを支持した理由
【松田さん】ところが暗号資産ユーザーに支持されて第二次トランプ政権が誕生すると、そうした訴訟は次々取り下げられ、ついには銀行までもが直接ビットコインを販売するに至りました。180度の方針転換です。
【アワタニ】え、暗号資産ユーザーの声が政治を動かしたんですか。
【松田さん】そうです。実際、4000万~5000万人とも言われる米国の暗号資産ユーザーがトランプ再選の原動力となったとの指摘もあり、トランプがビットコイン推しを掲げたからイーロン・マスクの支持を得られた、とも言われています。
【アワタニ】日本では「なぜトランプが当選?」とか言われていたけど、じつはきちんと民意を得ていたんですね。
【松田さん】そう、だからトランプ大統領は「米国を暗号資産大国にする」と宣言し、ビットコインをはじめとした暗号資産に追い風をもたらしているのです。
■ビットコインが世界通貨になる⁉
【アワタニ】そうすると、ビットコインってこれからどうなるんですかね。
【松田さん】「ビットコインこそ世界通貨になるんじゃないか」って考える人が一定数います。この世界通貨という考え方、じつは古くからあるんですよ。
【アワタニ】世界通貨ってかっこいいですね! どんな考え方なんですか。
【松田さん】第二次世界大戦の末期・1944年に、世界は新しい国際通貨のしくみをつくろうとしました。そのとき経済学者のケインズが「特定の国のお金を基準にするんじゃなく国際決済通貨『バンコール(*4)』をつくろう」って提案したんです。
【アワタニ】そんな構想があったんですね。
【松田さん】でも結局、米国が強すぎて採用されませんでした。代わりに「ドルを世界の基準にする。ただし米国はドルと金(ゴールド)を交換することを約束する」というしくみができた。これがブレトンウッズ体制です。
■ドル基軸制度が持続不可能になりつつある
【アワタニ】金という裏づけがあったから、みんな安心してドルを使えたと。
【松田さん】そうです。ところが1971年、米国は突然その約束を反故(ほご)にしました。ニクソン・ショックです。それで世界は変動相場制に移行しました。
【アワタニ】そこから、お金を刷りまくる流れが止まらなくなったんですよね。
【松田さん】そう。変動相場制で50年以上経ってドルに不安を感じた人々の一部が、ビットコインを買うようになり、価格が高騰しました。このビットコインは、どこかの国がつくったわけでも誰かがコントロールしているわけでもなく、発行数に上限がある。だから「新しい世界通貨になるんじゃないか」と期待する人もいます。
【アワタニ】ケインズが夢見た世界通貨が、80年の時を経てビットコインという形で実現するかもしれないと。
【松田さん】個人的には、ビットコインが世界通貨になるとまでは思いませんが、ニクソン・ショックから50年経過して、信用だけに裏付けられた現代のドル基軸制度が持続不可能になりつつあることは事実でしょう。そして次の新たな秩序のなかで、ビットコインが大きな役割を担う可能性は高いと考えています。その一つは、最近流行りの「デジタルゴールド」という言葉に表れています。
■ビットコインは人間社会の鏡
【アワタニ】ビットコイン、夢がありますね。僕は、これまでまったく知らなかったお金の世界の話を聞くうちに、少しずつ人の内面がわかるような気がしてきました。人がいかにお金に振り回されているか、行動だけでなく感情までコントロールされているかが。
【松田さん】ビットコインは単なるシステムで実体がないからこそ、社会の鏡になり、そこには喜怒哀楽だけでなく、ズルいところも汚いところも包み隠さず現れます。それを不快に感じる人もいるかもしれません。真実の姿を見るのはつらいものですから。お金が絡むと人は本性を現すので、逆に言えば噓偽りのない世界が見えてきます。
【アワタニ】「あの人が頑張っているから」みたいな美徳はマーケットには存在しない、だから仁義なき戦いが続くと。
【松田さん】じつはマーケットで大成した人には、まともな人も多いんです。競争を生き残るために習得した行動様式は、効率がいいだけでなく意外と道徳的です。もしマーケットで通用しない美徳があるとしたら、それは「建前」というか、本来人間が生きていくうえで必ずしも必要ではないものかもしれません。
【アワタニ】厳しい環境だからこそ、本質が浮かび上がるのかな。
【松田さん】おっしゃるとおりです。私はそれを「ビットコイン現象」と呼んでいます。ビットコインに起こっていることの裏側には人間社会の問題点が映し出されていて、よく見ていると人がどんな生き物で、どう考えどう動くかが、わかってくる。マーケットはいつだって、人の思いの総和ですから。
*4 バンコール
経済学者ケインズが第二次世界大戦中に提唱した国際通貨の構想。どの国にも属さない世界共通の通貨をつくろうとしたが、米国の反対で実現しなかった。
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松田 康生(まつだ・やすお)
楽天ウォレット株式会社 シニアアナリスト
東京大学経済学部で国際通貨体制を専攻。三菱UFJ銀行・ドイツ銀行グループで為替・債券のセールス・トレーディング業務に従事。2018年より暗号資産交換業者で暗号資産市場の分析・予想に従事、2021年のピーク800万円や2024年末の1550万円をほぼ的中させる。2022年1月より現職。
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(楽天ウォレット株式会社 シニアアナリスト 松田 康生)

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