※本稿は、メライン・ファンデラール『熟睡力』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
■睡眠6時間半で日中の気分も改善
睡眠圧を高めると入眠が早くなり、深く眠れるようになる。不眠症だと就床時間が長くなる傾向があるが、逆効果なのだ。
睡眠圧が低下して寝つきが悪くなり、睡眠が断片化するなどの問題が増すことになりかねない。断片的な睡眠自体は必ずしも問題ではない。
不安や緊張につながっていると感じる場合に問題となるのである。
睡眠の進化論的な基盤を考えると、睡眠制限療法の目的は、長く、また途切れず眠ることではなく、夜をゆったりと寛いで過ごすことだ。睡眠圧の生物学的な仕組み(メカニズム)を用いて不安な時間を短縮し、日中もゆったりと過ごせるようにする。実際私も目にしている。
睡眠制限療法を受けた患者は、中途覚醒があっても気に病まなくなった。そして、眠れる自信を取り戻した。就床時間を短くするという一見矛盾した療法を通じて、睡眠の中でも特に中途覚醒への対処法を変えることを学んだのだ。
おかげで治療開始時と比べて睡眠時間はそれほど長くなっていないのに、患者が新たな睡眠のパターンに満足するのを私は定期的に見ることになった。
睡眠制限療法は最終的に私を不眠症から救った。私の睡眠の見方は療法を受けて数週間で変わった。2週間の治療後には、いつものように睡眠は6時間半だったのに、夜をリラックスして過ごせるようになり、日中の気分も大きく改善した。
■就床時間を短くしてわかった明確なメリット
睡眠制限療法のみでも、認知行動療法の全工程(心理教育、リラックスのためのトレーニング、睡眠制限、刺激制御、認知療法)と同じくらい効果的なようだ。
2021年のメタ分析では、睡眠制限療法を実施すると不眠症の重症度は大幅に低減し、入眠がずっと早くなり、目覚めたままベッドに横になっている時間が大幅に短縮すると指摘され、効果は認知行動療法の全工程に匹敵すると結論づけられている。
睡眠制限療法の速やかで強力な効果を説明できるものは、以前は理論上のモデルだけだった。しかし、睡眠制限療法の最中に生じる睡眠圧の増加と覚醒レベルの低下を生理学的に測定できることが2022年1月に発見された。睡眠制限療法の利点は適用範囲が広いことだ。
若年から中年の成人によい結果がみられることに加え、高齢者や児童にも大いに効果がある。6~14歳の子どもでは睡眠圧が増すと寝つきがよくなった。子どもの両親は、治療後4週間経っても子どもの寝つきや睡眠が改善された状態が維持されていると言っている。
重要なのは就床時間が短くなっても子どもの認知機能に悪影響が見られなかったことである。また、高齢者(平均年齢約65歳)でも、睡眠制限療法には入眠が早くなる、睡眠が改善するなどの明確な利点があった。
すると、次のような疑問が頭をもたげる。効果の高いこの療法を知る人が少ないのはなぜだろう? 臨床での印象と不眠症患者を長年診てきた経験から私はいくつかの仮説を立てている。
■睡眠時間を増やす努力の前に睡眠の質を改善
産業社会では睡眠時間の長さに関心が集中し過ぎている。「古ぼけた民間の迷信」――睡眠は8時間とるべきだなど――から始まり、メディアが時折「睡眠を充分にとること」などと強調して取りあげることで関心が増強され、睡眠の質と健康への影響に関する研究でさえ、「睡眠があまりに不足すると……につながる」といった就床時間の短さを否定する意味あいのある見出しをつける。
睡眠を充分にとることは大切に違いないが、ならば睡眠制限療法において就床時間を短くするのはなぜか? 答えは単純だ。睡眠時間を増やす努力をする前に、まずは主観的な睡眠の質を改善しなければならないからだ。それには就床時間の短縮が必要なことが多い。睡眠時間の長さがなにより重要だと常に考えていたら逆説的に思えるだろうが。
問題を解決するのは医薬品だと考える人は多いが、それは患者であれ医療専門家であれ別のアプローチを見落とす原因になりかねない。処方された睡眠薬を服用する人もいれば市販の錠剤、ハーブエキス、その他の受動的な療法を選ぶ人もいる。
睡眠制限療法には自発的な行動の変化が必要なため「即効薬」――効果があるようで実はそうではない、最終的には逆効果になる睡眠薬も含めて――ほど人気がない。睡眠制限療法は初めは大変かもしれない。初期には眠気や機能低下を感じる人も多い。
気分が改善するまでに少なくとも1~2週間かかることが多く、それを怖れる患者もいる。
また、「睡眠制限療法」という用語自体があまり魅力的でない。睡眠時間を制限しているように思えるので、睡眠不足の患者が脱落してもおかしくはない。もっとポジティブな印象の用語、例えば「就床時間の調整療法」などとすれば治療現場でも取り入れやすくなるかもしれない。
■夜中に起きたらリラックスしてから再入眠
不眠症に非常に効果的な行動療法にはもう一つ、刺激制御療法がある。この治療法では眠くなった時にだけベッドに入る。夜中に目が覚めたら20分後にはベッドから出て何かリラックスできることをし、再び眠くなったらベッドに入る。
この方法だと夜中に目覚めた時に一旦起き出すことで就床時間が短くなるため、実質的には睡眠制限療法の一種とも言える。
以前は、刺激制御療法を行うと「ベッド」と「覚醒したまま横になっている状態」の関連性が薄まると考えられていた。
そのため、ベッドから出ることで、ベッドと自分の間の学習された関係を断ち切る可能性があるというのだ。しかし、2023年のメタ分析で、これはこの療法の作用メカニズムではないというエビデンスがあるとわかった。
この療法の効果には、ベッドから出て気晴らしをすることによる認知活動の抑制がおそらく関連しており、それがベッドで緊張しながら思い悩む悪循環を断ち切るのだと研究者たちは結論づけた。これは現代の狩猟採集民の夜中の過ごし方とも合致している。ただし、彼らは中途覚醒を不安に思わないので夜中に起き出す必要がないのだが。
■患者に先に適用するのはどっちか
睡眠制限療法、刺激制御療法のどちらも効果は強力である。しかし、どちらを選んだらいいのだろう? 私の場合、患者には先に睡眠制限療法を適用することが多い。刺激制御療法だと夜中に不安にさせてしまうことが多いと気づいたからだ。
患者たちは夜中に目が覚めると、20分経っただろうか、ベッドから出る時間になっただろうか、と過剰に心配になり、夜中にベッドから出るのはしばしば懲罰のように感じたと言った。睡眠制限療法の主な利点は、就寝時刻と起床時刻を意識すればよく、その間に起こることを心配する必要がないことだ。
多くの患者を心穏やかにさせるし、それでも夜中に緊張が高まりすぎた場合はベッドから起き上がり、また眠くなったらベッドに入ればよい。
■自分ひとりで睡眠制限療法を取り入れる方法
睡眠制限療法は自分ひとりでもできるだろうか? 答えはイエスだ! また、ほとんどの場合、非常に効果的で安全である。ただし、てんかんや重度の精神障害がある場合は事前にかかりつけ医、または医療従事者に相談することが大切である。
以下、順に説明する。
・まず1週間、睡眠ダイアリーをつける。1週間後、自分の睡眠時間の長さ、就床時間の長さの平均を振りかえってみる。
・平均睡眠時間を平均就床時間で割り、出た数値に10を掛ける。するとパーセンテージが出る。これを睡眠効率と呼ぶ。睡眠時間が平均6時間、ベッドにいた時間が平均8時間だったとすると、(6÷8)×100=75、つまり、睡眠効率は75%となる。
・不眠症の場合、睡眠効率が83%を下まわると低い値とみなされ、夜ぐっすり眠れていない可能性がある。不眠症の治療は、睡眠時間を長くすることや夜中の覚醒時間を短くすることが目的なのではなく、夜中の覚醒時間を減らして安眠につなげることであると覚えておいてほしい。
・不眠症の場合、就床時間を短くすることが睡眠効率の値を高めることになる。まずは最初の1週間の平均睡眠時間を確認し、就床時間の予定を立てる。
・2週目は1週目の平均睡眠時間に30分を加えた時間を毎晩の就床時間とする。例えば毎晩最長6時間半を就床時間と設定するとしよう。その時刻に合わせて目覚まし時計をセットし、就寝する。その晩の睡眠時間の長短にかかわらず、アラームが鳴ったら起床する。
多くの人には一種のチャレンジに聞こえるかもしれない。私の患者の大半は療法を開始した1週間後は以前よりも疲労し、集中力の低下や新たに生じた眠気に悩まされた。
しかし、それはごく普通のことなのだ。身体を新たな睡眠スケジュールに慣らす必要があるのだが、眠いというのはよい兆候で、睡眠圧が高まったということだ。
睡眠制限療法を行っている間にはネガティブ思考が押し寄せ、諦めたくなるかもしれないが、そこをなんとか持ちこたえよう! ダイエットや新しいエクササイズ、禁酒と似ている。
たとえ困難でも、初期の大変な時期に諦めず数週間耐えぬくことが大切なのだ。そうすれば次第に楽になってくる。
■就床時間をできる限り一定に保つ
睡眠制限療法を数日続けると、夜の睡眠によい影響が現れてくるだろう。数日後には寝つきや睡眠がいくらか改善したことに気づくはずだ。すると夜ゆっくり眠れるようになっていく。ただ、睡眠は改善しても日中の疲労感は残るかもしれない。身体が新しいリズムに完全に慣れるには数週間かかることが多く、しばしの忍耐が必要となる。
次のステップは以下である。
・続く週も睡眠ダイアリーをつけ、睡眠効率を毎週計算する。
・睡眠効率の値が83~85%以上になったら、就床時間を週ごとに15分ずつ増やす。
しばらくすると、就床時間と睡眠時間の最適なバランスがつかめてくる。睡眠効率の値が少なくとも83%あれば上出来! 睡眠制限療法前と同じか、少し長めに眠ってもいい。すると夜が以前よりリラックスしたものになっているだろう。そこが大切なのだ。
現代の狩猟採集民のように、夜中の覚醒時間をありのままに受け入れ、リラックスした状態で横たわっていられるなら、ある段階で睡眠制限を少し緩和することもできる。
ただし、概日リズムを維持するためには、就床時間をできる限り一定に保つことが大切だ。
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メライン・ファンデラール
睡眠科学者
1979年、オランダ・ヴェールト生まれ。マーストリヒト大学で生物心理学を学び、博士号を取得。現在は同大学で教鞭を執る。専門は不眠症および睡眠問題。長年オランダの睡眠医学センターに勤務。睡眠医学の普及のため、本国では多数のメディアに執筆、出演。
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(睡眠科学者 メライン・ファンデラール)

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