五月病を防ぐにはどうすればいいのか。大手外資系企業を中心に年間1000件以上の面談を行っている産業医の武神健之さんは「五月病は正式な医学的病名ではなく、適応障害の手前の状態と感じられる場合が多い。
同じ環境でも、五月病になる人とならない人がいる。その理由は思考と行動の違いにある」という――。
■五月病にならない人がやっていること
こんにちは。産業医の武神です。
毎年ゴールデンウィーク(以下GW)が明けてからの産業医面談で聞く言葉があります。「なんとなくやる気が出ない」「朝起きられない」「会社がつらい」……。こういった声を聞きながら、私はいつも同じことを考えます。「この人は、どうしてこうなっちゃったんだろう」です。
五月病は正式な医学的病名ではありません。多くの場合、適応障害の一歩か二歩手前の症状/状態だと感じます。同じ職場、同じ仕事、同じ人間関係の中で過ごしていても、五月病になる人とならない人がいます。私は経験上、この両者には明確に、思考と行動に違いがあると感じます。

今月は五月病にならないために、五月病にならない人たちがやっている3つのことについて共有させていただきます。
■海の日までに「有給」をとる
五月病にならない人たちがやっていることの1つ目、そして最も大切なのは、GW明けから海の日までの間に、有給休暇を取ることです。
毎年この時期、産業医面談に来た社員たちに私は、「6月か7月の有給を1日でもいいので計画して、GW明けの仕事始め当日に申請してください」と伝えています。
実際に5月から7月の間に調子を崩しかけた経験のある人ほど、この有給休暇を1、2日取ってみたら、本当に楽になったと言ってくれています。
オランダの研究者J. Nawijnらが休暇と幸福感の関係を調べた論文(Nawijn et al., Appl Res Qual Life, 2010)では、こう示されています。
・休暇を計画している人々は、1カ月以上前から非休暇者に比べて幸福感が高い

・1年に1回長い休暇を取るより、数回に分けて取ったほうが年間幸福度は上がる可能性がある

・休暇日数と幸福度に相関性はない(短くても効果がある)

つまり、1、2週間等の大きな休暇や旅行を計画する必要は必ずしもなく、金曜日か月曜日に有給休暇を1日取って、2泊3日の長めの週末を作るだけでも、幸福感は十分に得られる可能性が高いのです。大切なのは疲れてから休むのではなく、疲れる前に休みを決めておくことなのでしょう。休みも期間も必ずしも長くなくていいのです。
ぜひ、今すぐカレンダーを見て、有給候補日を決めてください。そして、GWが開けてからなるべく早く、申請してください。その日に何をするかは後で決めればいいことです。先に有給休暇日を確保してください。

■GW中に仕事をしてはいけない
五月病にならない人たちがやっていることの2つ目は、仕事に関することです。GW中は義務感からの仕事はやらない、また、仕事の準備は前日だけにする、です。
GW明けの仕事が心配だから、それに備えて連休中から仕事の準備をする人は少なくありません。特に4月に職場環境が変わったばかりの人や、真面目な人に多い印象です。しかし、私はそんな人たちに伝えたいことがあります。それは、GW中は心身を休めリフレッシュすることが大切だということです。仕事の準備をするのも前日からで十分です。それよりも、まずは乱れた睡眠リズムを戻しましょう。
理由は、GW中に仕事のことを考え続けると、交感神経が優位な状態が続き、心身の回復が遅れてしまうからです。仕事の勉強、予習、先取りをする場合、その動機が義務感ではなく好奇心であればいいでしょう。カフェで気になることを軽く調べる、好きな本を一冊読む――その程度で十分です。「やらなければいけない」という強迫的な動機に基づく行動は、疲労の上塗りにしかなりません。

GWにしっかり休みリフレッシュしておかないと、その後の2カ月間以上の祝日のない期間を走り切るエネルギーが充電できません。エネルギーを充電することが、何事にも勝る準備になります。
■最終日前夜に「寝る時間を戻す」
GW中に夜更かしや朝寝坊が続いた方は、最終日(連休最後の日)の前夜から、いつもの起床時刻に合わせた就寝時間に戻す努力をしてください。自信がなければ、その前の夜から就寝時間を合わせる。それだけで十分です。
なぜ睡眠が最優先なのか。理由は2つあります。1つ目は、睡眠不足は集中力の低下を招き、GW明けの仕事の忙しさについていきにくくなってしまうからです。スタートからつまずくと、その後の2カ月間に響きかねません。
2つ目は、睡眠不足は前頭葉の機能を低下させ、感情調節力を弱めてしまうからです。職場で些細なことで傷つきやすくなり、「なんとなく気力がない」「職場の人間関係が急につらく感じる」という五月病の典型的な症状へとつながってしまうきっかけとなる可能性があります。
睡眠は自律神経の回復にも直結します。
普段、私たちは仕事をしている時は緊張状態(交感神経優位)にあります。夜、休息時は副交感神経が優位になり、心身を回復させます。これがメリハリの正体です。GWでメリハリがなくなってしまった人がメリハリを回復させるきっかけ、それは睡眠に他なりません。
GW中に乱れた生活リズムのまま仕事を再開すると、この自律神経のスイッチが切り替わりにくくもなります。「仕事モード」に入れず、かといって「休息モード」にもなれない――五月病の入口は、実はこの自律神経の乱れにあることも多いのです。
■緊張状態を「区切れる」人は強い
五月病にならない人たちがやっていることの3つ目は、(五感で)区切る習慣です。
産業医面談の中で気がついたのは、五月病の入口に差し掛かっている方に共通する生活パターンです。外見上は、真面目で頑張り屋なのですが、内側ではいつも仕事のことを考えていて、本当の意味でのメリハリを持てていないのです。
仕事のことを考えている状態は、決してリラックス状態ではなく、緊張状態とも言えます。この緊張感(緊張状態)を区切って解くことができている人は、五月病になりにくいです。
五感で区切るとは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を意識的に刺激することで、仕事の緊張感(交感神経優位)をリセットし、副交感神経優位にし、結果として心身を回復させているのです。
具体的には、好きな音楽を聴く(聴覚)、アロマをたく(嗅覚)、温泉やサウナに入る(触覚・嗅覚)、普段行かない美術館で静かな時間を過ごす(視覚)、旅先で郷土料理を食べる(味覚・嗅覚)などです。これらは決して特別なことではありません。しかし、やれていれば、ストレス対処に繋がります。
■なんでもいいから「趣味」を作る
五月病になりやすい方の多くは、休日も「何かしなければいけない」という義務感から思考が完全に自由にはなれず、常に緊張状態にいます。週末でもスマホから仕事の連絡を確認したり、少し気になることを調べておくことを繰り返しています。何もしない時間に罪悪感を覚える方ほど、脳がオフにならずに副交感神経優位な時間が取れず、その結果、慢性疲労が蓄積しやすいのです。
趣味を持っている人は、趣味をしている時、無意識にこの「五感で区切る」をやっています。趣味が五感のどれかに通じ、緊張状態を区切ってくれています。もしあなたが、趣味がないのであれば、ぜひ、趣味を作ってください。趣味はなんでもいいですが、日常生活の中で気軽にできることが、習慣化しやすいでしょう。
最後に、GW明けから実践できる具体的な行動を処方箋として3つまとめます。
処方箋①:仕事が始まったらなるはやで、6~7月の有給を1日申請する

処方箋②:GW最終日の前夜から睡眠リズムを戻す

処方箋③:「5月、6月、7月にやる小さな楽しみ、趣味」を3つ書き出す

■「楽しみ」があるとストレス耐性が高まる
2026年の場合、GWが明けると、次の祝日は7月20日の海の日です。
実に2カ月以上、祝日なしで働き続けることになります。これは1年間の中で最も長い“祝日がない期間”です。
「来週、おいしいものを食べに行こう」「来月、温泉に行こう」――こうした小さな楽しみを先に置いておくことで、今の疲れや不安や緊張感を、「そこまで頑張ればいい」と思えるようになります。
また、その時間を楽しみにして過ごせます。こうしたポジティブな感情は、心理学的にも同じ状況下でのストレス耐性を高めることが示されています。大きなイベントでなくてもいいのです。先に楽しみを予約しておくことこそが、2カ月間以上の祝日のない期間を走り抜ける給水所になります。
ぜひ、この約11週間を、戦略的にお過ごしください。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)

医師

医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。働く人のココロとカラダをサポートする無料AIチャット相談サービス「産業医DrT」を運営。

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(医師 武神 健之)
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