眠れない夜はどう過ごしたら良いのか。睡眠障害治療の専門家で東京足立病院名誉院長の内山真さんは「無理に眠ろうと努力するほど目が冴えてしまう。
眠れないときは布団に入ろうとせず、思い切って寝室から出ることをおすすめする」という――。(第2回)
※本稿は、内山真『やってはいけない睡眠の習慣』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■寝ようとするほど目が冴える睡眠の不思議
眠れないと、なんとか眠ろうと私たちは努力をするものです。「今眠れなければ、明日の仕事のパフォーマンスが悪くなるんじゃないか」「昼間に気分がすぐれないんじゃないか」「そもそも朝起きられないんじゃないか」。誰でもそういう心配が浮かぶからです。
眠れる条件は3つあります。まず、心身ともにゆったりして安心していられることです。人間に限らず、生き物はすべて安全でない環境では眠ることができません。次に、いつも眠る時刻になっていることです。毎日24時間周期で繰り返す昼夜のサイクルで夜の時間帯になっていないと眠れません。これは脳の奥で時を刻んでいる体内時計の機能と関連します。
最後に、昼間に起きて脳を十分に使っていることです。
しっかり覚醒して過ごしている時、とくに運動している時には脳の表面の大脳皮質が活発に働き、脳が疲れてきます。この疲労を回復させるために睡眠がもたらされるのです。この3つの条件が整っている時に、スムーズに寝つけ、安らかに「すやすや」と一定時間眠ることができます。
なかなか寝つけない時は、この眠れる3つの条件が整っていないことが多いのです。
■不安が眠りを妨げる負のスパイラル
いちばん多く見られるのは、緊張して、ゆったり安心できない状態にあって眠れない場合です。たとえば、その日の昼間に緊張する出来事があった。あるいは、職場で誰かに嫌なことをいわれ、そのことがとても気になっている。翌日に仕事で大事なプレゼンテーションを控えている、試験がある等を考え、心配になっている。
こうなると、夜になっても緊張が続き、ゆったり安心していられません。目が冴えてしまいます。このように眠るのが困難な状態から逃れるために、「なんとか眠ろう」とつい眠る努力をしてしまいます。部屋を真っ暗にしてかたく目を閉じ、じっとしていようとする。

すると、かえって緊張が高まり、寝返りばかり打ってしまう。そして、ますます睡眠に移行しにくくなるという、負のスパイラルに陥ってしまいます。これは私たちの生存に関わる本能的な機能と関係しています。生き物にとって安心できない状況で眠ってしまったら、とても危険です。
暗い寝室で眠ろうと一人で思い詰めていると、暗所での本能的な警戒心も加わり、ますます緊張してしまうことになります。こういった場合どうするべきか。まずは緊張を解いて、安心できる状態になることです。そうすれば眠れる条件の2番目である、夜になると眠たくなる体内時計の仕組み、3番目の脳が疲れると眠くなる仕組みが働き、眠ることができるようになります。そのタイミングを、緊張を遠ざけ、リラックスして待つのです。
■眠れない時は思い切って寝室を出る
眠たくないのに暗い寝室で横になっていると、嫌なことを考えがちです。誰もが持っている生き物としての暗闇への恐怖が働いてしまうのです。周りの状態を目で確かめられない分、心配になる。
こういう時は、むしろ起きて寝室を出て、明るくしたリビングで過ごしてみるほうがいいでしょう。
たとえば、自分が好きな本や積ん読になっていた本を開き、ぺらぺらと頁をめくってみる。これで眠ることを意識しすぎず、時間の訪れを待てます。しかも読書を楽しめたら、一石二鳥です。それに、眠気がなかなか訪れず、読書で睡眠時間が1、2時間削られたとしても、本に熱中できたら、そこで得た知識・見識は、私たちの人生を豊かにしてくれます。
これは本である必要はありません。読書より脳を使わないものでは、たとえば、テレビの深夜放送を観たり、深夜ラジオを聴いたりしたっていいのです。よく「夜のテレビは興奮するから睡眠によくない」といわれるのですが、それは子ども向けの話です。子どものしつけのためには、規則正しい睡眠の習慣は大切ですから、夜遅くにテレビを観る習慣をつけるべきではありません。
■眠りへのプレッシャーを軽くする秘策
しかし、人生後半を生きる大人であれば、ぼうっとテレビを観てリラックスすることはあっても、興奮するほど面白いものにはなかなか出会わないのが普通です。脳が刺激されるくらい面白い番組があるようなら、それを観ることは人生にとって眠る以上にプラスになるでしょう。そういう切り替えが大切です。
そして眠くなってきたら、寝室に戻ってベッドに入ればいいのです。
よく眠れている人、眠ることを特段意識していない人は、横になるといつの間にか眠りに入ります。横になって布団に入ることが一種の条件反射になっているかのようです。しかし、よく眠れない体験をしたり、眠ることを意識しすぎたりすると、スムーズに眠りに入っていけなくなります。眠れないけれども横になって目をつぶっておけばいいと思い、暗いところでじっとしていることもあるでしょう。そうすると、かえって緊張してきます。これは真っ暗なところにいると、私たち人間は本能的に警戒心が高まることと関係しています。警戒心が増すと、体の緊張が抜けません。そのため、体は休まりません。そして、先のことをいろいろ思いあぐねる警戒心は、取り越し苦労のような考えを導きます。
■最強のリラックス法は呼吸に隠れている
「今日の会議で変なことをいってしまったかもしれない。明日から職場で浮いてしまう」「老後のお金が足りなくなるのではないか。
子どもに迷惑をかけたら嫌だ」。このように必要以上に悲観的になる。そして誰もが辿りつく終着点は、「今日もまた眠れなかったらどうしよう」という不眠恐怖です。
こうなると、頭が冴えてきて休まりません。「横になって目をつぶっていれば体は休まりますから」と医師がアドバイスをしていたことがありました。
しかし、目をつぶって横になっていても、眠ることのできない苦しさ、眠れないために抱える心配や不安から逃れることはできず、リラックスできません。とくに不眠恐怖を持ってしまうと、心も体も休まりません。睡眠に関する不満足感がますます高まります。
そこで、寝床から出て、リラックスするほうがいいという考えが出てきたのです。眠れない場合は、布団に入らずに、リラックスする。たとえば、ストレッチやヨガをしてみる。しかし、こういったことは、眠れなくなってから取り組みを始めても、効果が表れるまでに時間がかかります。
習得しようと焦ると、かえって緊張が高まってしまうこともあります。
ぜひ本日から取り入れていただくことをお勧めします。もっとも簡単なものは、息をすーっと吸ってゆっくり吐くこと。
■睡眠の悩みと決別するシンプルな習慣
不安やストレス、心配事がある時、緊張している時は、自然に呼吸は浅くなり、それらがない時は一回一回の呼吸が深くなります。これは本能的な反応ですが、それを意識的に行うのです。ポイントは3つで、腹式呼吸を行ってお腹を膨らませること、息を吸うよりも吐く動作にリラクゼーション効果があるため吐くことを意識すること、そしてゆっくり行うことです。
重要なことは、あまり難しく考えないことです。今紹介した呼吸法は、私のオリジナルではありません。万人に効くわけでもありません。自分自身がいちばんリラックスできる方法を、できる範囲でやればいいのです。
それと、すぐに簡単にできるものをお勧めします。複雑な方法だと、眠れないという追い込まれた状況では、スムーズにできないためです。不眠に悩む人は布団の中で眠れない経験を繰り返します。すると、無意識に布団の中を緊張する場所と認識するようになります。睡眠のことで悩んでいない人が布団に入ると自然に眠るのとは反対の条件づけが生じるのです。
ますます目が冴えて、不眠恐怖になり、眠れなくなります。眠れないなら、布団に入らず、リラックスして眠たくなるのを気楽に待ちましょう。

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内山 真(うちやま・まこと)

東京足立病院名誉院長

1954年生まれ。80年、東北大学医学部卒業。 東京医科歯科大学神経精神科、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所部長を経て、日本大学医学部精神医学系主任教授(2006~20年)、日本睡眠学会理事長(17~21年)を務める。厚生労働省の睡眠や睡眠障害研究班等の班長を歴任し、検討会座長として「健康づくりのための睡眠指針2014」の作成に尽力した。2020年からこころの医療と高齢者医療を専門とする東京足立病院院長を務め、外来診療も担当。2026年4月より
同病院の名誉院長に。著書に『睡眠のはなし』(中公新書)、『眠りの新常識』(KADOKAWA)、『睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版』(じほう)など。

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(東京足立病院名誉院長 内山 真)
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