※本稿は、松谷真純『葬式坊主なむなむ日記――檀家壊滅! 還暦すぎて派遣で葬儀に出かけます』(三五館シンシャ)を再編集したものです。
■「派遣僧侶」をご存知か
私は東北地方某県に存する東法院(とうほういん)(仮名)の住職だ。東法院は今から250年ほど前、江戸時代中期に創建された寺院で、先代住職から代替わりしてすでに20年以上が経ち、私は還暦をすぎた。
このように自己紹介をすれば、たいそうな宗教家のように思う人がいるかもしれないが、現在の私は“派遣僧侶”としてどうにか暮らしを立てている。
派遣僧侶とはいったいいかなるものか?
ひと言でいえば、葬儀や法事に「派遣される僧侶」である。派遣する組織は、その紹介で利益を上げる僧侶派遣会社や葬儀社だ。「明朗会計の安心葬儀」といった内容のテレビCMを流す大手から、個人経営の零細まで、じつに多くの僧侶派遣業者が存在している。
派遣の依頼(※1)を受け、現地に赴き、布施を受け取り、導師を務め、経をあげる。
後日、受け取った布施の中から、依頼元の派遣会社に手数料を振り込む。
これが私の日常であり、本書は“派遣僧侶”という一般の方には耳慣れないであろう職業に就いている私の体験を赤裸々につづったものである。
※1 派遣の依頼
たとえば、2025年の1年間に私が請け負った葬儀の派遣仕事でもっとも高額なのが14万円(通夜・葬儀の導師)、いちばん低額なのが3万円(火葬炉前での読経)であった(いずれも手数料をのぞいた手取り額)。なお、昨年は長らく派遣僧侶をしていてもっとも収入の少ない年だった。
■コンビニより多い仏教寺院
日本にある仏教寺院の数は7万5000を超える。全国にあるコンビニの店舗数が約5万5000店といわれているから、それよりずいぶん多いことになる。
また、『宗教年鑑』によれば、仏教系の教師(仏教界における僧侶)は30万人とされる。沖縄県那覇市や愛知県春日井市の人口が約30万人とされ、日本全国にそれと同規模のお坊さんがいるということになる。
■“食えない僧侶”が行き着く仕事
その昔、寺は戸籍・身分管理の役割を担い、寺請け(檀家)制度により、人々は誰もが自らの宗派を把握していた。
ところが、高度経済成長を経て、都市化・核家族化が進み、檀家の意味合いが薄れ、今では自分がどの宗門に属するかさえわかっていない人が多い。それとともに檀家に支えられてきた寺院の経済基盤も揺らぎ、多くの僧侶が食えなくなった。そんな彼ら(その中にはもちろん私も含まれる)の行き着く先が“派遣僧侶”である。
葬式に読経に来る僧侶が派遣であること、そして僧侶に渡した布施のうちの半分以上が手数料として派遣元に戻されているという事実をほとんどの人が知らない。僧侶派遣の実態やその裏側もつまびらかになっていない。
本書では、派遣僧侶業界にとどまらず、仏教界や宗門の内情にも触れながら、奇妙でおかしなこの世界の全貌を明らかにしたい。
なお、「松谷真純」はペンネームであり、私の属する宗派や寺、関係先、派遣会社の名称などについては仮名を用いた。なんだかんだと言いながらも、私はまだしばらくこの業界(※2)で生きていくつもりだからだ。
今後、いつかどこかで「もしかして、あなたが松谷真純さんですか?」と尋ねられることがあったとして、私は素知らぬ顔で「違いますよ」と答えるつもりだ。
もちろん、書かれている内容はすべて私が実際に体験した事実(※3)にもとづいていることを仏に誓ってお約束する。
※2 この業界
仏教界の作法・慣習などは宗派や地域によっても大きく異なる。また、私の所属する宗派についての特定を避けるため、あえてぼかした箇所がある。なお、仏教や葬儀に関して正確性を欠く記述や事実誤認があるとすれば、ひとえに私の見識不足によるものである。
※3 実際に体験した事実
私の実体験であるが、登場人物のプライバシー保護などの観点から、人物像を改変したり、脚色を加えた箇所がある。また、登場人物名もすべて仮名である。
■一日葬の導師
うららかな春の日、今日は葬儀サービス会社(※4)「みんなのお葬式(仮名)」からの紹介で一日葬の導師を務める。
葬儀開始は午前11時だから、その1時間前の10時には到着する必要がある。準備を整えて、荒川区のアパート、いや「東法院東京教会」を自家用車で出発。葬儀会場に到着すると、案内された僧侶控え室で葬家の施主(喪主)と顔合わせとなる。
5日前に83歳で亡くなった男性の長女が今回の施主・永沢さんだ。
50歳前後の品の良い女性で、「葬儀の喪主は初めてなのでどうしていいかよくわかりませんが、よろしくお願いします」
深々と頭を下げて、あいさつをされる。
こちらも静かに合掌し一礼。
「東法院の松谷真純です。本日は心を込めてお勤めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
※4 葬儀サービス会社
「みんなのお葬式」社は、葬儀サービスを提供しているものの「自社で葬儀を直接施行する葬儀社」ではなく、葬儀社を紹介・仲介するサービス会社だ。実際の葬儀の施行(式場・祭壇・棺・搬送など)は、地域の提携葬儀社が担当する仕組みで、同社は葬儀社を紹介・マッチングするプラットフォームを提供している。よって、ここでは「葬儀サービス会社」と呼称する。
■故人の「戒名」発表
私は事前に用意した戒名授与証(※5)を永沢さんに見せた。
事前に電話で、故人の生前の様子、職業などを聞き、現役時代は建築現場の仕事をされていたのを考慮して、戒名にも“建”の一字を入れている。
「戒名には、建築の現場のお仕事にご尽力されてこられた、その意味を込めました」
戒名の説明をするが、緊張気味に顔を伏せる永沢さんの表情は読み取れない。喜んでくれたのかどうかうかがいしれないが、まあよしとする。
戒名の説明が終わったところで布施袋を受け取る。
永沢さんが退出したあと、袋を開封して中身をあらためる。「みんなのお葬式」から聞いていたとおり、12万円が入っていることを確認。
しばらくすると斎場のスタッフが入室し、当日の打ち合わせに移る。司会の担当者はどうやら派遣会社から来ているらしい。最近では葬儀スタッフの多くが派遣会社からやってきている。
※5 戒名授与証
故人の戒名を授与することを証した書類。故人の法名(戒名)、俗名を自筆墨書で記し、日時、寺院名、住職(僧侶)名、押印が基本。戒名の由来(たとえば故人の職業・趣味など)を付記する僧侶も多いが、私はほとんどの場合、口頭で説明する。
■派遣スタッフと派遣僧侶の打ち合わせ
「式場に入場される際、参列者の方々はお座りいただいていてよろしいでしょうか?」
「結構です」
「ご紹介は“××宗東法院ご住職”でよろしいですね?」
「はい、結構です。ところで今回は何人参列されますか」
「ご葬家含めて8名から10名くらいだと思います」
「では、読経時間は告別式30分、初七日(しょなのか)(※6)10分ほどでよろしいでしょうか?」
「はい、それでよろしくお願いします」
「焼香開始のタイミングはおまかせします」
戒名を墨書した紙(白木位牌に貼り付ける)を手渡し、“派遣僧侶”と“派遣スタッフ”の打ち合わせは終わった。
※6 初七日
亡くなった日を1日目として数え、7日目に行なう最初の追善供養の法要。本来は7日目に行なわれるが、近年は遺族の負担を減らすため、葬儀・告別式と同じ日に「(繰り上げ)初七日」として一緒に営まれる。
■1時間でも精魂尽き果てる「ハードワーク」
おおよそ1時間ほどかけて式を執り行なうと火葬場に移動し、火葬炉前で最後の読経。喪主にあいさつして火葬場をあとにする。
時計の針は午後1時を回ったところだ。
斎場近くで食事をしていて、葬家の誰かとバッタリなどというわけにはいかないので、クルマで15分ほど移動し、目についたファミリーレストランで昼食をとる。きのことホウレンソウのクリームパスタ850円。
今日の仕事はこの1件。月も終わりだというのに、今月引き受けた葬式はわずか3件。フトコロ事情はなかなか厳しく、贅沢はできない。午後2時すぎ、ファミレスを出る。葬儀のあとはクタクタに疲れ果て(※7)、何かをする気にならない。
60歳をすぎてからとくに疲れやすくなった。近所のスーパーに寄り、日用品の買い物だけ済ませるとそのまま荒川区のアパートに戻る。
※7 クタクタに疲れ果て
経を読むだけじゃないかと思う方がいるかもしれないが、故人と遺族に向き合っての読経は思いのほか疲労する。この点で法事より葬儀のほうが圧倒的に疲労感が強い。
■お布施の約6割が“紹介手数料”で消えた
「みんなのお葬式」からは翌月の頭に、荒川区のアパート、いや「東法院東京教会」宛に請求書が送られてくる。同社は月末締めの翌月指定日払いだ。請求書には「×月×日永沢家葬儀手数料7万1000円」と記されている。これは葬儀案件を回してくれた「みんなのお葬式」に支払う紹介手数料だ。
じつはこの手数料はだんだん値上がりしている。2010年代初めまでは3割程度が平均だったが、2015年あたりから4割、2020年ごろに5割となった。その後、コロナ禍があって6割の業者が多くなり、最近では75%をとる業者(※8)もあるようだ。「みんなのお葬式」の手数料も約6割(※9)である。
私は先日のお布施12万円の中から、この手数料分を「みんなのお葬式」宛に銀行振り込みしなければならない。つまり、先日の葬儀における導師を務めた私の手取りは4万9000円ということになる。振り込みを済ませ、ようやく派遣僧侶としてすべての仕事が完結する。
※8 75%をとる業者
朝日新聞(2025年11月24日)は次のように報じた。「施主がお布施として支払った総額の75%を葬儀業者の『手数料』に設定していることを示す資料を朝日新聞記者が入手した。資料は、2022年に首都圏の大手葬儀社から僧侶らに配られた『お布施額表』。『総額』『お布施金額』『手配手数料』の欄があり、火葬式のみの直葬だと、遺族が支払う総額10万円に対し、お布施金額2万5千円、手配手数料7万5千円と記載されている」
※9 約6割
手数料は案件によって変動したり、「みんなのお葬式」による各種キャンペーン実施で料率が変わったりすることもあり、おおよそ6割。
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松谷 真純(まつや・しんじゅん)
派遣僧侶
1960年代、東北地方某県生まれ。大学卒業後、地元企業にサラリーマンとして勤務。30代半ばに得度。紆余曲折を経て、跡継ぎのいない地元寺院の住職となるものの檀家の激減により、東京で派遣僧侶として働くことに。著書『葬式坊主なむなむ日記』(三五館シンシャ)では、派遣僧侶の目から見た「奇妙な業界」の実態を赤裸々につづる。
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(派遣僧侶 松谷 真純)

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