認知症にならないためにはどうしたらいいのか。80歳の医師・菅沼安嬉子さんは「世界で最も権威のある総合医学専門誌が発表した内容によれば、最も気をつけなくてはいけないのは、動脈硬化や脳血流の低下を招き、脳にダメージを与える恐れがある高LDL(悪玉コレステロール)だが、そのほかにも注意すべきポイントがある」という――。

※本稿は、菅沼安嬉子『80歳、これからが人生本番』(世界文化社)の一部を再編集したものです。
■認知症も予防できる時代
イギリスの医学誌『ランセット』の専門委員会が2024年に発表した報告書「認知症リスク要因」が、けっこう話題になっているようです。報告書では、人の一生を①18歳まで、②18~65歳、③65歳以降の3つの年代に分けて、ライフステージに応じた認知症の要因と、そのリスクがどの程度なのかをパーセンテージで表しています。
【認知症のリスク要因と発症の割合】
▼若齢期

教育の不足5%
▼中年期

難聴7%

高LDLコレステロール7%

うつ3%

外傷性脳損傷3%

身体活動不足2%

喫煙2%

糖尿病2%

高血圧2%

肥満1%

過度のアルコール摂取1%
▼高齢期

社会的孤立5%

大気汚染3%

治療しない視力低下2%

ランセットの専門委員会によると、14のリスクを排除することで、認知症を45%予防することが可能だそうです。最も気をつけなくてはいけないのは高LDL(悪玉)コレステロールと難聴。悪玉コレステロールが原因で動脈硬化になると、脳血流の低下を招き、脳にダメージを与えるといわれています。
また、悪玉コレステロールがアルツハイマーの原因物質とされるアミロイドβの脳内の蓄積を促すという報告もあります。
※https://theotol.soudan-e65.com/risk-reduction/guideline/who-guideline_point008
難聴がなぜ認知症のリスクを高めるかというと、コミュニケーションが難しくなり、社会からの孤立を招く可能性があるからです。ただし難聴の人を対象とした研究の結果補聴器を使用している人は、していない人と比べて認知症リスクが17%も低かったとか。
なかには「補聴器は年寄りくさい」とか「面倒くさい」などの理由で、難聴なのに補聴器を使わない人もいるようです。でも、認知症になるくらいだったら、補聴器を使ったほうがずっといいと思いませんか?
この2点に次いで大きなリスク要因が、社会的孤独です。社会や人との接点が少なくなったり、家族に先立たれたりして孤立した結果、人との会話が減ると、脳への刺激が少なくなります。
認知症を予防し、80代以降をイキイキと過ごすためには、社会との接点を失わないことがとても重要です。
ランセットの報告書を参考にすると、悪玉コレステロールを減らし、難聴対策を行い、社会との接点を持ち続けているだけで、認知症になるリスクが19%も下げられることになります。さらに適度な運動を取り入れると、リスクが21%下がります。これは、かなり大きな数字だと思いませんか?
悪玉コレステロールを減らすには、有酸素運動と健康的な食習慣が有効です。
また、睡眠障害がある成人の脳には、アルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドβや「タウ」というたんぱく質が多いという研究結果もあります。やはりしっかり睡眠をとることは、とても重要です。
■知っておきたい認知症のしくみ
では、認知症はどうして起こるのか、簡単にご説明します。
認知症のなかで最も多いのがアルツハイマー型で、認知症の原因の約七割を占めています。これは長い年月をかけて蓄積したアミロイドβやリン酸化タウといったたんぱく質によって神経細胞が破壊され、脳の萎縮が起こるアルツハイマー病が原因となって発症する認知症です。
特に記憶の中枢である海馬にアミロイドβが沈着し、神経細胞が傷つき、やがて脳の萎縮につながります。
アミロイドβが脳に沈着し始めてから認知症を発症するまでには、20年くらいかかるともいわれています。ということは、80歳で認知症を発症した人は、60歳くらいから原因物質がたまり始めていることになります。

アルツハイマー型認知症に関しては、発症しやすさに関係している遺伝子も見つかっているようですが、発症するかどうかは先天的な要因でのみ決まっているわけではありません。ただ少数派ですが、若年で発症するアルツハイマーの中には「家族性アルツハイマー」と呼ばれているタイプがあり、遺伝子の変異が関係しているといわれています。
アルツハイマー型認知症に関しては、近年、初期の段階で投薬すると進行が抑えられるとされる医薬品も開発されています。早めに専門医の診断を仰ぐとともに、進行を遅らせる生活習慣も合わせて対策を講じることで、認知機能の低下を抑制すことが可能です。
血管性認知症は、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れることで起こる認知症です。
ダメージを受けた脳の部位によって、症状が異なるため、「できること」と「できないこと」に差が出るのも特徴のひとつです。
私の夫が罹ったレビー小体型認知症は、レビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が脳に蓄積し、細胞を破壊して起こるレビー小体病が原因となる認知症です。
特徴として、現実には見えないものが見える幻視があります。子どもの頃、山梨県の田舎で育って自然が身近だった夫は、うちの庭に野生の動物がやって来て縄張り争いをしている様子が見えていたようです。
手足が震えたり筋肉が固くなったりといった症状も現れ、歩幅が小刻みになり、転びやすくなります。前頭側頭型認知症は、性格や行動の変化が特徴で感情のコントロールができなくなったり、突飛な言動が増えたりします。いずれにせよ、ちょっとおかしいかなと思ったら、早めに医療機関で診察を受けるようにしましょう。

■料理をすると認知症予防に
料理は段取りが必要なので頭を使い、同時に手も使うので、認知症予防にいいといわれています。料理でできる健康対策として料理としては、カルシウムの量をざっくり頭で計算したり、脂質を減らしてどうおいしいおかずを作るかを考えたり、栄養素のことを考えてメニューを組み立てようとすると、けっこう脳を使います。ですから料理は体のためだけではなく、脳のためにもいいんですね。
毎日のことなので億劫に感じる日もあるかとは思いますが「これも脳トレ」「アンチエイジングのキーポイント」と自分に言い聞かせて、ちょっとがんばってみてはどうでしょう。そして月に1回か2回は、がんばった自分へのご褒美で、ちょっとリッチな外食をするのもいいかもしれません。新しいメニューの勉強にもなりますよ。

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菅沼 安嬉子(すがぬま・あきこ)

内科医

1943年、東京都生まれ。1968年、慶應義塾大学医学部卒業。現在、菅沼三田診療所副院長。地域医療に貢献するとともに、長年、産業医としても働く人の健康を支えてきた。1985~2000年までの15年間、母校の慶應義塾女子高等学校で保健授業の講師を務めた。2001~2008年、慶應義塾大学看護医療学部講師(臨床栄養学)。
2020年、女性で初めて慶應連合三田会会長に就任。

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(内科医 菅沼 安嬉子)
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