※本稿は、森川友義『政治家の「答えない」技術』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■政治に「感情」を持ち込む弁士
政治家の話を聞いていて、うなずきながらもどこか息苦しくなることがある。それは、話の内容に納得しているからではなく、うなずかないといけない雰囲気に包まれてしまったときに起こる現象である。
神谷宗幣の語りには、まさにそうした空気が漂う。荒々しさはない。高圧的でもない。真剣で、誠実である。したがって否定しづらい。しかも彼は、情熱や怒りといった感情をあからさまに表現しない。その代わり、使命感や道徳心を前面に押し出すことで、聞き手の理性ではなく「責任感」に訴えてくる。
神谷宗幣という政治家は、感情を政治に持ち込む。彼が拒絶するのは「感情の不在」であり、「形式だけの政治言語」である。
たとえば、「我々にはやるべきことがある」と語られたとき、そこに異を唱えるのは難しい。やるべきこととは何か、誰が決めたのか、本当に今すぐ必要なのか、と問い直す間もなく、「あなたはやらないのか?」という視線がこちらに向けられる。神谷の言葉は、論理ではなく空気で納得させる。内容を受け入れるというより、構造に巻き込まれる。
■断定と問いかけが特徴の神谷構文
図表に代表的な神谷の発言を掲げた。神谷構文をまとめるならば、使命感を帯びた断定と、聴衆の感情を揺さぶる問いかけである。
たとえば「我々は国を守るという観点からこれをきちんと有権者に訴えていく」という発言は、政策論争ではなく国防や存続の問題として話題を格上げし、異論を封じる効果を持つ。
また「利権や支持団体にとらわれず国会ではっきりと正論を語れる『日本人ファーストの政治家』を一人でも多く議会に送り込むしかありません」という言葉は、既存政治家と自分たちを対比させ、唯一の選択肢として支持を迫る。
「行き過ぎた外国人受け入れに反対」は、極端さを強調することで聴衆の不安を刺激しつつ全面否定を避ける。柔らかく見せながら移民規制を正義として描く言葉である。「子どもたちに、安心して未来を託せる日本を残したい」は、無垢な存在を主語に据えることで道徳的に反論できない状況をつくり出し、感情的な共鳴を誘う。
さらに「日本を守るために行動しなければ、間に合わない」は、切迫感と行動の即時性を強調する典型であり、選択肢を奪い「動くか否か」に聴衆を追い込む。
■神谷宗幣とトランプの共通点、違い
これら5つの発言は、使命感・不安・未来・敵対・危機感という要素を組み合わせ、論理よりも感情で支持を形成する神谷流の言語戦略を端的に示している。神谷の語りには、本気で語っているという空気が常に漂う。
その空気は、理屈や数字よりも強い説得力を持つ。聴衆は、話の中身よりも「この人は信じているかどうか」に反応する。その結果、語られている内容に多少の粗(あら)があっても、「思いの強さ」で押し切られる。
この発言は、熱量の発露である。声の大きさだけではない。感情を込めて熱を伝えることで、かえって静かな圧力が生まれる。
この手法は、米国のドナルド・トランプ大統領にも見られる。「自分は戦っている」「自分には使命がある」と繰り返すことで、他のすべての選択肢が霞んでいく。神谷の語りもまた、同じ仕組みで動いている。
ただし、トランプは笑いをとる余裕を残す。一方、神谷の言葉には、冗談がない。真剣さのみで構成されている。その違いが、印象としての「重さ」につながっている。トランプが怒りと嘲笑を混ぜて話すのに対し、神谷は義務と真顔で語る。笑える言葉と、背筋が伸びる語り。その違いがある。
■言葉を冷静に見る力が重要
神谷の言葉は、今や一人の政治家の話し方を超えて、特定の政治的言語スタイルとして完成しつつある。
問題は、熱があまりにも強すぎるときである。熱にあてられて行動してしまう前に、言葉の構造そのものを冷静に見る力が必要になる。使命感は重要であるが、使命の演出が過ぎると、それはもはや政治的構文ではなく、精神的な呪文へと変質していく。神谷の語りは、その一歩手前にある。したがって、ただの言葉遊びとして片づけず、その構造を見極める目が求められている。
はっきりものを言う神谷構文は、トランプ構文と同じように、SNS時代では、諸刃の剣である。熱烈な支持者と熱烈な反対派を同時に生んでしまう危険性があるが、確固たる支持者を増やしたい攻めの神谷宗幣としてはあえてそうしているものと推察する。
■神谷構文の特徴
神谷構文にはいくつかの特徴がある。第一の特徴は、善悪の話にするという点にある。経済政策、外交、安全保障、どのテーマであっても、最終的には「正しいかどうか」の判断軸にすり替えられる。
正しいことを選ぶのは当然。そう思わせる語り口で話が進められる。これが強い。正論とされるものに反論するには、勇気が要る。それだけでなく、同調圧力に抗う意志も必要になる。
だから神谷のスピーチには、異論が出にくい空間をつくる。聴衆の中には、考えが違う人もいる。意見を保留したい人もいる。それでも、「今決めなければならない」「子どもに背を向けるのか」と問いかけられた瞬間、誰もが沈黙せざるをえなくなる。
議論ではなく、覚悟を問うスタイル。この語りに慣れていない者ほど、気づかぬうちに「そう思わされていた」という感覚に陥る。
第二として、神谷の演説には問いかけが多い点が挙げられる。
「変だと思いませんか」と聞かれて「いや、別に」と答えられる空気ではない。この語りは、疑問形をしていながら、実質的には「誘導」である。
■自由という名の誘導
自由に考えていいと言いながら、正解を決めて待っている。子どものテストで「思ったことを書いていいよ」と言われながら、模範解答が用意されているのとよく似ている。
しかもその誘導は、じわじわと丁寧に行なわれる。唐突に結論に飛ぶのではなく、少しずつ論を積み重ね、道徳的な正しさを織り交ぜながら、聞き手を「考えさせる」ふりをして「同意させる」地点へと導いていく。このプロセスにおいて、神谷構文は極めて洗練されている。
彼は、「私の意見を押しつけたいのではない」というスタンスをとる。そのうえで、「自分で考えてみてください」と呼びかける。この一言によって、聞き手は「考えて自分で選んだ」と思い込むことになる。実際には、その選択肢はほとんど用意されていなかったにもかかわらず、である。
こうして神谷の語りは、「押しつけではない共感」「選択ではない決断」を聴衆に抱かせる。これは、非常に高い技術である。誰でもできるわけではない。なぜなら、ここにはひとつの前提条件が必要になる。「本気で語っているように見えること」、これがすべての土台である。
このように、神谷の言葉は表面上丁寧で民主的な顔を持ちながら、実際には強力な誘導力を内包している。問いの形をとりながら、実は答えを決めている。選択の自由を装いながら、実質的には道を一本に絞っていく。そのプロセスにおいて、神谷の言葉は議論のツールではなく、覚悟のツールとして機能している。
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森川 友義(もりかわ・とものり)
政治学博士
早稲田大学国際教養学部教授(前職)。1955年群馬県生まれ。早稲田大学政経学部卒、ボストン大学政治学修士号、オレゴン大学政治学博士号取得。国連勤務後、米国ルイス・クラーク大学助教、オレゴン大学客員准教授等を経て、現在に至る。専門は日本政治、恋愛学、進化政治学。政治学の著書としては『60年安保 6人の証言』(編著、同時代社)、『若者は、選挙に行かないせいで四〇〇〇万円も損している!?』、『どうする!依存大国ニッポン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『生き延びるための政治学』(弘文堂)等がある。
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(政治学博士 森川 友義)

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